じゅくせんのつぶやき

日々の生活の中で感じた事をつぶやきます。

西村賢太「小銭をかぞえる」

2022-01-08 18:58:05 | Weblog
★ 世の中には困った人がいるものだ。本人にとっては必要不可欠なもので、それへの執着こそが自らの存在意義なのだろうが、傍から見ると道楽にしか思えないことに散財する。

★ それもお大尽の道楽なら、世にカネを回す効果もあろうが、カネもないのに欲望が優先し、足らないカネは他人に無心してその場を凌ぐ。少なくとも友人には持ちたくないタイプだ。

★ 西村賢太さんの「小銭をかぞえる」(文春文庫)から表題作を読んだ。この作品の主人公こそまさにそうした人物だ。心酔する作家の全集を刊行する(実質は自費出版)ために、なけなしのカネをつぎ込む。しかしまともに働いているわけではなく、生活費は同棲している女性に支えられている現状。彼が目指しているものは背伸び以上の何物でもない。

★ 支払いに行き詰まり、男は金策に走る。しかし、既に借金を数々踏み倒しているだけに、当然ながらカネを貸してくれる人は見つからない。どうにも行き詰って同棲している彼女の実家を当てにするが、実家にも既に多額の借金がある。

★ 見栄や理想ばかりが高く、どうしようもない男に遂に彼女も愛想が尽きたのか。物語はこれからの不穏な展開を思わせながら余韻を残して終わっている。タイトルの「小銭をかぞえる」は終盤の修羅場の場面。描写が生き生きとしている。私小説だというから、現実味がある。

★ 私小説好きの大学入試共通テスト(センター試験)だが、この作品は取り上げられないだろうなぁと思った。

★ (男の生きざまは実に不快なのだが、読んでしまうんだよね。作家の技かな。)

★ (追記)藤澤清造「根津権現裏」(新潮文庫)から西村賢太さんによる「解説」を読んだ。この作品によって人生が変えられたと述べ、清造の歿後弟子を自認するだけあって、この解説には力がこもっている。

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