がんの予防や治療における漢方治療の存在意義を考察しています。がん治療に役立つ情報も紹介しています。
「漢方がん治療」を考える
182)アシュワガンダの抗がん作用
図:アシュワガンダはインドの乾燥地帯に生育するナス科の植物で、インド伝統医学のアーユルヴェーダでは強壮・強精薬として用いられてきた。近年の研究で、アシュワガンダの根や葉には、抗炎症作用・がん細胞増殖阻害作用・抗ストレス作用・免疫増強作用・抗酸化作用などがん治療に役立つ効能が明らかになっている。
182)アシュワガンダの抗がん作用
【アシュワガンダとは】
アシュワガンダ(Ashwagandha)は、インドやネパールや中東などの乾燥地帯に自生するナス科の常緑樹で、高さは1~2mほどに成長し、5cm~10cmほどの葉を1年中付けています。学名をWithania somnifera Dunalといいます。
最近、日本でも栽培されるようになり、野菜やお茶として販売されるようになりました。
約5.000年の歴史を誇るインドの伝統医学アーユルヴェーダ(Ayurveda)では、強壮・強精薬や若返り薬として用いられてきました。アシュワガンダとはサンスクリット(インドの古典語)で馬という意味を持ち、これを摂取すると馬のような力が得られるということからアシュワガンダと呼ばれるようになりました。
朝鮮人参と同じような滋養強壮作用があることから、インド人参(Indian Ginseng)とも呼ばれています。体力と抵抗力の増強、若返りや寿命を延ばす効果が経験的に知られていますが、動物や人間での研究でもそのような効果が確かめられています。
50~59歳の健常なボランティアにアシュワガンダの根のエキス粉末を1日3g、1年間服用させると、赤血球数とヘモグロビン値が著明に増加し、毛髪のメラニンが増え、71.4%で性機能が向上したという報告があります。
成分としては、アルカロイドのisopelletierineやanaferine、ステロイド・ラクトン(Steroidal lactones)のwithaferin-Aや withanolide-A、サポニンのsitoindoside VII と VIII、その他、鉄などのミネラルも豊富に含まれています。
【アシュワガンダのアダプトゲン作用】
アダプトゲン(adaptogen)という言葉は、中国医学(漢方)やアーユルヴェーダなどの伝統医療や、ハーブや薬草を使う自然療法において、様々なストレスに対する体の適応能力や抵抗力を高める効果がある薬草や薬草由来成分を指す用語として使用されています。
「adapt」というのは「適応(順応)させる;適応(順応)する」という意味で、「-gen」は「を生じるもの;生じたもの」という意味です。したがって、アダプトゲン(adaptogen)というのは「適応促進薬」とか「環境適応源」という意味合いになり、「体の適応能力を高める物質」のことを指す用語です。
過労などの身体的な負担、不安や心配事などの精神的な負担、感染症や外傷や有害物質など生体に害を及ぼす外因など、体には様々なストレスが加わっており、これらのストレスに適応できなくなると、病気を発症します。したがって、これらの様々なストレスに対する適応力や抵抗能力を高めることは、多くの病気の予防や治療に有効です。
アダプトゲンのような薬効や概念は中国医学やアーユルヴェーダでは4000年以上前から認識されていました。すなわち、体の適応能力や抵抗力を高めることが、病気の治療に役立つ事に気づき、そのような薬効をもつ薬草を見いだして治療に用いてきました。
様々なストレスに対する適応能力や抵抗力を高める薬という概念が近代医学で認識されるようになったのは1940年代です。当時のロシアでは、体内で「非特異的抵抗性」を生じさせる物質の研究が始まりました。その理由の一つは、シベリアのような極寒の地で軍隊の力を高めるために、兵士の運動能力や適応能力を高める方法が研究されたためです。
1947年にNikolai Lazarevは、「身体的、化学的、生物学的な様々なストレスに対する体の抵抗力を高める物質」をadaptogenと定義しました。
1958年には、ロシアの薬学者ブレクマン(Israel I. Brekhman)博士は、adaptogenが満たす条件として、1)生体にとって無害である、2)各種の要因(物理的、化学的、生物学的な要因など)による生体ストレスに対する適応能力や抵抗力を高める、3)異常を起こした体を正常化させる、の3点を挙げています。
すなわち、アダプトゲンというのは、体力や抵抗力を高める滋養強壮効果があり、内分泌系や免疫系の働きを正常化あるいは高め、体に備わった恒常性維持機能を活性化する効果をもったものと言えます。そして、体に備わった治癒力や恒常性維持機能を高めることによって体調の不良や病気を治すことができます。
このような都合の良い効能を一つの物質に求めることは困難であり、複数の成分を含有する薬草や生薬などから見つかっています。
アダプトゲン作用のある生薬やハーブとして、高麗人参、黄耆、霊芝、党参、シベリア人参、五味子、冬虫夏草、何首烏、エゾウコギ、紅景天、ラジオラ・ロゼア、マカなどが報告されています。アシュワガンダはアーユルヴェーダ医学におけるアダプトゲンの代表です。
マウスに高麗人参かアシュワガンダの根の粉末を7日間経口投与した後、マウスを水の中に入れて溺れるまでの時間を測定する強制水泳の実験では、溺れるまでの時間は、コントロール群が163分、アシュワガンダ投与群が474分、高麗人参投与群が536分で、アシュワガンダや高麗人参を数日間服用すると持久力が著明に高まるという実験結果が報告されています。
動物実権での体重や筋肉の増加作用では、アシュワガンダは高麗人参よりも効果が高いという報告があります。アシュワガンダ由来のアルカロイドは、興奮しすぎた神経を静めてリラックスさせる効果や、ストレスに対する精神的な安定を高める効果があります。
がん治療においては、手術や抗がん剤や放射線などの治療によって多大な身体的ダメージを受け、さらに、不安や心配などによる精神的ストレスの負担が増えるので、心身の適応能力や抵抗力を高めるアダプトゲンは役に立ちます。
【アシュワガンダの抗がん作用】
近年の科学的研究によって、アシュワガンダの根や葉には、抗酸化作用、抗炎症作用、免疫調整作用、抗ストレス作用、滋養強壮作用、造血能増強作用などを示す薬効成分が多数見つかっています。解熱・鎮痛作用や抗うつ作用、臓器保護作用、若返り作用なども報告されています。さらに、がん予防効果や抗がん作用も報告され、がん治療への利用も言及されるようになりました。ナス科の薬草には抗がん作用をもったものが多く、アシュワガンダもその一つです。
動物実験の研究ですが、アシュワガンダが抗がん剤や放射線治療の効果を高め、副作用を軽減することや、がん細胞を死滅させる直接的な抗がん作用が報告されています。
例えば、マウスを使った実験で、アシュワガンダの熱水エキスを投与することによってpaclitaxel(商品名:タキソール)によって引き起こされる白血球減少を軽減できることが報告されています。その他の動物実験でも、抗がん剤による骨髄抑制(造血機能の低下)を軽減する効果が報告されています。その作用機序として、造血幹細胞の増殖を促進する効果が指摘されています。
アシュワガンダの根の粉末を投与すると、免疫力を増強できることがマウスを使った実験で示されています。その他、がん細胞の放射線感受性を高める効果や、アシュワガンダに含まれているWithaferin Aは強力な血管新生阻害作用やがん細胞のアポトーシス誘導作用を持っていることが報告されています。
アシュワガンダの葉に含まれる成分(withaferin Aやwithanoneなど)は、正常細胞に対しては酸化ストレスの軽減などによって細胞を保護し、正常細胞の機能を良くし寿命を延長する効果を発揮しますが、がん細胞に対しては、がん抑制遺伝子のp53の活性化やテロメラーゼ阻害作用などによってがん細胞に選択的な増殖阻害作用を示すことが報告されています。
発がん剤の投与で大腸がんや肺がんを発生させたマウスではTCA回路の酵素活性や電子伝達系の活性が低下しており、アシュワガンダがその低下を正常化する作用があることが報告されています。正常細胞のTCA回路と電子伝達系を活性化することは細胞を元気にしますが、がん細胞のTCA回路と電子伝達系を活性化するとがん細胞は死滅することが報告されています。アシュワガンダは正常細胞の働きを高め、がん細胞に対しては増殖を抑える効果を発揮するようです。(TCA回路と電子伝達系の活性化とがん治療に関してはこちらへ)
アシュワガンダは体力を高め、ストレスに対する抵抗性を高めるので、がん治療の副作用軽減に役立ちます。関節痛など痛みの軽減にも強い効果を持つため、関節痛やしびれなどの副作用の軽減にも効果が期待できます。抗炎症作用や体重や筋肉を増やす効果があるので、がん性悪液質における体力や筋肉の消耗を防ぐ効果も期待できます。
抗炎症、抗酸化、血管新生阻害、免疫増強などの作用は、がんの発生や再発の予防に効果が期待できます。
【注意】
アシュワガンダは流産を引き起こす作用があるので、妊娠中の人は服用を避けるべきです。
バルビタールの鎮静作用を強める効果があります。
◎ アシュワガンダの根と葉はクリニックでも販売しています。(詳しくはこちらへ)
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