![]() | ルポ貧困大国アメリカ (岩波新書 新赤版 1112)堤 未果岩波書店このアイテムの詳細を見る |
★ 超大国アメリカ。繁栄の頂点に達したかに見えたこの国の傲慢さ、もろさが21世紀になって暴露されてきた。1つは大量破壊兵器の存在をでっちあげてイラクに侵攻したこと。1つは経済格差の現実である。
★ 堤未果著「ルポ貧困大国アメリカ」はこうしたアメリカの現実を痛いほどえぐり出している。
★ 教育、医療の民営化。「民営化」といえば効率化が図られ、競争によってサービスの向上が実現できると言う印象があるが、反面、それは営利を目的とする活動であるから、弱者切捨てになりやすい。
★ 世界経済を大きく揺るがしているサブプライムローンにしても、手段を選ばない収奪装置だとも言えよう。
★ 経済格差拡大の現実は度重なるハリケーンの被害が物語っている。
★ こうした現実を踏まえて、「教育」「いのち」「暮らし」といった政府の主要な仕事が「民営化」され、市場原理で回されるとき、はたしてそれが「国家」と呼べるのか(10p)と著者は問題提起する。
★ 私が最も衝撃的だったのは、貧困と兵士調達のメカニズム、そして「民営化された戦争」という字句だった。今や戦争もビジネスとなっているのだ。国家のリーダーがいかに大義名分を演説し、合衆国憲法がいかに高尚な理念を掲げようとも、現実は金儲けの構造ではないか、と思った。
★ 大衆をうまく口車に乗せ、体よく搾取する。アメリカと言う国の裏側には大きな権力構造が潜んでいるような気がした。政治家もまた彼らの捨て駒なのかもしれない。
★ 本書では9.11以降のマスメディアの動向にも批判を加えている。自国が攻撃を受けたことに対して感情的になるのは当然だ。しかし、メディアが一斉に愛国心を吹聴した背景には大資本に牛耳られるメディアの現実があるという。
★ 著者は「民主主義には二種類ある」と述べる(186p)。国民が指導者にとって都合の良い「消費者・捨て駒」と扱われるか、尊厳をもった「いのち」として扱われるかだという。
★ いささか極端の感もあるが、確かに真理の一面を突いている。問題は時として国民が前者のようなリーダーを選んでしまうことである。例えば、小泉首相の高人気は一体何だったのか。ヒトラーだって最初から軍の力を背景に政権を掌握したのではなかろう。
★ 誰が加害者で、誰が被害者なのか、この見えにくさが問題を難しくしているように思える。その混乱を尻目に富を蓄積し、権力を拡大している人々がいるのだろう。
★ 本書は小泉改革以降の日本への警告の書である。