860)GPR109A(HCAR2)受容体の活性化(その2):抗がん作用

図:腸内細菌による食物繊維の発酵によって産生される酪酸(①)とケトン食やケトン供与体で産生されるβヒドロキシ酪酸(②)は大腸がん細胞に発現しているGPR109A(HCAR2)に作用して(③)転写調節因子のHoxpを活性化し(④)、大腸がん細胞の増殖を抑制する(⑤)。

860)GPR109A(HCAR2)受容体の活性化(その2):抗がん作用

【HDLコレステロールが高いとがんの発生リスクが低下する】
ナイアシン(ビタミンB3)やケトン体のβヒドロキシ酪酸GPR109A受容体のリガンド(作動薬)として作用し、GPR109Aの活性化はHDLコレステロールの血中濃度を高めることは前回(859話)解説しました。
HDLコレステロールが高いとがんの発生率も低下する可能性が指摘されています。以下のような論文があります。

Serum high-density lipoprotein cholesterol, metabolic profile, and breast cancer risk.(血清中の高比重リポたんぱく、コレステロール、代謝プロフィルと乳がんリスク)J Natl Cancer Inst. 2004 Aug 4;96(15):1152-60.

メタボリック症候群の症状(肥満、耐糖能低下、HDLコレステロールの低値、中性脂肪の高値、高血圧)が乳がんの発生リスクを高めることが指摘されています。
この論文では、38,823人のノルウェー人女性(17〜54歳)を対象に、身長、体重、血圧、血中脂質、食事(脂肪やカロリー摂取量)、経口避妊薬服用、運動、飲酒、喫煙などの因子と乳がん発症のリスクを評価しています。

平均約17年間の追跡で、708例の浸潤性乳がんの発症が認められました。多因子解析の結果、閉経後乳がんの発症リスクは高比重リポたんぱくコレステロール(HDLコレステロール)の血中濃度と逆相関の関係が認められました
つまり、HDLコレステロールが高いほど閉経後乳がんの発症率が低下していました。
HDLコレステロール値が高い上位4分の1のグループ(1.64 mmol/L以上)は、HDLコレステロール値が低い下位4分の1のグループ(1.20 mmol/L以下)に比べて、乳がん発症の相対リスクは0.75(95%信頼区間:0.58-0.97)でした。
BMIが25 (kg/m2)以上の肥満したグループでは、HDLコレステロールが1.64 mmol/L以上のグループの閉経後乳がんの発症リスクは1.20 mmol/L以下のグループの0.43(95%信頼区間:0.28-0.67)でした。
以上の結果から、この論文の結論は「HDLコレステロールの低値は閉経後乳がんの発症リスクを高める」となっています。

乳がんの場合、閉経前と閉経後ではがんの性状が異なります。
肥満は閉経後乳がんの発症リスクを高めます。皮下脂肪は女性ホルモンの産生を増やすためです。
閉経後の女性では、運動によって、乳がんのリスクが減少することが、ほぼ確実であるとされています。
米国のAtherosclerosis Risk in Communities Study (ARIC)のコホート研究では、閉経前乳がんでもHDLコレステロールが高いほど乳がんのリスクが低下することが示されています。(Ann Epidemiol. 2008 Sep; 18(9): 671–677.)

前立腺がんや非小細胞性肺がんなど他のがんでも、HDLコレステロールが高いほど発生リスクが低下することが疫学的研究で報告されています
非小細胞性肺がんの患者の検討で、HDLコレステロールが高いとCRPなどの炎症性マーカーが低く、患者の予後が良いという結果が報告されています。
つまり、がんの予防や進行がんの予後の改善において、HDLコレステロールを増やすことは意味があると言えます

そこで、HDLコレステロールを増やす薬を使うという方法ががんの予防や治療に役立つ可能性が示唆されます。
HDLコレステロールを高める薬にナイアシン(ビタミンB3)ニセリトロールコレキサミンがあります。短鎖脂肪酸の酪酸やケトン体のβヒドロキシ酪酸もGPR109Aのリガンドとして作用し、HDLコレステロールを高めます。

:ビタミンB3のナイアシン(ニコチン酸とニコチン酸アミド)や高脂血症治療薬のニコチン酸誘導体(ニセリトロール、コレキサミン)やケトン食で産生されるβヒドロキシ酪酸は、Gタンパク質共役型受容体のGPR109A(別名:HCAR2)のアゴニスト(作動薬)として作用し、低密度リポタンパク(LDL)と中性脂肪(TG)の血中濃度を低下し、高密度リポタンパク(HDL)の血中濃度を上昇させ、抗炎症作用やアディポネクチン産生亢進などの作用を発揮する。その結果、心血管疾患の発症や進展を抑制し、がんの発生・進展を抑制し、抗老化作用と寿命延長効果を発揮する。

【GPR109A の活性化は乳がん細胞の増殖を抑制する】
ナイアシン(ビタミンB3)やケトン体のβヒドロキシ酪酸の受容体のGPR109Aのリガンド(作動薬)には抗がん作用が報告されています。以下のような報告があります。

The niacin/butyrate receptor GPR109A suppresses mammary tumorigenesis by inhibiting cell survival(ナイアシン/酪酸受容体 GPR109A は細胞生存を阻害することで乳腺腫瘍形成を抑制する)Cancer Res. 2014 Feb 15; 74(4): 1166–1178.

Gタンパク質共役受容体であるGPR109Aは、ナイアシンと酪酸とβヒドロキシ酪酸によって活性化されます。結腸細胞内で活性化されると、GPR109A は抗炎症経路を強化し、アポトーシスを誘導し、炎症によって誘発される結腸がんを防ぎます。
この報告では、GPR109A が正常な乳房組織で発現されており、ホルモン受容体の状態に関係なく、ヒトの原発性乳房腫瘍組織ではその発現が抑制されていることを示しています。

GPR109Aの機能的発現は、cAMP産生を減少させ、アポトーシスを誘導し、コロニー形成と乳腫瘍の増殖を阻止しました。
トランスクリプトーム解析により、GPR109A の活性化により、ヒト乳がん細胞の細胞生存および抗アポトーシスシグナル伝達に関与する遺伝子が阻害されることが明らかになりました。また、自然発生乳がんのMMTV-Neuマウスモデルにおいて、GPR109A遺伝子の欠損は腫瘍発生率を増加させ、肺転移を促進しました。

これらの発見は、GPR109A が乳腺における腫瘍抑制因子であり、腫瘍組織におけるこの遺伝子の薬理学的誘導とその後のアゴニストによる活性化が乳がんを治療する効果的な治療戦略となり得ることを示唆しています

【βヒドロキシ酪酸はGPR109A(HCAR2)を介して大腸がん細胞の増殖を抑制する】
βヒドロキシ酪酸の抗がん作用は超一流の学術雑誌のNatureにも報告されるようになりました。以下の論文は2022年のNatureの論文です。βヒドロキシ酪酸がHCAR2(GPR109A)を介して転写調節因子のHoxpを活性化し、大腸がん細胞の増殖を抑制するという報告です

β-Hydroxybutyrate suppresses colorectal cancer.(βヒドロキシ酪酸は結腸直腸がんを抑制する)Nature. 2022 May; 605(7908): 160-165.

【要旨】
結腸直腸がんは最も頻度の高いがんの1つであり、その予防と治療のための新しい戦略が緊急に必要とされている。ここでは、この目標に向けて実用的な洞察を提供する代謝物シグナル伝達経路を特定する。 
結腸直腸がんを発生する動物モデルで食事のスクリーニングを行い、ケトン食が強力な腫瘍抑制効果を示すことを発見した。
ケトン食による抗がん作用は、ケトン体のβ-ヒドロキシ酪酸による作用であると要約される。β-ヒドロキシ酪酸は結腸陰窩細胞の増殖を減少させ、結腸直腸がんの増殖を強力に抑制した。 
β-ヒドロキシ酪酸は細胞表面の受容体 Hcar2 を介して作用し、転写調節因子 Hopx を誘導し、それによって遺伝子発現を変化させ、細胞増殖を阻害することが明らかになった。 
がんオルガノイド・アッセイと結腸直腸がん患者からの生検組織の単一細胞 RNA シーケンスは、β-ヒドロキシ酪酸レベルの上昇とHOPX 活性化がヒトの腸上皮増殖の減少と関連しているという証拠を提供する。 
したがって、この研究は、腸の腫瘍形成を調節するβ-ヒドロキシ酪酸によって引き起こされる経路を特定し、単一の代謝産物による経口または全身介入が結腸直腸がんの現在の予防および治療戦略を補完する可能性があることを示している。

Hcar2GPR109Aとも言います。これはケトン体の主要な成分であるβ-ヒドロキシ酪酸の受容体です。β-ヒドロキシ酪酸はその受容体のGPR109Aを介して抗炎症作用や、動脈硬化抑制作用、高血圧改善作用などの効果を発揮します。
さらに、このNature論文では、β-ヒドロキシ酪酸は細胞表面のGPR109A(Hcar2)受容体を介して作用し、転写調節因子 Hopx を誘導し、それによって遺伝子発現を変化させ、細胞増殖を阻害することが明らかにしています

この論文の実験では、β-ヒドロキシ酪酸は、直腸がん細胞においてな遺伝子発現の顕著な変化を誘発しました。β-ヒドロキシ酪酸によって発現が亢進された遺伝子の中には、ホメオドメインのみのタンパク質である Hopx をコードするものが含まれていました。このHopxはがん細胞の増殖を阻害する作用がある転写因子です。
そこで、直腸がん細胞に対するβ-ヒドロキシ酪酸の抗がん作用がHopxを介するという仮説を証明するために実験を行なっています。

Hopxが正常ながん細胞と、Hopxを欠損したがん細胞にβ-ヒドロキシ酪酸を曝露すると、Hopxが正常ながん細胞は増殖が抑制されましたが、Hopxを欠損したがん細胞は増殖抑制効果が認められませんでした
さらに、Hopx遺伝子を過剰発現さえると、がん細胞の増殖は抑制されました。
これらの結果は、β-ヒドロキシ酪酸がHopxの発現を誘導して、がん細胞の増殖を抑制することを意味しています。

次に、β-ヒドロキシ酪酸によるHopx発現誘導のメカニズムを検討しました。
まず、β-ヒドロキシ酪酸はヒストン脱アセチル化酵素を阻害する作用があるため、ヒストン脱アセチル化酵素の阻害作用がHopx発現誘導と関連するかどうかを検討しました。
ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤のボリノスタットはがん細胞の増殖を抑制しましたが、Hopx遺伝子の発現は誘導されませんでした。
つまり、ヒストン脱アセチル化酵素の阻害はHopx遺伝子の発現を誘導しないという結果です。β-ヒドロキシ酪酸によるHopx発現誘導作用はヒストン脱アセチル化酵素阻害作用とは関係ないという結論です

以上の実験結果は、β-ヒドロキシ酪酸ががん細胞の受容体Hcar2(GPR109A)を介して作用してHopx発現を誘導し、上皮成長を抑制することを示しています

ホメオティック遺伝子群 (Homeotic genes)というのは、動物の胚発生の初期において組織の前後軸および体節制を決定する遺伝子です。この遺伝子は、胚段階で体節にかかわる構造(たとえば脚、触角、目など)の適切な数量と配置について決定的な役割を持ちます。
これらのホメオティック遺伝子には共通して、ホメオボックス (homeobox) という180塩基対からなるDNAを含んでおり、60個のアミノ酸をコードします。各ホメオティック遺伝子のホメオボックス塩基対の類似性は70~80%です。 
ホメオボックス (homeobox)はホメオティック遺伝子に共通に見られる構造で、DNAに結合して遺伝子発現の調節にはたらく領域です。

ホメオティック遺伝子群により生産されたタンパク質は、転写因子として働き、これらは全てDNAに結合する機能を持ち、これによって遺伝子の転写を制御できます。 
このホメオドメインはエンハンサーと呼ばれる特定の塩基配列に結合し、転写をオン・オフするスイッチであり、結合により遺伝子を活性化する場合も抑制する場合もあります。同一のホメオティックタンパク質が、ある遺伝子では抑制的に働き、他の遺伝子では促進的に働く場合もあります。

図:ホメオティック遺伝子(Homeotic genes)には共通して、ホメオボックス (homeobox) という180塩基対(bp)からなるDNA領域が存在し、60個のアミノ酸をコードする。この領域はDNAに結合する機能を有するヘリックスターンヘリックス構造モチーフである「ホメオドメイン」をコードする。ホメオティック遺伝子は、転写因子として機能する特定の核タンパク質をコードする調節遺伝子のファミリーである。

Hoxpは最小のホメオドメインタンパク質であるホメオドメインのみのタンパク質で、ホメオドメインに相同な 60 アミノ酸モチーフで構成される 73 アミノ酸タンパク質です。ホモログは、ショウジョウバエや線虫ではなく、ヒト、ラット、ウシ、ブタ、ニワトリ、カエル、ゼブラフィッシュで同定されており、Hopx が脊椎動物に特異的であることを示しています。 
Hopxは正常細胞では広く発現していますが、多くのがん細胞では発現が抑制されています。そのメカニズムはHopx遺伝子のプロモーター領域のメチル化によります。
がん細胞ではHopx遺伝子のプロモーター領域のメチル化が高度に起こって遺伝子発現が抑制されています。がん細胞でHopx遺伝子を過剰発現させるとがん細胞の増殖が抑制され、hopx遺伝子を欠損させると、がん細胞の増殖が亢進します
つまりHopxはがん抑制遺伝子としての作用をします。
以上から、βヒドロキシ酪酸は大腸がん細胞のGPR109A(HCAR2)受容体を活性化し、Hopx遺伝子の発現を誘導して、大腸がん細胞の増殖を抑制するということです

【酪酸もGPR109A(HCAR2)を介して大腸がん細胞の増殖を抑制する】
食物繊維の腸内細菌による発酵によって産生される短鎖脂肪酸の酪酸もGPR109A(HCAR2)受容体を介して大腸発がんや大腸がん細胞の増殖を抑制します。以下のような報告があります。

Activation of Gpr109a, receptor for niacin and the commensal metabolite butyrate, suppresses colonic inflammation and carcinogenesis(ナイアシンと共生腸内細菌叢の代謝産物の酪酸の受容体である Gpr109a の活性化により、結腸の炎症と発がんが抑制される)immunity. 2014 Jan 16;40(1):128-39.

【要旨】
共生腸内細菌叢と食物繊維は、結腸の炎症や結腸がんを防ぐ。 結腸内での食物繊維の発酵による細菌生成物である酪酸塩が、このプロセスに関与していると考えられている。 GPR109A (Niacr1 によってコードされる) は、結腸における酪酸の受容体である。 
GPR109A はナイアシンの受容体でもあり、ナイアシンも腸内微生物叢によって産生され、腸の炎症を抑制する。 
今回我々は、GPR109Aシグナル伝達が結腸マクロファージと樹状細胞の抗炎症特性を促進し、制御性T細胞(Treg細胞)とIL-10産生T細胞の分化誘導を可能にすることを示した。 さらに、GPR109Aは結腸上皮における酪酸媒介の IL-18 の誘導に必須であった。 その結果、GPR109A遺伝子を欠損したNiacr1(-/-) マウスは結腸炎症および結腸がんを発症しやすかった。 薬理学的な GPR109Aのアゴニストであるナイアシンは、GPR109A依存的に大腸炎と結腸癌を抑制した。 
したがって、GPR109Aは、結腸における腸内微生物叢と食物繊維の有益な効果を仲介する上で重要な役割を果たしている。

以下のような報告もあります。

Butyrate Suppresses Glucose Metabolism of Colorectal Cancer Cells via GPR109a-AKT Signaling Pathway and Enhances Chemotherapy(酪酸はGPR109a-AKTシグナル伝達経路を介して結腸直腸がん細胞のグルコース代謝を抑制し、化学療法を強化する)Front Mol Biosci. 2021 Mar 29;8:634874.

【要旨】
解糖系阻害剤は、がん細胞の特異的に亢進したグルコース代謝を標的とする腫瘍治療用の有望な治療薬である。 酪酸塩は結腸内の有益な微生物の重要な生成物であり、並外れた抗がん活性を発揮する。 酪酸塩は結腸がん細胞の細胞増殖に対して阻害効果を示すが、正常な結腸細胞にとっては主要なエネルギー源となる。 
ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC) の阻害剤および G タンパク質共役受容体 GPR109Aのリガンドとしての役割以外に、酪酸が結腸がん細胞のグルコース代謝に及ぼす影響とその根底にある分子機構は完全には理解されていない。 
今回我々は、酪酸が、GPR109A-AKTシグナル伝達経路によって調節される膜GLUT1および細胞質G6PDの存在量を減少させることにより、結腸直腸がん細胞のグルコース輸送と解糖を顕著に阻害することを示す。 
さらに、酪酸塩は、結腸がん細胞に対する 5-フルオロウラシル (5-FU) のDNA合成阻害作用を強化し、抗がん効果を大幅に促進した。 
私たちの発見は、結腸直腸がん細胞のグルコース代謝に対する酪酸塩の影響の分子基盤をより良く理解するための有用な情報を提供し、これは治療薬またはアジュバント抗癌薬としての腸内微生物叢の有益な代謝物の開発を促進すると思われる。

酪酸およびβ-ヒドロキシ酪酸は、GPR109A受容体に対する低親和性の内因性アゴニストです。
EC50(Effective Concentration 50)は酪酸では 1.6 mM、β-ヒドロキシ酪酸では 0.7 mM と報告されています。
EC50(半数効果濃度)とは最大作用(阻害または刺激作用)の50%の作用を生じるために必要な薬物濃度です。
つまり、GPR109A受容体を最大効果の50%の効果を得るために必要な濃度が、酪酸は1.6 mM、β-ヒドロキシ酪酸では 0.7 mMということです
循環中の酪酸塩の正常な生理学的レベルは約 10 μM ですが、これはほとんどの組織で GPR109A の活性化シグナルを誘発するには十分ではありません。
普通の食事を摂取している条件での β-ヒドロキシ酪酸の循環レベルは約 0.2 mM以下ですので、そのレベルは受容体を活性化するのに不十分ですが、絶食やケトン食を行えば、血中のβ-ヒドロキシ酪酸レベルを1〜2 mM程度に高めるのは容易です中鎖脂肪酸のMCTオイルやケトン供与体(ケトン塩、ケトンエステル、R-1.3-ブタンジオールなど)を多く使えば、血中のβ-ヒドロキシ酪酸レベルを2〜3 mM程度に高めることができます。

血中の酪酸濃度は低いのですが、食物繊維の細菌発酵により、結腸内腔内には高レベル (約 10 mM) で存在します。食物繊維と酪酸菌を多く摂取すれば大腸内の酪酸濃度を増やせます。
腸内で分解してβ-ヒドロキシ酪酸(BHB)を産生するポリβヒドロキシ酪酸(PHB)を摂取すれば、大腸内のβ-ヒドロキシ酪酸を増やすことができます。
このような方法で大腸内の酪酸とβ-ヒドロキシ酪酸を増やすと、大腸粘膜の炎症や発がんを抑制できます。
したがって、食物繊維の大腸がん予防効果は、食物繊維が腸内細菌で発酵されて産生される酪酸がGPR109A受容体を活性化して、腸管壁において抗炎症作用や抗腫瘍効果を発揮するためであると指摘されています。

また、乳がんなど幾つかの動物発がん実験で、GPR109Aのリガンドが抗腫瘍効果を示すことが報告されています。
つまり、GPR109Aはがん抑制遺伝子としての作用を持つことが指摘されています
また、HDLコレステロールが低値だと、インスリンやインスリン様成長因子-1(IGF-1)の血中濃度が高くなるという報告があります。インスリンとインスリン様成長因子-1(IGF-1)はがんの発生と進展を促進する作用があります。
ナイアシンやβヒドロキシ酪酸を使ってGPR109Aを刺激すると、HDLコレステロールが高まり、さらに抗炎症作用や抗がん作用によって、抗腫瘍作用を発揮します。GPR109Aのリガンドはがん治療と抗老化治療に有効なターゲットと言えます。
  

図:大腸粘膜上皮細胞(特に幹細胞)に様々な原因(炎症や発がん物質など)で遺伝子変異(①)が蓄積することによって、粘膜上皮細胞は多段階的にがん化し、大腸腺腫(ポリープ)や大腸がんが発生する(②)。酪酸(③)は腸内細菌による食物繊維の発酵によって産生される。ケトン食や絶食でβヒドロキシ酪酸が産生される(④)。βヒドロキシ酪酸のポリマーであるポリβヒドロキシ酪酸(PHB)は腸内細菌で分解されて大腸内でβヒドロキシ酪酸を増やす(⑤)。酪酸とβヒドロキシ酪酸は様々なメカニズムで大腸発がんを阻止する(⑥)。

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