うたたね日記

アニヲタ管理人の日常を囁いております。

fingertip

2021年10月16日 20時27分54秒 | ノベルズ
外に出たら、ツン、と冷たい風の匂いがした。
珍しく海風が秋の気配を運んできてくれたらしい。
オーブは温暖な国だから、冬になってもそこまで寒くなることはない。寧ろプラントの気象プログラムの方が余程冷たさを実感してきたので、久しぶりに懐かしい感覚だ。
「ハー…」
指先がかじかみ、無意識に温かな息を吹きかける。
「オーブは他国への侵略をしない」―――かの国の主義のお陰で、寒冷地に出動することは滅多にない。ZAFTにいたときの方が、ベルリン等余程寒冷地に出撃していた。なので衣料品も支給されていたが、あの時に不要なものは全て置いてきてしまった。
そんなことを思い出していると
「待たせたな、アスラン。遅くなってすまん」
「いや、俺も今来たところだから。」
俺を見かけるや、片手をあげ、小走りにやってきた彼女は、秋風がコーディネートしてくれたのか、珍しくホットパンツに長袖のジャケットを羽織ってきた。
久しぶりに休日が重なったので、一緒に出掛けないか?という誘いをかけてみたら、彼女は喜んで即答してくれた。
「さて、今日は何処に行く?」
「そうだな…」
正直、何処だっていいのだ。何せ普段が一般人の考える日常とはかけ離れすぎている。政治家と軍人。規律と人の目に日々緊張を強いられているのだから、こうした解放感を彼女と共に誰に邪魔されることなく得られるのであれば、何もしない時間でさえ一級の貴重品だ。
でも折角なのだから、雰囲気のあるところを選びたい。
しかし、こういう時に限って何も思い浮かばない自分に気づく。昨夜は何度もサーチをかけたが、調べている間に寝落ちしてしまい、気づけば朝というオチだった。
この場で頭をフル回転させていると、下からじ~~っと彼女の視線。
(まずい…ちゃんとエスコートしないと…)
彼女は十分に俺の性格を理解してくれている。もちろん、こういうことが苦手だということも。だがここで俺の成長を一つ見せてやらないと、何時まで経っても彼女に守られている感覚だ。これは流石に俺のプライドが許さない。二人の距離はもう十分近づいている、と思いたいが、最後の一線を越えるには、俺の勇気が必要だ。
必死に考え込んでいると
「ハー…」
「?アスラン、寒いのか?」
「え?」
「いや、だって今息で手を温めていたし…」
「あ、いや、寒くなるとつい癖で…」
「珍しいよな。オーブで急に冷え込んでくることは滅多にないんだが。海流が変わったのかもしれない。」
そう言って彼女は目を閉じ、クンクンと風の匂いを嗅いでいる。長年住み慣れた土地であっても、今日の冷え込みはカガリにとっても滅多にない経験らしい。
(そうだ―――!)
「だったら温まるところに行かないか?」
「そうだな…どこかお店とかゆっくりできるところがあればいいけれど。」
これで決まり。とりあえず知っているカフェ、あるいはレストラン、そこに足を延ばしてみる。
なのだが…

「は~。まさかどこも一杯だったなんて…」
「仕方ないな。丁度お昼時だし。」
まさかの締め出しを食らうとは。身分を明かせば入らせてくれるかもしれないが、そこは特別扱いを嫌うカガリが絶対に譲らないところだ。
仕方なく外を当てもなく歩く。動いていれば少しは温かい。だが体幹は温まっても、抹消はなかなか気温に打ち勝てない。
「ハー…」
「やっぱり冷たそうだな、アスランの手。手袋くらい持っていないのか?」
「あぁ、ZAFTにいたときは「寒冷地用衣料品」で支給されていたんだけど、全部置いてきたから。」
「置いてきた、というか、身一つで脱走してきたからな。」
「…」
弁解のしようもない。流石に少し落ち込む。すると
「ちょっと、こっち来いよ。」
「え?」
「手を出せ。」
「?」
いわれるがまま両手を差し出す。するとカガリの柔らかな手が
<キュ…>
(―――!)
俺の手を包み込んでくれた。
ホカホカとして温かくって…
「どうだ?私はそこまで冷えてないから、少しお前に私の熱を分けてやる。」
そう言ってちょっと背筋をピンと伸ばして威厳を示した彼女が笑う。
「何もないなら分け合えばいいさ。お前が無人島で私に食糧分けてくれたしな。これはそのお礼だ。」

小さな小さなプレゼント。形もない、見ることもできないプレゼント。
だけど、今までで一番心が躍る、この温もり
先ほどまであった焦りや心細さも全て昇華していく
血のつながった家族もいない
政治家と軍人
国と軍の上層階級
でも、本当に欲しいものは、一般人より何も持っていない。
だから、こんな些細な当たり前が、何より愛おしく価値がある。

このまま握り返そうか、そう思ったら一瞬彼女が早かった。
「そうだ、お前の誕生日のプレゼント。ちょっと早いけど手袋買いに行かないか?」
彼女の金眼がキラキラ輝く。
確かに、それはありがたい申し出ではあるが…
「いや、手袋はいらないよ。」
「何でだよ?確かにオーブじゃ滅多使わないけど、あっても損はしないだろう?」
「でもそうすると、一番欲しいものが手に入らなくなるから。」
「は?「一番欲しいもの」?」
カガリが小首を捻っている間に、握られていた手をつなぎ直してそのまま歩き出す。

一番欲しいもの

―――「君の温もり」

手袋なんて買ったら、もう味わえないじゃないか。

・・・Fin.


***


お久しぶりにぱぱっと書いてみました小話です。先日ツイッターさんのフォロワーさんが描いていらっしゃった秋のアスカガの寄り添う絵を見て、思わずコメントした内容が↑な感じだったので、ちょっと文章にしてみました。

それだけです。

え?29日のアス誕記念SSですか?

えーと・・・

・・・

・・・

まだ浮かんできません<(_ _)> 
あと2週間切ってるのにヤバいっす💦
コメント
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