がんの予防や治療における漢方治療の存在意義を考察しています。がん治療に役立つ情報も紹介しています。
「漢方がん治療」を考える
347)クレイグ・トンプソン博士と糖質制限
図:メモリアル・スローンーケタリングがんセンターは、全米で1、2を争うトップレベルのがん専門病院で、高校生を対象にしたセミナーを毎年開催している。センター長兼最高経営責任者のクレイグ・トンプソン博士のセミナーでは2010年と2012年の2回とも最後のスライドで「脂質と糖質とタンパク質のうち、どれを過剰に食べるとがんのリスクを高めるか」と質問している。そして「脂肪を多く食べさせてもがんのリスクは全く上昇しない。糖質を多く食べさせると、がんのリスクを劇的に高める。タンパク質はその中間に位置する。」と述べている。
347)クレイグ・トンプソン博士と糖質制限
【糖質ががんのリスクを劇的に高め、脂肪はがんのリスクを高めない】
メモリアル・スローン・ケタリングがんセンター(Memorial Sloan-Kettering Cancer Center)はニューヨーク市のマンハッタンにある米国で最も古い(1884年設立)民間のがん専門病院です。
米国ニュース&ワールドレポート誌(US News & World Report)が毎年アメリカ全土の病院の中から 疾病毎にベストホスピタルを選んでいますが、がん部門では常に上位2位以内に入っています。
この全米病院ランキングは、16の医療分野において医療技術・安全性・医療スタッフ、顧客満足度などによって評価されます。
最新のランキング(2013年)では、がん部門の1位はテキサス大学附属M.D.アンダーソンがんセンターで、2位がメモリアル・スローン・ケタリングがんセンター、3位はメイヨークリニック(Mayo Clinic)、4位がジョンズホプキンス病院(Johns Hopkins Hospital)です。
メモリアル・スローン・ケタリングがんセンターは過去には1位になったこともあるようです。
つまり、メモリアル・スローン・ケタリングがんセンターはがんの臨床と研究では、世界の最高峰と言っても過言ではありません。
クレイグ・トンプソン博士(Dr. Craig B. Thompson)は、このメモリアル・スローン・ケタリングがんセンターのセンター長(総長)兼最高経営責任者(President and Chief Executive Officer)です(2010年11月から)。
このポストの前任者はがん遺伝子の発見で1989年にノーベル賞を受賞したDr. Harold Varmus(現在はNational Cancer Instituteのトップ)ですので、その後継者というだけでトンプソン博士ががん研究領域で高い業績があることが理解できます。実際に、ScienceやNatureやCellクラスの一流の雑誌に多くの論文や総説を発表しています。
さて、メモリアル・スローン・ケタリングがんセンターでは、高校の学生や教師を対象にしたセミナーを年1回開催しているようです。
そのセミナーのビデオはメモリアル・スローン・ケタリングがんセンターのホームページ(http://www.mskcc.org/education/high-school-outreach)で見ることができます。
トンプソン博士のセミナーのビデオが2つあります。
一つは2010年11月の「Why We All Don't Get Cancer」、もう一つは2012年11月の「Major Trends in Modern Cancer Research 2012: Discussion with Memorial Sloan-Kettering’s President」です。ビデオは下の図をクリックして下さい。
このセミナーでは、トンプソン博士は、がんの一般的な話や、がん細胞の増殖と代謝の関係、PET検査でがんが見つかる理由、食事の過剰摂取や肥満がIGF-1の産生を促進して細胞のグルコースの取込みを亢進していることなどを解説しています。
この2つのセミナーの最後のスライドは以下です。隣に日本語訳を載せています。
トンプソン博士は以下のように説明しています。
“If you overfeed someone with fat, you don’t increase their cancer risk at all. If you overfeed someone with carbohydrates, you dramatically increase their cancer risk. Protein is half way in between.”
日本語に訳すと、「脂肪を多く食べさせてもがんのリスクは全く上昇しない。糖質を多く食べさせると、がんのリスクを劇的に高める。タンパク質はその中間に位置する。」ということです。
セミナーの中で、がん細胞がグルコースを多く取り込む理由や、糖質が肥満や糖尿病や心臓病やがんのリスクを高めること、がんにならないためのポイントは糖質を摂らない(摂りすぎない)ことを述べています。
グルコースはエネルギー(ATP)産生と細胞構成成分(脂質や核酸)を合成するときの材料として使われます。
細胞増殖を停止している細胞は、細胞の構成成分を増やす必要が無いので、取り込んだグルコース(ブドウ糖)のほとんどをエネルギー(ATP)産生に使えます。したがって、増殖していない細胞は、ミトコンドリアで酸素を使ってグルコースを水と二酸化炭素に完全に分解できます。
一方、細胞分裂する細胞は、グルコースから核酸や脂質など細胞を増やすために必要な成分を合成する材料としてグルコースが必要です。したがって、グルコースを多く取り込み、解糖系やペントース・リン酸経路での代謝が亢進することになります。
トンプソン博士はがん遺伝子やシグナル伝達やアポトーシスや免疫などの領域で多くの論文を発表していますが、最近はがんの代謝、とくにワールブルグ効果に関連した研究を行っています。
がん細胞のシグナル伝達と代謝の関係、特に、糖質代謝とがん遺伝子やがん抑制遺伝子などの関連についてネイチャーやサイエンスなどに総説をいくつも書いています。
メモリアル・スローン・ケタリングがんセンターのトップのクレイグ・トンプソン博士が糖質の過剰摂取の害を強調していることは、がん治療における糖質制限やケトン食の重要性を示しているように思います。
以前はタバコががんの最大の原因でしたが、大規模なキャンペーンなどで、米国では喫煙者は急激に減っています。一方、人口の35%が肥満といわれるくらいの肥満大国で、現在の米国では、がんの最大の原因は肥満という認識になっています。肥満を減らすことが米国におけるがん対策の最優先課題になっています。
肥満を減らすのも、がんを減らすのも、そのポイントは糖質の取り過ぎを改善することであるということです。
日本では肥満はまだそれほど発がん要因とは考えられてません。しかし、精製した糖質(砂糖)や精白した穀物の摂取が増えていることは問題だと思います。
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