がんの予防や治療における漢方治療の存在意義を考察しています。がん治療に役立つ情報も紹介しています。
「漢方がん治療」を考える
128) CRPとがんの予後:がんの漢方治療における清熱解毒薬の役割
図:がん組織が増大し周囲に浸潤したり他の臓器に転移を起こして、組織の破壊や炎症反応が起こると、生体反応として肝臓からC-反応性蛋白(CRP)が産生される。血中のCRP値が高いほどがん患者の予後が悪いことが報告されている。このような状況では、免疫増強作用は逆に病状を悪化させる可能性がある。抗がん作用と抗炎症作用をもった清熱解毒薬が有効な場合が多い。
128) CRPとがんの予後:がんの漢方治療における清熱解毒薬の役割
【CRPとは】
体内に炎症が起きたり、組織の一部が壊れたりした場合、血液中に蛋白質の一種であるC-反応性蛋白(C-reactive protein=CRP)が現われます。
このCRPは、もともと肺炎球菌という肺炎を起こす菌によって炎症がおこったり組織が破壊されたりすると、この菌のC‐多糖体に反応する蛋白が血液中に出現することからC‐反応性蛋白(CRP)と呼ばれていました。
しかし、肺炎以外の炎症や組織の破壊でも血液中に増加することがわかり、現在では炎症や組織障害の存在と程度の指標として測定されます。
CRPは炎症に対する生体反応として肝臓から産生されます。
細菌感染症や自己免疫疾患(膠原病)、心筋梗塞、肝硬変、悪性腫瘍などにおいて、炎症や組織破壊の程度が大きいほど高値になり、炎症や破壊がおさまってくるとすみやかに減少します。
そのため病気の活動度や重症度、あるいは病気の予後を知る指標として使われています。
【CRP濃度が高いとがん患者の予後が悪い】
手術後のがん患者や手術不能のがん患者などを対象に、CRPの血中濃度と予後との関連を検討した報告は多数あり、CRPの血中濃度とがんの進行度やがん患者の予後不良とは正の相関があることが示されています。すなわち、CRPが高いほど、予後が悪い(生存期間が短い)ことが多くの研究であきらかになっています。CRP値が高いのは、がんの重量が大きく、がん細胞によって組織の破壊が進行していることを示しているからです。
例えば、肺がんにおいて、手術前の血液検査で、CRPの数値が高いほど、腫瘍が大きく、血管やリンパ管への浸潤が強いことが示されています。つまり、この研究では、手術前にすでにCRPが高いと手術後の予後が悪いことを示しています。(Lung cancer 63:106-110, 2009)
手術不能の胃・食道がんを対象とした研究では、血中のCRP値が高く、アルブミン値が低いほど、生存期間が短いことが報告されています。アルブミン値が低いのは、栄養状態の悪化を意味し、体力や抵抗力の低下を示唆しており、さらに炎症や組織破壊によって体が消耗すると、ますます生存期間を短くする原因となります。(Brit J Cancer 94:637-641, 2006)
【抗炎症作用のある清熱解毒薬】
抗がん剤治療中の体力低下や倦怠感の治療を目的とした漢方治療では、滋養強壮薬が主に使われます。すなわち、体力や抵抗力を高める高麗人参(コウライニンジン)、紅参(コウジン)、田七人参(デンシチニンジン)のような人参(Ginseng)類や、黄耆(オウギ)、大棗(タイソウ)、炙甘草(シャカンゾウ)、当帰(トウキ)、熟地黄(ジュクジオウ)、枸杞子(クコシ)、女貞子(ジョテイシ)などの生薬を多く使います。
また、抗がん剤によって低下した免疫力を高める目的で、霊芝(レイシ)、梅寄生(バイキセイ)、茯苓(ブクリョウ)、猪苓(チョレイ)などのサルノコシカケ科のキノコが多用される傾向にあります。
このような滋養強壮薬は、ダメージを受けた細胞や組織の修復や回復を促進する目的では有効です。
しかし、進行がんで組織の破壊や炎症莪強いような場合、つまりCRPが高い病態では、このような滋養強壮薬や免疫増強薬を多く使うと病状を悪化させる可能性も指摘されています。
免疫を高めるといわれる生薬や健康食品はマクロファージや単球を活性化して炎症反応を増悪させる可能性があるからです。
発熱、血中のCRP(C反応性蛋白)、フィビリノゲン、ハプトグロビンの濃度が高いときには炎症性サイトカインの産生が高いといえます。 IL-1,TNF-αは肝細胞に作用しCRPを誘導し、IL-6はフィブリノゲン、ハプトグロビンなどを誘導するからです。このような場合には、免疫細胞を刺激する治療よりも炎症を抑える治療の方が有効です。
炎症性サイトカインの産生を抑える治療として、西洋薬では、副腎皮質ホルモン、プロスタグランジンの産生を抑えるシクロオキシゲナーゼ阻害剤、TNF-αの産生を阻害するサリドマイドなどがあります。
漢方薬でも、抗炎症作用やNF-κBの活性阻害をもった生薬を使用することによって炎症性サイトカインの産生を抑える効果があります。そのような効果をもつ生薬として清熱解毒薬があります。
漢方薬の「清熱解毒」という薬効を西洋医学的に解釈すると、抗炎症作用と体に害になるものを除去する作用に相当します。体に害になるものとして、活性酸素やフリーラジカル、細菌やウイルスなどの病原体、環境中の発がん物質などが考えられますが、「清熱解毒薬」には、抗炎症作用、抗酸化作用、フリーラジカル消去作用、がん細胞増殖抑制作用、抗菌・抗ウイルス作用、解毒酵素活性化作用などがあります。
清熱解毒薬に分類される生薬としては、黄連(オウレン)・黄終(オウゴン)・黄柏(オウバク)・山梔子(サンシシ)・欝金(ウコン)、夏枯草(カゴソウ)・半枝蓮(ハンシレン)・白花蛇舌草(ビャッカジャゼツソウ)・山豆根(サンズコン)・板藍根(バンランコン)・大青葉(タイセイヨウ)・蒲公英(ホコウエイ)などがあり、感染症や化膿性疾患に使用されていますが、がん治療の副作用軽減と抗腫瘍効果増強にも有用な生薬です。
清熱薬の代表である黄連(キンポウゲ科オウレンの根茎)には、がんを移植したマウスの実験で悪液質改善作用が報告されています。その機序として、炎症性サイトカインの産生抑制やがん細胞増殖の抑制作用などが示唆されています。
黄ごん(オウゴン)に含まれるフラボノイトや、ウコンに含まれるクルクミン、板藍根や大青葉に含まれるグルコブラシシンがNF-κBを阻害して炎症性サイトカインの産生を抑えることが報告されています。
感染症の治療に対して漢方薬は古くから使用されてきました。結核や肺炎や感染性胃腸炎による死亡が多かった昔は、このような感染症の治療のために漢方医学が発展してきたといっても過言ではありません。したがって、感染症や炎症性疾患に使われてきた生薬は、がんに伴う炎症や感染症や悪液質の治療にも効果が期待できます。
熱があったりCRPが高いときには、清熱解毒薬を主体にした漢方薬を使うことが大切です。免疫力を高める漢方薬一辺倒では、病状を悪化させることもあることに注意が必要です。
【がんの予防にも抗炎症作用は重要】
WHO国際がん研究機関の推算によると、がんの約18%がウイルス、細菌、寄生虫などの感染が原因で発生していると言われています。喫煙(約30%)、食事と栄養(約30%)につぐ第3位の発がん原因と位置づけられています。
代表的なものは、B型やC型の肝炎ウイルスと肝臓がん、ヘリコバクターピロリ菌と胃がん、などがあげられます。これらの場合、肝炎・肝硬変や萎縮性胃炎などの慢性炎症状態を経てがん化していきます。感染の他に、アスベストなどの環境由来物質への暴露で起こる炎症や、潰瘍性大腸炎や慢性膵炎などを含めると、ヒトのがんの多くで慢性炎症が関係していることになります。
このような慢性炎症状態では、細胞や組織の障害が繰り返され、再生や修復が長年にわたると細胞の遺伝子変異が起こる確率が高まります。さらに炎症部位で発生するフリーラジカルや、様々なサイトカイン、細菌からの毒性物質や代謝産物が発がん過程を促進します。
炎症ががん細胞の悪化を促進することは、実験的にも証明されています。例えば、ラットの組織に異物を植え込んで持続炎症を発生させ、その部位に悪性度の低いがん細胞を移植すると、そのがん細胞が浸潤や転移をする悪性度の高いがん細胞に変化することが報告されています。
したがって、炎症自体を抑えることは、発がん予防だけでなく、がんの進展(悪化)を防ぐ効果が期待できると考えられています。
シクロオキシゲナーゼ-2阻害剤のがん予防効果が多くのがんで証明されていますが、漢方薬の中でも清熱解毒薬と言われる生薬のがん予防効果がある根拠とも考えられます。
炎症性疾患に使用される漢方薬や生薬は、適切に使用されれば、がんの化学予防剤として有用であることが示唆されています。
がん性悪液質の補完・代替医療についてはこちらへ:
(詳しくはこちらへ)
« 127) 抗がん剤... | 129) 白樺の癌... » |