KANCHAN'S AID STATION 4~感情的マラソン論

マラソンを愛する皆様、こんにちは。
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アーカイブス「マラソン春秋」vol.9

2007年03月15日 | 「マラソン春秋」アーカイブス
僕の「土佐日記」~嵐に屈した日
at 2004 03/28 21:42

 3月16日(火)

愛媛新聞朝刊の一面トップは「土佐にアテネ切符」の見出しで、彼女の笑顔のVサインの写真がカラーで大きく掲載された。そして、同じ日にウズベキスタンのタシケントで行われた五輪最終予選で3位に入賞し、アテネの出場権を得た男子レスリング・グレコローマン84kg級の松本慎吾(愛媛県立津島高校出身で、県内の企業、一宮運輸に在籍)のことも伝えていた。

スポーツ面でも、名古屋での彼女の勇姿をカラー写真で大きく伝えていた。愛媛新聞以外の他の新聞が一面で大きく伝えた、金メダリストの落選記者会見の写真は、モノクロだった。

一面のコラム「地軸」(「天声人語」や「産経抄」にあたる欄)でも、土佐さん礼賛である。

仕事のかたわらで、ケータイで掲示板をチェックする。きているきている。見つけては削除。
それにしても、僕の関知しないところで、誰が何を書こうが勝手だが、なんでわざわざ(おそらくは検索サイトを使って)やって来てまで、彼女の応援掲示板に罵詈雑言を書き連ねるのか、それが僕にはわからない。

で、こういう手合いは意外とバカではないというか、少なくとも、陸連の会長が、中国や韓国に対しては腰が引けていた元外務大臣である、ということを知っている程度の知識と情報は持っているようだ。そのことと、今回の選考を無理矢理結びつけて、
「売国奴の河野が、中国へのご機嫌とりで、勝てそうな高橋を外した。」
などと書いているのを見つけた時は、ぞっとした。この分だと、もし中国の孫迎傑や、北朝鮮のハン・ボンシルが金メダルを獲ったりしたら(可能性は決して低くない、と思う。)どうなることやら。

それにしても、こんな事を言うと笑われるかもしれないが、パソコンを買い、インターネットを楽しむ、というのは僕の感覚では、「かなり贅沢な趣味」だと思う。少なくとも、子供にパソコンを買い与えることができる家庭、というのはけっこう生活水準が高い方だと思う。僕なんか自慢じゃないが、親から買ってもらったおもちゃで一番高いものは自転車だ。バイクもクルマも、アルバイトか、就職後の給料を貯めて買った。

そんな、「生活に余裕がある」であろう人たちが、なぜこんなことで、ストレスを解消しようとしているのか?意外と、収入も高い、かなりの社会的地位にある人が、こんな風にネットで匿名でやり放題しているのかもしれない。

スポーツ紙では、落選した人の無念の記者会見の方が、晴れて代表入りした選手の喜びの声よりも大きく取り上げられている。いつものことではあるが、落選した人は常に「悲劇のヒロイン」であり、外した側は「極悪人」である。さらに今回は選ばれた選手(特に女子)はシンデレラの義姉である。そして、男子の代表選手は無視されたまま。

驚いた。彼女が結婚の約束をした恋人の存在を明らかにしていたからだ。

正直に言おう。4年前の名古屋の前から、その人の存在を知っていた。面識もある。愛媛の陸上関係者の間では有名なことだったのだ。金メダリストの恋人のことを写真週刊誌がすっぱぬいた時には、
「土佐はまだまだマイナーだから、写真週刊誌も相手にせんのやろなあ。」
と友人と話していた。本人の口から、こうして明らかにされるのは、予想外だった。まあ、すっぱぬかれるよりはマシだろう。

悪質な書き込みには、彼女の恋人をオリックスの谷と同一に扱うようなものもあった。仲間うちの酒席のジョークならともかく、見知らぬ他人には言われたくない。即、削除。

そういったものよりも、読まされて気が滅入るのは、彼女の能力について批判したもの、やれ
「アテネへ行くことだけを目的にした選手よりも、アテネで金が取れる選手を出せ。」
「金メダル取る自信がないのなら、辞退しろ。」
「闘争心や気迫が感じられない。」

そう思うのは勝手だが、「応援掲示板」に書くなよ!!

他の掲示板には、金メダリストにどっか南太平洋のちいさな国に国籍を移し、そこの代表になれだの、もう、アテネの女子マラソンは見ない!というのもあった。

以前、讀賣新聞の行った調査では、「人気のあるスポーツ」の第1位はプロ野球であり、2位はマラソンだったという。そんな日本人のマラソン人気の正体を見たような気がした。マラソンが好きというよりも、「国民的ヒロイン」である金メダリストが好きだったということだろう。彼女以外のランナーには興味がないのだろう。まして、男子のランナーなど知ったこっちゃないのだろう。まあ、プロ野球の人気だって似たようなものだろうけど。

仕事を終え、帰宅しながらもチェックしてみると、ついに来たかという感じなのが
「三井住友銀行(原文ママ)がいくら(裏金を)払った?」
とかいうもの。

「昨日のレースを見て、心が動かなかった者にマラソンを語って欲しくない!」
と書き込んだことさえ、空しく思えてきた。

そして、ついに決定的な書き込み。

それを今、ここに書き写すのはできない。僕も早く忘れたい、と思うようなひどいものだった。

こらえきれずに、友人に電話した。

「もしもし、どしたんやこんな時間に。」
「オレ、もうネットやめるわ。」
「どしたんや?おい!」
「掲示板、ひどいもんや、何もここまで・・・」
「どれどれ、わっ、これはひどいのう。普通ここまで書くか?」
「オレ、こんなイヤな思いするために、あの娘を応援してきたんじゃないで!くそばかがあ!あの娘が何やったいうんじゃ!一生懸命頑張った人間にこんなこと・・・お前ら、それでも人間か?日本人はいつからこんなに根性腐りきったんじゃい!(以下略)」
「落ち着け!泣くなよ、子供やないんやから!」
「・・・。ああ、わかった、すみません。」
「しばらく掲示板閉めることやな。」
「うん、そうする。オレの方が耐えられん。あっ、○○さん、息子には18歳になるまでインターネットやらせん方がええと思うよ。」
「わかったわかった。」
「すんません、夜中にこんな電話して。お休み。」

ケータイから設定ボタンを押して、掲示板を閉じた。昨日、負けるもんかと誓ったばかりだったのに。


僕の「土佐日記」:マスコミの正体が見えてきた
at 2004 03/30 22:06

 3月17日(水)

昨日一日のパケット通信使用料を調べてみた。通常の一週間分ついていた。これじゃあ、やれんわ。

今日が仕事休みである友人より電話。代表選考において、金メダリストを落選させる最終決断を下したのは陸連会長だったというスクープが出ているらしい。
もし、それが真実なら、ますます陸連会長は極悪人扱いされるだろう。それだけじゃない。

今回の女子代表3人は未曾有のプレッシャーを受けるだろう。メダルの色が銀や銅では、
「陸連はメンツにこだわり、金メダルのチャンスをどぶに捨てた。」
と信じている人たち(けっこう多いみたい)は納得しないだろう。誰かが、金メダルを獲れたとしても、
「本当なら、もう1つメダルが獲れていた。」
と言われるだろう。自分で自分をほめる以外は、誰にもほめてもらえない。表彰台を独占して初めて、
「ああ、今度の代表って、強かったんだな。」
と思ってもらえれば、まだましだ。

そもそも、メダルとは誰のものなのだ?

たまたま立ち寄ったところで産経新聞を目にする。一面のコラム「産経抄」が昨日の「ニュース23」の「筑紫哲也の多事爭論」と似たような事を書いている。普段なら対立している両者が、金メダリストの代表漏れを残念がる点で、一致しているのだ。

筑紫氏の立場ならば、憂うべきは、たかがマラソンの代表発表ごときのこと(あえて、そう言わせてもらう。)で、日本中が大騒ぎになること、夕方6時30分の全ての局のニュースが、金メダリストの顔を映し出すという現象の特異さ、本来なら祝福されるべき、正々堂々と死力を尽くして戦った選手が脅迫され、嫌がらせを受けているという現実、何がこんな異常な事態を生み出しているのかということを探るべきではないのか?

昼下がりのラジオのニュース、土佐は今日、帰郷したという。松山空港へ降りてきたとのこと。ゆっくりと休んで欲しい。大好物だという、実家の近所のすし屋の、具が盛りだくさんの太巻き寿司を腹いっぱい食べて、体力を回復させて欲しい。

帰宅して、パソコンを開き、マラソン関係の新聞記事を集めたリンク集を見る。朝、友人から聞いた記事を確認しようと思ったら、先に別の記事が目にとまった。陸連が、事実無根の記事を載せた一部のメディアを告訴しようとしているというのだ。それがどうやら、「会長一任報道」をした新聞のようなのだ。なんのこっちゃ。そういえば、この新聞、夕刊フジは有森裕子さんにも、訴えてやると言われていたな。

その夕刊フジに載った、土佐と鈴木監督の記者会見記事を見たがこれもまた、ひどい。見出しが「勝ちほこり会見」なんて、なんだか土佐がゴーマンかましているみたいじゃないか。その上、東京での金メダリストのレース展開の失敗にも触れた鈴木監督に対して、
「勝てば官軍」
とは何だ?少なくとも、僕はこの言葉、勝者を称える際には使用しない。だいたい、これは勝者を皮肉るときに使う言葉じゃないのか?(ご存知の方は教えていただきたい。)

こんな記事が出回るから、土佐の印象が悪くなるのだ。そういえば、先週の報知の記事も一人歩きしている。
「名古屋の前は、2時間22分を切らなければ、代表にはなれないと言ってたのに、なんで23分台の土佐を選んだのだ?」
という批判を見かけた。既に、陸連の見解であったがごとき印象を読み手に与えているのだ。

メールが届く。思いがけないことだ。週末の楽しみができた。

ホームページを更新する。今回の代表選考、正しいかどうかはともかく、画期的だったことは確かだ。複数の選考レースを行ったのに、各大会より一人ずつ、という(日本的な)横並び主義から脱却したのだ。小泉さん、
「枠もう1つ増えないの?」
なんて言っている場合じゃないよ。これが「改革」というものですよ。

サッカー五輪代表、レバノンに逆転勝ち。大久保は名古屋のビデオを見ていたのだろうか?

 3月18日(木)

土佐が選ばれたから言うんじゃなくて、今回の選考は間違っていないのだ!!

そう思わなくては、立ち直れないくらい、イヤな思いをさせられた。今回の選考を評価する意見を探し、見つけだしてはほっとした。「癒し」を求めていたのかもしれない。

順天堂大学女子陸上部監督の鯉川なつえさんは、
「私もQちゃんがアテネを走るのを見たかった。」
と前置きしつつ(実は、学生時代のライバルだったのだ)、
「今回、彼女が代表に選ばれていたら、五輪を目指している他のマラソンランナーたちは、走るのをやめていたでしょう。」
と、自らのホームページに書いている。

そういうことを指摘している人はあまりいない。そして、これは有森さんの
「陸連とメディアは選手に夢を与えて。」
という言葉とつながっている。
「陸連は金メダリストのアテネへの夢を奪ったじゃないか。」
と言う人も多いだろう。有森さんの言う「選手」とは、名前も実績もないが、五輪に行ってメダルを獲りたいという情熱は誰にも負けない、若いランナーのことなのだ。

「オレは金メダリストがアテネを走るのを見たかったんだ、他の奴のことなど知ったことか!」
と言うのなら、もう、何も言う事はない。

サッカー日本代表がアテネ行きを決めた。

いつもなら、うっとうしい奴にしか見えない、川平慈英がうらやましく見えた。今夜はうまい酒が飲めるんだろうな。長い間、応援してきた選手が、五輪に行きたいという夢を叶えたのに、イヤな目に遭う人間もいるというのに。

ホームページを更新する。とにかく、男子の代表の話題と情報が無さ過ぎる。

 3月19日(金)

金メダリストをずっと応援してきたという人から、
「残念だけど、土佐さんは素晴らしかった。出られない人の分まで頑張って欲しい。」
という書き込みをしていただくのが本当にうれしい。真のマラソン・ファンの言葉だ。逆の立場だったら、ライバルにこんな風にエールを送れるだろうか?

某掲示板の書き込みにヒントを得た。もう、これしかない。誰もが納得できる代表選考方法。

実績重視でも、選考会の結果重視でも、「はじめに陸連批判ありき」の論理で責められるのならば、最後に重視するのは「好感度」しかないだろう?

そんなわけで、次回の五輪代表選考は、国民投票で決めよう!と「春秋」に書いた。憑き物が落ちたようにすっとした。本当だ。

これなら、誰も文句を言うまい。テレビ中継の視聴率も未曾有の数字だろう。専用カメラを持ち込んで、一番人気の選手をずっと映していれば、中継する方も楽だ。負けても大丈夫。
「感動をありがとう。」
この言葉で、全て許される。実際、金メダリストがアテネを走る姿さえ見られたら、たとえ負けてもかまわない、という書き込みも見かけたくらいだ。けっこうずくめだ。

(この時、僕は皮肉を込めて書いたつもりだったのだが、今、これを書いている3月30日の時点では、マジで採用してもらいたいと思っている。どんな結果が出るのか興味があるのだ。どうせなら、来年のヘルシンキの世界選手権の代表選考でやってみたらどうだ?) 

すっきりした形で、明日を迎えることができそうだ。




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