24節気の一つ。陰暦8月8日ごろに当たる。立秋の声を聴いてにわかに涼しくなるわけでもないのだが、炎暑のさなか、ひとすじの風、ふとした日のかげりに秋を感じるのは、日本人に伝統的な生活感情のこまやかさ。豊かさであろう。『古今集』の「秋来ぬと目にはさやかに見えねども風のおどろか驚かねる 藤原敏行」の歌がその後の立秋の受けとめ方におおきく影響してきている。「秋来にけり耳をたづねて枕の風 芭 蕉」「弓張りのちらりと見えて秋立ちぬ 許 六」「秋来ぬと音する今朝や刻み瓜 野 波」「秋立つやたてかけてある竹箒 荷 昏」「秋立つや何におどろく陰陽師 蕪村」「むさし野やはたき七尺に秋のたつ 白 雄」「秋立つや起き出るかたに嵐山 青 嵐」「秋たつや沖ゆく雲のそぞろなる 素 丸」「ひやめしに秋たつ独り住まいかな 蘭 更」「柴の戸入るや秋たつ山の影 楿 堂」「夕やけや人の中より秋の立つ 一 茶」「あきたつやほろりと落し蝉の声 正岡子規」「もの知りの長き面輪に秋立ちぬ 高浜虚子」「秋立つや一巻の書の読み残し 夏目漱石」「あきたつや川瀬にまじる風の音 飯田蛇忽」「立秋や腹ととのふる吉野葛 水原秋櫻子」「秋立つと仏こひし深大寺 石橋秀野」「穂高岳秋立つ空の紺青に 及川 貞」「秋立つや鐘をつかんとのけぞえる 桂 信子」「手をのせし胸の薄さや今朝の秋 鈴木真砂女」「波郷遺愛の杖突き戻る秋立つ日 角川源義」「秋立ちぬ酒の肴の薑も 森 澄雄」「立秋の退く濤音を心拍と 安東次男」「水かへてくもる水差しけさの秋 鷹羽狩行」「秋たつやしみじみ思ふ人の縁 星野 椿」「城濠にさざめ波幾重今朝の秋 山内遊糸」「待つ位置の扉のある電車今朝の秋 辻田克己」「ぶりきの蝉へことこと秋立ちにけり 高橋睦郎」「立秋の鷹の羽音と思ひおり 吉田康司」「きのふ秋立ちたる家のしずかさよ 長谷川 洋」「秋立つと傘の雫を生みに振る 中 拓夫」「立秋の宇宙から振る人の声 益田 清」「石に水びしびし打ちぬ今朝の秋 高井邦子」。(窯出しの火襷しかと今朝の秋 けいすけ)