じゅくせんのつぶやき

日々の生活の中で感じた事をつぶやきます。

堂場瞬一「誤断」

2021-02-13 16:24:18 | Weblog
★ 堂場瞬一さんの「誤断」(中公文庫)を読んだ。

★ ある製薬会社の薬を服用した人の事故死が相次いだ。意識障害を起こしての突然死。警察は事故としたが、その製薬会社を実質的に切り盛りする副社長は広報部の若手社員・槙田高弘に隠密裏に調査を命じる。

★ 調査の結果、意識障害を起こす成分の混入がわかる。副社長は秘密裏に商品を回収、服用して事故死した遺族に「見舞金」で口封じをしようとする。隠蔽であった。

★ 同時期、同社が40年前に起こした公害事件が発覚する。当時は多額の補償金を支払い隠蔽に成功した(この当時の補償交渉をしたのが今の副社長であった)。ところが時を経て、当時と同じ症状を訴える患者が増えてきた。集団訴訟の動きもあるようだ。会社は、再び槙田を使って隠蔽を企てるのだが・・・。

★ グローバル化の中で経営が傾き、外資企業との合併(実質的には吸収)に活路を見出そうとする企業。そのために不都合な過去を隠そうとする経営陣。根強く残る創業一族の影響力。日本の企業は今なお封建時代の「お家」のようだ。

★ サラリーマンとして表も裏も知り尽くし、出世街道を昇りつめた副社長。会社第一(お家大事)のそれは藩の家老、商家の番頭そのものだ。コンプライアンスよりも会社の存続、会社の利益を使命とする。

★ しかし、参謀やナンバー2の人物が必ずしも経営者に向いているとは限らない。経営者にはそれに見合う「器」が備わっていなければいけない。このあたり勉強になった。

★ さて、密室での意思決定、隠蔽体質。これはなくなりそうもない。
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吉村昭「梅の蕾」

2021-02-12 16:55:18 | Weblog
★ 吉村昭さんの「遠い幻影」(文春文庫)から表題作と「梅の蕾」を読んだ。

★ 「梅の蕾」は岩手県の寒村の村長の話。彼は村長に就任以来、新たな産業を興し、道路や鉄道整備に尽力し、三陸海岸の絶景を生かした観光業にも成功をおさめてきた。残る課題は、診療所の医師の確保であった。

★ 八方手を尽くし探しては見たものの、東北の寒村に腰を落ち着けてくれる医師は見つからず、半ばあきらめていた。そんなとき、千葉の癌センターで主要なメンバーとして勤務する医師が、赴任してくれるというのだ。

★ 反対する妻の説得、まだ小学生の子どもの教育のことなど、課題はあったものの、医師の赴任に村長は天にも舞い上がる気分だった。

★ しかし、医師がこの地に勤務するにはある事情があったのだ。

★ 終盤のシーン(医師夫人の葬儀の場面)で胸が熱くなった。人の心の温かみが伝わってきた。


★ 表題作は、戦争が激しくなる昭和15年夏ごろの出来事を回想している話。出征兵士を見送る家族を急行列車がはねたといううろ覚えな記憶を探っていく。記憶が薄れるように、戦争もまた「遠い幻影」になっていくようだった。
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映画「空母いぶき」

2021-02-11 16:20:52 | Weblog
★ 京都の私立高校受験はほぼ終わって結果待ち。少し時間ができたので、映画「空母いぶき」(2019年)を観た。久々に集中できる日本映画だった。

★ 冒頭、近未来の話というクレジットが出る。フィリピン北東の海上に位置する「東亜連邦」という新興国が領土拡大を狙って、尖閣諸島付近の初島という離島を占領。自衛隊は直ちに海上警備行動を実行するが、自衛隊機が撃墜されるに及んで、内閣総理大臣は防衛出動を発令する。

★ 空母いぶきを中心とする船団が初島に向かうのだが。

★ 劇中のほとんどは、戦闘場面に割かれている。潜水艦、艦船、戦闘機、空に海上に海中にと、最新の兵器が次々と飛び出してくる。緊張が高まり続けるが、ときおり挟まれている取材クルー(本田翼、小倉久寛)や一見関係なさそうなコンビニの風景(店長の中井貴一さんのコミカルな演技)が心やすめになる。

★ 総理大臣役は佐藤浩市さん。外務省(アジア太平洋局長)の吉田栄作さんの風貌と護衛艦いそかぜ艦長の山内圭哉さんの関西弁が印象に残った。

★ 「東亜連邦」という架空の国を設定したのには政治的な配慮があったようだ。それはともかく、政治的な問題は横においても、編集、撮影、特撮などよくできていたと思う。楽しめた。
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ドラマ「モンローが死んだ日」

2021-02-09 02:21:23 | Weblog
★ NHK BSプレミアムドラマ「モンローが死んだ日」(2019年)を観た。原作は小池真理子さん。「恋」と同じように軽井沢が舞台だ。

★ 50歳を迎えた幸村鏡子は夫に先立たれ、2匹の猫と孤独な暮らしをしていた。「もし私が死んだらこの子たちはどうなるのだろう」。将来への不安が彼女の心身のリズムを狂わせ、ある日、ショッピングセンターで倒れてしまう。

★ たまたま通りがかった知り合いに助けられ、彼女からクリニックの精神科を受診するように勧められる。勇気を振り絞り、診察に臨む鏡子。精神科医、高橋(59歳)に苦しみを打ち明けることによって、鬱状態から徐々に回復していく。

★ 精神科医と患者は疑似恋愛のようなものだというが、それが本当の恋愛に進むかに見えた。その時、高橋が姿を消す。彼には大きな秘密があったのだ、という物語。

★ 「人はみんな孤独の中で生きている」

★ 突き刺さるセリフだ。エンディングの雪の風景が美しかった。
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島本理央「ファーストラヴ」

2021-02-07 20:27:28 | Weblog
★ 島本理央さんの「ファーストラヴ」(文春文庫)を読んだ。

★ 放送関係に就活中の女子大生・聖山環菜が二次選考の途中で気分が悪くなり、局を出た後、父親が勤める美術学校で父親を刺殺するという事件が起こった。父親は名の知れた画家で、娘が放送関係に就職することに反対していたというが、それだけで人を殺すとは思えない。

★ 警察の取り調べに、彼女は「動機はそちらで見つけてください」と言ったという。彼女の弁護を引き受けた庵野迦葉弁護士は義理の姉である臨床心理士の真壁由紀と事件の真相を追うことに。彼女はなぜ父親を殺したのか。動機は何か。

★ 事件を追う中で、環菜自身が自覚していない彼女の閉ざされた過去が明らかになっていく。同時に彼女を取り囲む人々、彼女の両親をはじめ、真相を追い求める迦葉や由紀の過去も。

★ 「今」は過去の積み重ねの上にある。

★ NHK BSプレミアムドラマ「ファーストラヴ」(2020年)も観た。由紀役の真木よう子さん、環菜役の上白石萌歌さんが印象的だった。小説を読んで「椿」の意味が分かった。
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ドラマ「歪んだ波紋」

2021-02-06 23:34:38 | Weblog
★ NHK BSプレミアムドラマ「歪んだ波紋」(2019年)を観た。原作は「罪の声」の塩田武士さん。

★ マスメディアの誤報、虚報(でっち上げ)が、どれだけ人を傷つけるのか。マスメディアがかつてほどの権威を失い、誰もが情報を発信し、誰もがその受け手になれるネット社会の中で、ジャーナリズムとはどうあるべきかを考えさせられた。

★ 番組は法事の場面から始まる。一癖も二癖もありそうな記者たちがかつての同僚を偲んで集まっていた。すでに引退した老練な記者役を長塚京三さん、イッセー尾形さんが演じる。昔はこういう記者がいたなぁと感じた。

★ かつて「魔女の宅急便」でかわいいキキを演じた小芝風花さん。「美食探偵」の小林苺役も良かったけれど、今回は、見事に出産のシーンを演じていた。

★ 「闇のフィクサー」アンテゾン役の大八木敦史さんも、ハマり過ぎていて、びっくりした。

★ 長塚京三さん、イッセー尾形さん、角野卓三さんに対するは、その子ども世代の松田龍平さん、松山ケンイチさん。名優競演と言ったところだった。

★ ここ20年で時代は大きく変わった。とくにインターネット、スマホと言った技術革新は社会を変えた。その結果か、新聞の購読者数が驚くほど減っている。一方、ネットニュースやSNS、ユーチューバーなど、新たな媒体の躍進が凄まじい。

★ 受け手のメディアリテラシーがより一層求められる時代になってきたようだ。
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ラフカディオ・ハーン「日本の面影」から

2021-02-05 11:23:04 | Weblog
★ 先日読んだ角田光代さんの「かなたの子」に触発されて、ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)の「新編 日本の面影」(角川ソフィア文庫)から「子供たちの死霊の岩屋で - 加賀の潜戸」を読んだ。原文も良いのだろうが、池田雅之さんの訳が実に心地よい。

★ さて、通信社の記者として来日したハーン。バンクーバーから汽船で横浜に下り立った彼は、冒頭の「東洋の第一日目」という記事で、日本の第一印象を記している。人力車で街を巡回して彼が感じたのは、「小さな妖精の国のようだ」というもの。何もかもが彼のサイズからすると小さかったようだ。1890年(明治23年)、ハーンは40歳。

★ 同年、島根県松江に英語教師の職を得て赴任する。「新編 日本の面影」は、主にこの山陰地方で暮らした日々のことが書かれている。

★ 「加賀の潜戸」では山陰の御津浦から小舟に揺られ、日本海にまるで芸術品のように配置されている天然のアーチを巡る様子が記されている。神秘的な描写、そしてその地で暮らす人々の様子。目には見えなくとも、死者を想い、彼らと共に生きる人々の姿に思いやっている。

★ 面白いのは、都会から遠く離れた集落で、外国人の来訪は珍しかったのであろう。一見、全体が昼寝をしているかのような閑散な集落、しかしどう口づてに広まったのか、外人さんを一目見ようと人々が宿屋に押し掛けてくるところ。宿屋の主人が気を聞かせて障子や窓を閉め切るのだが、ちょっとした隙間からも覗き見る目、目、目。

★ ジャパニーズスマイルを浮かべるシャイな人々を、ハーンは決して嫌がらない。何となく仲良くなってしまうのだ。この辺りは苦労を重ねた彼の生い立ち故なのかも知れない。

★ 私は大学の卒業旅行でクラスの仲間たちと鳥取、島根地方を巡った。松江では「小泉八雲記念館」を訪れた。連日の酒宴で二日酔い気分での見学だったが、今では懐かしく思う。

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眉村卓「その果てを知らず」

2021-02-04 19:05:57 | Weblog
★ 私はあまり本を読まない子どもだった。本を読み始めたのは、小学校6年生の頃だったと思う。友人から数冊の本を借りた。古い読書記録のノートを見ると、エフレーモフ「アンドロメダ星雲」、ワイリー「地球最後の日」、パイパー「夜明けの惑星」だったようだ。

★ 「アンドロメダ星雲」は、ある宇宙飛行士が飛行中に「鉄の星」に着き、そこでアンドロメダ星雲からやってきた宇宙船と遭遇する。そして、二度と地球には帰れない天体に旅立つ。(というものだったらしい)

★ 「地球最後の日」は、「ブロンソンベータ」と「ブロンソンアルファ」という小惑星が地球に接近、「ブロンソンアルファ」が地球に衝突し、人類は「ブロンソンベータ」に逃げるというもの。確か映画化もされていたし、後の「アルマゲドン」や「ディープインパクト」にも通じるテーマだ。

★ 「夜明けの惑星」は、火星からやってきた者(火星人)が文明を築き、地球に元々住んでいたものをやっつけて地球を支配すると言ったもの。今から見えれば、ネアンデルタール人とクロマニヨン人の戦いのようだ。

★ このように私の読書体験はSF小説から始まった。当時、SF小説はまだ、他のジャンルに比べて一段低く見られていたようだ。1つのジャンルとして評価されるようになったのは、小松左京、筒井康隆、眉村卓、光瀬龍といった人々の努力の賜物だろう。

★ 功労者の一人、眉村卓さんの「その果てを知らず」(講談社)を読んだ。不治の病の床で記された眉村さんの遺作だという。内容は、せん妄かあるいは幻覚のような夢うつつの中で体験した物語、草創期のSF業界の様子、最後は、人間の生と死についてSF作家らしい追究が記されていた。

★ 私が面白かったのは、SF業界の話。早川書房らしき出版社の「SFマガジン」らしき雑誌に作品を発表する人々。偽名が使われているが、星新一、小松左京、筒井康隆、福島正実など、なんとなくわかる。裏話が面白かった。

★ さて、その後の私の読書記録(どうでもよいことだが)。SF小説に限って見れば、「銀河王国の地球人」(ハミルトン)、「ヨン博士の航星日記」(レム)、「太陽系の侵入者」(ポール・フレンチ)、「失われた世界」(コナン・ドイル)、「宇宙戦争」(H・G ウェルズ)、「燃える世界」(J・G バラード)、「第四惑星の反乱」(シルバーバーグ)、「わすれられた惑星」(ラインスター)、「宇宙人アダム・トロイ」(パチェット)、「SF教室」(筒井康隆)、「鋼鉄都市」(アジモフ)、「迷宮世界」(福島正実)、「月は地獄だ」(キャンベル)、「SOS地底都市」(マルテル)、「地球人よ警戒せよ!」(ポール・アンダーソン)、「人工宇宙の恐怖」(E.ハミルトン)、「AL76号の発明」(アシモフ)、「宇宙少女アン(ベティアンよ帰れ)」(クリス・ネビル)、「大英博物館の盗賊」(A・Cクラーク)、「武器なき世界」(カート・ボネカット)、「次元旅行」(R・Aハインライン)、「未来から来た男」(アルフレッド・ベクター)、「大氷河期の生存者」(R・シルバーバーグ)、「第五惑星から来た4人」(マレー・ラインスター)、「原子の帝国」(ヴァン・ヴォークト)、「ロボット文明」(ロバート・シュクリー)、「青い宇宙の冒険」(小松左京)、「宇宙怪人ザロ博士の秘密」(ハミルトン)、「銀河帝国の崩壊」(アーサー・C・クラーク)、「タイムマシン」(ロバート・アーサー)、「地球の叫び」(コナン・ドイル)、「猿の惑星」(ピエール・プール)、「悪魔の星」(ジェームズ・ブリッシュ)、「ねらわれた学園」(眉村卓)

★ ほとんどが中学生時代だったが、たくさん読んだなぁ。創元推理文庫のいくつかは今でも本棚に残っている。すっかり色あせ、ただでさえ紙質が悪い上に細かい活字で印刷されている。しかし、なかなか捨てることができないでいる。

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福沢諭吉「福翁自伝」

2021-02-03 16:19:28 | Weblog
★ 2月3日は、福澤諭吉の命日だということなので、本棚から「福翁自伝」(岩波文庫)を取り出して、あらためて読んでみた。

★ 自伝といった類は、晩年に感慨にふけりながら自らの生涯を振り返るようなもので(もちろん不都合なことは敢えて書かなかったりする)、ナルシズムの極致と言える、諭吉さんぐらいの偉人になると、研究上重要な資料となる。そもそも、語り口調(今読んでもまったく違和感がない。むしろ所々に使われているカタカナなど、新しさせ感じる)なので、読んでいて面白い。

★ 巻末を見ると1985年6月25日読了とあるから、私は20代の後半に読んだようだ。諭吉の立身出世に心を驚かせて読んだのだろう。

★ ちょうどその頃、テレビで諭吉を主人公とした2つのドラマがあった。1つは「若き血に燃ゆる」(1984年)で、もう一つは「青春グラフィティ 福沢諭吉」(1985年)。

★ 「若き血に燃ゆる~福沢諭吉と明治の群像」は12時間ドラマということで、当時、ビデオに録画したものが残っている。諭吉役は中村雅俊さんで、「自伝」にほぼ忠実に描かれていた。

★ 「青春グラフィティ 福沢諭吉」は、1982年に放映された「青春グラフィティ 坂本龍馬」の第2作とも言うもの。諭吉役は当時の中村勘九郎さん(後の18代目中村勘三郎さん)だった。BGMがサイモンとガーファンクルで、「青春」に焦点が当てられていたように記憶している。

★ 「自伝」を読むと諭吉の生涯を通して、幕末から明治にかけての社会の大きな移り変わりを知ることができる。私は、「適塾」あたりの記述が好きだ。日本中から集まった若者たち。不潔でカネもなく、有り余ったエネルギーを発散させながら、ただ希望だけを胸に勉学に励む様子が印象的だった。明治という時代はこうした人々によって構築されたのだ。今さらながら緒方洪庵という人は偉いと思う。

★ 何もないけれど、途方もなく楽観的な人々。今の私たちに欠けているものを考えさせられる。
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ドラマ「珈琲屋の人々」

2021-02-02 16:03:14 | Weblog
★ NHK BSプレミアムドラマ「珈琲屋の人々」(2014年)を観た。良いドラマだった。

★ あることが原因で殺人を犯してしまった宗田行介(高橋克典さんが演じる)。情状の余地が大いにあったのだが、根が正直すぎて、刑期を満期務めて出所。入獄中に亡くなった父親の跡を継いで下町の路地にひっそり佇む「珈琲屋」を営んでいる。

★ 人生に迷った人々がふと立ち寄り、宗田の淹れるコーヒーに心を癒す。

★ 「一杯の珈琲が人生を変えることもある」。それが宗田が父親から受け継いだ教訓だ。

★ しかし、宗田の心が晴れることはない。「人を殺すということは、人間でなくなるということだ」と自分を責める。命を奪った男の妻(木村多江さんが演じる)に許しを求める手紙を送り続けていたのだが。

★ 不器用で寡黙な宗田は、かつての高倉健さんのようだ。花屋の主人を演じる八嶋智人さんが軽薄な感じで、それが宗田を一層引き立てているように感じた。

★ それにしても、コーヒーがうまそうだ。

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