夜の8時に奴がやってくる。たかしは、アパートの2階へと上がる階段の横で座っていた。
父ちゃんが死んでから2年くらいで、母ちゃんが男の人を家に連れてくるようになった。土木の下請け会社の事務員として働いている母ちゃんが連れて来たのは、そこで働いている40歳位のおじさんだ。
作業着を着てやってくるから一目で分かる。母ちゃんが38歳だから同じくらいだとは思うけど、死んだ父ちゃんの事を考えると嫌になってしま . . . 本文を読む
お盆が終わり、海にクラゲが出る頃、さゆりは彼氏と別れた。
毎年この季節が来ると必ず別れ話が出てくる。
きっと夏の終わりは、恋も終わっていくのだろう。
友達のエリと気晴らしに海にやってきた。
澄んだ空、これでもかと照らす太陽、遠くではヨットが浮かんでいる。
「あんな茶髪の彼氏と別れて正解だよ。」エリが海の中から出てきて、砂浜へと歩いて思い出すように言った。エリの白色のビキニが憎いくらいに似合っている . . . 本文を読む
賑やかな町並みを抜けると、細い路地裏にはひっそりと屋台が立っている。
「おじさん。熱燗ちょうだい。」ドレスの様な服を着た女性は、酒焼けた声で頼んだ。
「今日は冷えるね。はいよ。」ネジリはちまきの店主は慣れた手つきで焼き鳥をクルクルと回し、熱燗をカウンターに差し出した。
古びたラジオからは、紅白歌合戦の生中継が流れている。それを聞いた女性が呟いた。
「そういえば、今日は大晦日だね。」大きな . . . 本文を読む
久しぶりに車で遠出をした。山奥にあるレストランで食事をして、家に帰っている所だ。助手席の彼女も機嫌が良いみたいだ。
「美味しかったね。今日は最高のデートだった。ありがとう。」
「気に入ってくれたならよかった。」そんな会話をしてクネクネとした山道を進んでいると、ザァザッーと強い雨が降って来た。通り雨のようで遠くでゴロゴロと雷もなっている。
「急に降るなんて、ついてないね。」彼女がボソッと呟い . . . 本文を読む
黒い暗雲が立ち上がり、光が失われ、ゴォゴォという音と共に雨が降り出す。
病院の一室で寝ている老人。ベッドの周りを囲む家族。
孫であるナオトが祖父の所へ近寄り、手を握っている。
「じぃじぃ目を覚まして。」隣で、泣いている母親がナオトの頭を撫でながら言った。
「お父さん。返事をして。」その声が病室に響くと、答えたかの様に心電図の音が一本、左から右へと流れていった。
号泣する家族。まだ温もり . . . 本文を読む
ゴールデンウィークという事もあり、久しぶりのデートで、カオリと一緒に遊園地に来ていた。
観覧車に乗るまでは良かったが、どうやら風邪をひいたみたいだ。
季節の移り変わりで熱も少しあるのだろう。
カオリの顔が薄っすらと歪んで見える。
カオリが遊園地の中にある鏡の世界という建物に入りたいと言った。
私は、あまり気が乗らなかったが、店の従業員にチケットを見せ、手を引かれる様に入りこんだ。
全 . . . 本文を読む
晴れわたる青い空。パレットで描いたような白い雲。家のベランダには洗濯物がたくさん干されてある。
「あなた行ってらっしゃい。」エプロン姿の小夜子が夫を玄関まで見送っている。
「行ってくるよ。」今年40歳になる夫、近くの会社で働いている営業部長。
その間をくぐる様に走って出て行く小学生の息子。
「おい。危ないから気をつけろよ。」夫が叫ぶと、息子は、シューズ袋を高く上げて合図をした。その姿を一 . . . 本文を読む
ピィーと北風が吹きぬけた。
初日の出を見に行く為に、車に乗り込み近くの山を目指す。
息子が目をこすりながら、欠伸をしていた。今日は彼女と行くはずだった初詣がキャンセルになり、仕方なく私に付き合わされたということのようだ。
私はと言うと、今年は会社がつぶれて職業訓練校に行く事になった。妻は愛想つかして、家を出て行った。
40年家のローンの事や息子の大学費用などの事を考えると納得が行く。私に . . . 本文を読む
車の助手席に座っている君が窓を開け、外の景色を見ながら呟くように言った。
「私たち今日で別れましょう。」ハンドルを握っている手に力が入る。こんな日が来る事は、分かっていた。
「それで君は、満足なのか。」何か言いたい事が沢山あったが、言葉が出てこなかった。
「私は満足だよ。今、好きな人がいるの。」君は、俺の方を見ないように言った。見たら気分が変わるとでも言うのか。せめて、少しだけでも俺の方を . . . 本文を読む
満月の夜、家の周りでは猫の集会があっていた。
月に向かって「にゃぁ。」「にゃぁ。」とうるさい。その声に目覚め、夜の散歩に行くことにした。
外に出ると、夏の終わりの冷ややかな風が吹いていた。
近くのコンビニで、オレンジジュースを買って、飲みながらブラブラと歩いた。
山の側までやってきた。山の奥の方でボンヤリと明かりが見えた。
祭りでもあっているのだろうか。
ドンドンという音の方へと行く . . . 本文を読む
海よ。空よ。太陽よ。
周りには、水着を着たギャルがウヨウヨいる。
右には、青色の水着。左には、白色の水着。
ビキニも食い込み、腰をクネクネねじらせて、男心を惑わせる。
夏は男も女も開放的だ。
照りつける太陽の下で、ダンスをしている君の姿に見とれていた。
小さなラジオデッキを砂浜に置き、水着を着ているようだが、デニムのホットパンツを履いて、リズムの良い音楽に合わせてセクシーな踊りを披露 . . . 本文を読む
照つける太陽。モクモクと上がる入道雲。
額から流れ落ちる大量の汗。
古びた駅のホームで仕事帰り電車を待っていた。
派遣社員という立場はどうもシックリ来ない。
机に向かい、ひたすら書類作成。コピーをとり、専務、常務の機嫌取りをして、何が楽しいのだろうか。
前の会社でリストラになる前はよかった。
仕事も順調で、何もかもが輝いていた。不景気、経済後退。総理大臣何をやっているのか。もうウンザ . . . 本文を読む
古びた校舎。
キーンコーン。カーンコーン。
授業のベルの音。細長い廊下。
教室。綺麗に並べられた机。
教卓。黒板。壁に貼られた連絡事項。
そして、真ん中に先生がいた。
十年前に卒業して、色々あったけど、またこの学校に戻って来る事が出来た。
学校に入ると、制服を着た無邪気な生徒から「先生。おはようございます。」と言われる。
私も「おはよう。」と慣れない挨拶をすると、生徒から笑われ . . . 本文を読む
理沙は朝からベランダに干してある洗濯物を取り込んでいる。
隆はその姿を見てテレビをつけた。プロ野球の阪神対巨人があっていて、巨人が一点リードしている。
「隆、テレビばかり見てないでさ。自分の洗濯物くらい自分でたたんでよ。」理沙が不機嫌に隆の隣に座った。
「それって女の仕事だろ。俺仕事で疲れてるんだから。」隆がゴロッと寝そべった。
「女の仕事って決まってないわよ。今は、昔と違うんだからね。 . . . 本文を読む
仕事帰りにスーパーに立ち寄り、ケーキを眺めていた。
チョコレートケーキやチーズケーキ、モンブランまである。
まったく、どれでも一緒に見えるが、美穂のやつはどれが好きだったか、忘れてしまった。
悩んでいると、目がクリッとした可愛い女の店員がチーズケーキがオススメだと言っていたので、すぐに買ってしまった。
「ただいま。」
「あら、お帰りなさい。早かったのね。」美穂が玄関にトボトボと歩いてき . . . 本文を読む