君といるといつも嘘ばかりついてしまう。
「大嫌い。」
「逢いたくない。」
「手なんかつなぎたくもない。」
心と言葉がちぐはぐになってしまう。この心の奥底の気持ちをどうやって伝えたらいいのだろうか。
そうだ。今日から素直に何でも言うようにしよう。
「君といると嬉しい。」
「君を抱きしめたくなる。」
「君といるとせつなくなる。」言葉に出すとなんてちっぽけなものなんだろうと思う。
こ . . . 本文を読む
「桜の花もほころび喜びの春。私たちは、今旅立ちます。」答辞を読んでいる生徒会会長。それを聞きながら、噛み締めて涙を流す卒業生。ハンカチで顔を覆う女子達。
体育館の外は、晴天で桜が小さく微笑んでいた。
まるで私達の姿を喜んでいるようだ。
担任の先生初め、来賓の人達が温かく見守っている。
海援隊の「贈る言葉」のイントロが流れ、私たちは体育館を後にした。
体育館の前では、卒業生が慌しく群がっ . . . 本文を読む
恋の始まりの第一段階は、いい男がいい女に視線を送る。
それで気に入れば相手も視線を返す。
向こうが嫌ならば目で合図をする。
「あなた私のタイプじゃないわ。」テレパシーで察すると男は黙って背中を向けて去っていく。
それが上手くいけば、次に話せるというステップに移る事が出来る。
恋には、話す事がとても大事だ。
話し合い語る事で、相手の趣味や嫌いな事を聞きだす事が出来る。
「私、どうして . . . 本文を読む
老人ホームの小さな窓から見える紅色の梅の花にめじろが二羽とまっている。
夫婦だろうか。それとも恋人同士で、喧嘩でもしているのだろうか。なにやら首を傾げて会話をしている。
片方のめじろがもう片方に口ばしでつついているが、それに答えられなくて逃げ回る女めじろ。
人間で言うなら、ふられてでもいるのだろうか。
それでもめげずにチョッカイを出している。私もそんな頃があったのだ。
梅の花を見るたび . . . 本文を読む
周りは田園風景が広がり、正月の賑わいもなくなりはじめていた。
親父と口喧嘩して、家を出てから丁度10年になる。
あの時は、何であんなに啖呵をきっていたのだろうか。
就職も決まらず家でフラフラとしているから怒られて当たり前の事なのだが、私は若かったし、親の言う事に逆らいたい年頃だった。
今考えたら、親父の優しさだったとつくづく思う。
親というものは、いくつになっても子供の心配をしているも . . . 本文を読む
今夜はクリスマスイヴ。
亜子は、彼氏もいなく、一人暮らしの部屋で、ただクリスマスを過ごすのが寂しくて、前もって仮装パーティのチケットを買っておいた。
駅前のトイザラスで買ったサンタクロースの帽子をかぶり、赤い服を着て会場に入った。
パーティ会場には、真ん中に大きなツリーが飾られてあり、色とりどりのイルミネーションが光り輝いている。
その隣では、古いラジオがあり、陽気なDJが「ワムのラスト . . . 本文を読む
深夜、3時。皆が寝静まってから俺達の仕事がある。
道路の下で、下水管を通す為の穴掘りだ。大きなライトで照らし、穴全体を映し出している。その間、交通誘導員が道路工事の隅に立って、車を誘導している。
この寒い中、軍手をしているが、氷のように冷たい。
休憩中の唯一の楽しみが、コンビニで買って来た肉まんとホットコーヒーだ。
現場の人たちが手を休め、無邪気に話しながら、食べる肉まんとコーヒーは最高 . . . 本文を読む
前川るり子17歳は、片付いた部屋の鏡に向かっていた。
前の学校もうまくいかなかった。いつも担任の先生から言い寄られてしまう。私の美貌がそうさせるから仕方のない事だ。
子供の頃からそうだった。小学6年生の頃、大学生の男の人から告白された事があった。
私が小学生に見えないと言う事で、驚いていたけど、別に驚かせるつもりはなかった。
男は、なぜこんな顔が好きなのだろうかと鏡をじっと見る。別にどこ . . . 本文を読む
夕暮れ時、とある町外れにある橋の上、綾小路寿久は口笛を吹きながら歩いていた。鼠先輩というふざけた名前の歌手の曲を通りすがる車の音に合わせてリズムをとっていた。
橋の途中で、黒髪のショートカットがよく似合う女の子が海の方を見ていた。綾小路が側を通ると、泣き声が聞こえた。綾小路は、泣かせる男とゴキブリがこの世の中で一番嫌いだったので話しかけた。
「誰だい。君をそんなに泣かせるのは。」女の子は、振 . . . 本文を読む
君は私の事を覚えているだろうか。
あの夏の日、君はキャップをかぶって、道を歩いていた。
私は夏の光と君の歩いている姿を好きになってしまった。要するに一目惚れと言うわけだ。
今になって思い出してしまう事がおかしいと思う。この暑さのせいで頭が狂ったのだろう。
街を歩いていると、ショーウィンドゥに君が眩しそうに太陽を見ている姿がある。私が横を通りすぎると、君はいつの間にかいなくなっている。
. . . 本文を読む
君と逢えるのはいつも夢花火。
誰もいない静かな海。その上を舞う花火。
パーと咲いて、散っていく。一つずつがまるで僕の恋みたいだ。
君はピンクの爽快な浴衣を着て、綺麗な夜空を見ている。花火の光で時々君の首筋と横顔が見える。
僕は横顔が好きだ。
ずっと見ていても飽きない。花火なんかよりも君のその姿が何よりも美しい。
もうすぐ目が覚める。
君と逢えるのは、一時の時間。
夢の中だけ。
. . . 本文を読む
シトシトと降る雨の中、ランドセルをからった男の子と女の子が、水溜まりでしゃがんで、捨てられた白い子犬に話しかけていた。男の子が自分の傘を雨に濡れないように子犬の方にかざしている。女の子は、男の子が濡れないように傘をかざしていた。その姿を見た近くのオジサンが更に大きな傘で二人を包んでいる。
小さな窓ガラスから外を見ていると雨が降っている。
彼女の部屋に来ているが、彼女は少しだけ機嫌が悪 . . . 本文を読む
いつものように郵便局の前で待ち合わせをしていると、彼女が来た。
彼女が現れると雲行きが悪くなり、必ず雨が降る。今も晴れていたのだが、来た途端に小雨が降ってきた。梅雨前線にとりつかれているに違いない。
彼女は、そのせいで傘を常に持っている。彼女にとっては秘術品だ。
今日は、虹色の傘を広げて悲しそうに笑った。
「今日晴れだと天気予報で言ってたんだけどね。」
「ま、しょ~がないんじゃないかな . . . 本文を読む
タカシは、学校で受けたテストの答案が悪くて家に帰りづらかった。
そろそろ辺りも薄暗くなって来ている。一歩一歩と足に鎖がついているみたいに重かった。下を向いて歩いていると山道に入り込んだ。
そういえばこの道は通ったことがない。昔の言い伝えで入ってはならないと聞いた事があった。
今夜は綺麗な月が出て、獣道を照らし影を作っている。タカシは大きくなっている自分の影を踏みながらもっと奥の道に入ってい . . . 本文を読む
自分の部屋に戻ると疲れていたのかいつの間にか寝ていた。
君と出会ったのは、五年ほど前になる。もうそんなになるのか。
海が見える家に住んでいたね。
俺が海で声をかける女の人から振られるのを見ていつも君は笑っていた。
毎日毎日その姿を見に来ていたから、三日目くらいに声をかけたんだ。
「そんなに笑う事ないだろう。」
「だっておかしいんだもん。」
「何がだよ。」
「やり方がまずいんじゃな . . . 本文を読む