がんの予防や治療における漢方治療の存在意義を考察しています。がん治療に役立つ情報も紹介しています。
「漢方がん治療」を考える
19)漢方薬で生命力を高める
図:生命力の低下は気(生命エネルギー)の量の不足と言える。諸臓器の機能の低下によって気の産生が低下する。補気薬や健脾薬は、消化管での栄養素の消化吸収を促進し、呼吸器から取り込んだ酸素を使ったエネルギー産生を高める。補腎薬は腎に貯蔵された先天の気(精気)の量を高めることによって生命エネルギー(生命力)を増やすことができる。
19)漢方薬で生命力を高める
【生命力低下を気虚と腎虚でとらえる】
漢方医学では生命活動の根源的エネルギーを「気」という仮想概念で理解します。気は「先天の気(精気)」と「後天の気」の2つによって生み出されると考えています(第6話参照)。
後天の気は、消化管から吸収された栄養物質と肺からの空気によって生成されます。同じ食物や空気を摂取しても、生まれつき体力の弱い人もいれば、エネルギーの塊のような人もいます。生まれたときから持っている生命力を先天の気といい、これは腎に貯蔵されていると考えています。
歳をとってくると腎に貯えられた先天の気(精気)がなくなってきます。このような状態を漢方では「腎虚」といい、生命力が低下した状態といえます。
腎臓は血液中の老廃物を排泄する臓器ですが、漢方医学でいう「腎」は解剖学的な腎臓とは異なります。漢方理論のなかで「腎」は、生命力の中心的な役割を果たす臓器と考えています。これは、人体が先天的にもっている生命エネルギー(精気)が腎に保存されていると考えるからです。
気という生命エネルギーは眼にみえませんし、科学的にも実態がつかめていません。しかし、気なるものを想定して生命活動を総合的に捉える視点は、物質的実態として理解することが困難な自然治癒力や生命力というものを総体的に捉えるうえで有用です。
気を産生する消化管や肺の機能を高めてやれば生命力を補うことができるという考えは常識的に納得できます。がんの進行によって体力が消耗し生命力が低下した状態を良くするために、気の量を増す補気薬や腎虚を補う補腎薬を利用するという漢方治療の意味も理解できます(図)。
【補気薬と補腎薬で生命力を高める】
気の量に不足を生じた病態を気虚といいます。生命体としての活力の低下した状態であり、新陳代謝の低下・諸々の臓器機能の低下・抵抗力の低下した状態です。不足した気を補う補気薬の代表は高麗人参や黄耆です。高麗人参と黄耆を含む方剤を参耆剤といい、補剤の基本となっています。人参や黄耆など強壮作用をもった補気薬に、消化管の働きを良くする健脾薬を組み合わせることによって、消化吸収機能をより高めて、元気を増すような漢方薬(四君子湯や補中益気湯など)を作ることができます。
腎虚を補う補腎薬には生命力や新陳代謝の低下を改善する効果があります。腎の精気を補う生薬として、地黄・山薬・山茱萸・枸杞子・杜仲などがあります。さらに新陳代謝が低下して、冷えが強い場合には、補陽薬(附子、桂皮、乾姜など)を加えます。補陽薬の附子は、血管拡張・血行促進に働いて身体を温め、強心・強壮作用を持つので、極度に低下した新陳代謝機能の振興剤として用います。桂皮や乾姜は血行を促進して体を温め、元気をつけ興奮性を増し、腹部を温める効果があります。
西洋薬には滋養強壮薬のような薬はありませんが、漢方薬には補気薬、補陽薬、補腎薬を組み合わせることによって生命力を高める治療法を重視しています。
(文責:福田一典)
« 18)メタアナリ... | 20)漢方薬で抗... » |