かたてブログ

片手袋研究家、石井公二による研究活動報告。

『マックス・クリンガー『手袋』を見た!』

2014-04-18 23:39:15 | 番外

僕は昨年の神戸ビエンナーレで、今まで撮った片手袋写真を使った作品を発表しました。しかし、片手袋を主題にした作品は他にも幾つかあるのです。しかもどれも大家による作品です。

一つはイリヤ・カバコフが1990年代に発表した『Monument To A Lost Glove』という作品。もう一つはドイツのマックス・クリンガーが1881年に制作した版画連作『手袋』です。

カバコフの作品はドイツのエッセンで見られるようですが、そこまで行くのはちょっとハードルが高い。しかしマックス・クリンガーの『手袋』は国立西洋美術館の収蔵作品。しかも2012年度末には回顧展があったのですが、忙しくて行けず未見でした。

マックス・クリンガーの作品は片手袋研究の初期から知っていたのでどうしても見たかったのですが、なんと今回そのチャンスが再びやってきました!

2014年4月8日から6月15日まで国立西洋美術館で開催されている、『非日常からの呼び声』展で『手袋』が展示されているのです。前回悔しい思いをしたので、本日4/18、早速行ってまいりました!

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(ちなみに西洋美術館、金曜日は20:00まで開館しているので仕事終わりでも間に合います)

本展覧会では作家の平野啓一郎氏が西洋美術館の収蔵作品から32点をセレクトし、氏の掲げた『非日常からの呼び声』というテーマに沿って展示する、という試みがなされていました。

そして『手袋』は展覧会の導入として一番最初にいきなり展示されていました!

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(マックス・クリンガー『手袋』:行為 ※国立西洋美術館のHPより)

『手袋』はマックス・クリンガーが1881年に制作した10枚の画面で構成される版画連作で、この『行為』は第二場面にあたります。余談ですが、以前片手袋を撮る僕を知人が撮った写真に似ていました。

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ローラースケート場で夫人が落とした片手袋を拾う男性。その瞬間を捉えた作品ですが、リアリスティックな男性の描写に比べ、夫人とその奥の人物達はどこか非現実的な佇まいで、この手袋を拾った後の男性の運命を暗示しているようでもあります。

今回は残念ながら連作のうち一点しか見られなかったのでこの後の展開は不明ですが、“手袋を落とす側と拾う側”、つまり僕の言葉で言う“放置型と介入型”の間の一瞬を見事に捉えています。

121__(放置型) 114__(介入型)

僕は普段から一枚の片手袋の背後に様々な物語を空想しますが、この作品は、片手袋一枚から物語が始まろうとしているまさにその瞬間を具体的に描写しているのです。

僕が昨年40ftコンテナに無数の片手袋写真を敷き詰める事で表現しようとした事の一端を、小さな版画一枚で表現しているのだから驚きです。本当に実物を見られて良かったです。

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(床に放置型、壁に介入型の写真を展示して対比させる事で、その間にある物語を想起して貰うのが狙いの一つでした)

この作品以外にもモローやルドンなど、それ単体でも名品と言われる作品が、平野氏の提示する明確なコンセプトのと共に鑑賞する事でさらに輝いてくるこの展覧会。『手袋』目当てで行ったのですが、全体的にとても面白かったです。

あとはカバコフ。ドイツか…。