”後来鞍馬何逡巡 当軒下馬入錦茵”
ある解説本によると「錦茵」とは<ご婦人用の車>であると説明したいますが、此処では、前に“就中雲幕・・・・”とあることからも分かるように、虢夫人のために特別に用意された仮のテントだと思われます。だからこそ、ゆっくりとそこに到着した人の錦茵に入る様子が、
「その気勢洋洋として傍に人がいないようであった」
と、説明してあるのだと思います。
さて、此処からが起承転結の「結」の、又、その「結」の部分です。どのようにその意味を取ればいいのか、すぐには、分からないような書きぶりです。その二句をどうぞ。
柳花雪落覆白蘋
青鳥飛去御紅巾
どうでしょうか。「柳花」とは、また、「青鳥」とは、杜甫はこれで何を言い表わそうとしているのでしょうか???「白蘋」とは白い浮草です。紅巾たは赤色のハンカチです。
これを私流に解釈してみます。
柳花とは、楊国忠のことで、雪のようにふんわりと何処からともなくやってきて、白蘋とは「白い浮草」のことです。虢夫人のいるテントを指しています。その中に堂々と入って行き、昔、西王母の傍に飛んできた青鳥のように「紅巾」、女性の飾り物です。それを銜え込むというのです。虢夫人との浮気を暗示しているのです。なお、この詩の解説として、中国のある説明によると、「淫亂無恥的醜行」と書いてあります。将に、京都かどこかの代議士のような破廉恥な行為を、それも白中に堂々と傍若無人の如くに行っているのです。いつかきっと何かの天罰があること間違いなしのことも暗示しています。それが白居易の「長恨歌」にある馬嵬駅の乱に発展していきます。
でも考えてみると、この時代の詩人たちは、単刀直入でなく、間接的にそのことを暗示するような廻りくどいい書き方によって、その時代の流れを端的に言い表しているのには感心させられます。