楊貴妃の姉,虢夫人のテントには、いっぱいの食べきれないほどの美味で珍味な料理が次から次へと引きも切らさずに運ばれ、参加した人達は誰もが厭きて箸さえださないのです。
そのような華やかな「転」の場は終わり、いよいよ「結」に場が移ります。
“簫鼓哀吟感鬼神” <簫鼓は哀吟として 鬼神を感ぜしめ
そこで演奏されている「簫」や「鼓」の音色は、あたかもそこに鬼神が佇んでいるかのように何か悲しげに奏でられています。
これが「転」から「結」に転換する詩の言葉です。この中には、もはや、それまでの浮ついた華やいだ雰囲気は感じられません。鬼神です。目には見えない恐ろしい神の影が、普通なら陽気な曲であるはずですが、辺りに漂っているのように感じられたのです。此の中に、突然に、何は悪い悪雲が立ちこめているのではと感じられます。しかし、そんなことは感知せずとばかりに
”賓從雜還實要津” <賓從ヒンジュウ>は雜還して 要津に實つ>
来客は曲江にある主だった港に満ち満ちているのです。
“後來鞍馬何逡巡” <後來の鞍馬 何ぞ逡巡たる>
そのような沢山の来客が、三々五々、「雲幕」へと集まります。それから、しばらくしてから、どうでしょう。鞍を付けた立派な馬に乗った一
人の男性がゆっくりと来るのです。
“當軒下馬入錦茵” <軒に當たり馬より下りて錦茵に入る>
入り口で馬から降り 錦の敷物の上を通り、堂々と、意気揚々として幕の中へ入って行きます。虢夫人の居る所へ、何も遠慮せずにです 。
<気勢洋々傍若無人>と、私の本には説明がしてあります。言わずと知れたこと、此の馬に乗ってゆっくりと来た人は、『楊国忠』その人です。