１８．居酒屋

　居酒屋で友達と待ち合わせをしていた。女友達ユウコから男の人を紹介をしてもらう予定だ。
　店に入るとノリノリのヒップホップの歌が流れていた。この歌の題名を思い出していると、ユウコが私に気づいて席で手を振っていた。
　「アユミここだよ。」
　「久しぶりだね。」
　「カズを紹介してもらった時以来だね。今日は私が紹介するからね。結構いい男だから期待してていいよ。仕事でユウジは遅れてくるんだって。」ユウコとは、高校からの親友で、私も男の人を紹介した事がある。
　ユウジが店に入ってきた。第一印象は、茶髪のロンゲで、少し遊んでそうな感じがした。
　「ごめん。仕事が長びいて。やっぱりかわいい子だね。」私の方をチラッと見てユウジが照れて言った。
　「はじめまして。アユミといいます。」なれなれしい口調が私には、心地よかった。人見知りするタイプだからだろうか。
　三人で席に座り、ビールを頼んで、出会いに乾杯をした。酒が回ると更に気分がよくなって、ユウジの事をたくさん聞いた。
　海外に住んで、お洒落なバーを開く事が夢だと言っていた。見かけとは違って、夢があるんだなと意外な一面を見てびっくりしていた。
　夢を語る時、キラキラと輝いて見えた。夢がある男性って本当に素敵だなと感じると、うっとりとしてしまった。店の雰囲気がそうさせたのかもしれない。
　胸の奥の方で独占したいという感情が湧いて出てきた。ユウジの事を何でも知りたいと思った。
　帰り携帯の番号とアドレスを交換して、居酒屋を後にした。帰るときも家まで送ってくれた。
　家に着いたら、すぐにユウジからメールが来た。
　「今日は楽しかった。また遊ぼう。」うれしい気持ちで胸がいっぱいになって、ますます好きになっていった。
　こんなに私の事を思ってくれる男性は今までいなかった。
　大人の男性だからそういう風に見えるのかもしれない。
　ユウジは３０歳で私は２０歳だった。１０歳も離れていたが、歳の差なんて関係ないと思った。
　ユウジもヒップホップが好きだし、話しも面白い。私の事が何でも分かっているような感じがした。
　やがて付き合うようになった。はじめて大人の男性と付き合う。どんな所に連れて行って、私にどんな事をしてくれるのだろうか。
　踊るクラブに行ったり、遊園地に行ったりした。
　デートを重ねるたびにどんどんユウジを好きになっていった。
　やがて、ホテルで抱き合う事になり、大人の女性へと変化して行った。
　付き合うようになって三ヶ月もすると、ユウジの嫌な所が見えて来た。
　ギャンブルは毎日する。タバコは止めると言ってやめない。違う女と浮気はする。
　私を大事にしてくれるユウジが好きだったのに、手に入れたら何でもしていいのと叫びたくなった。
　男はみんなそんな感じなのかと思った。
　別れると何度言ったか分からない。別れるという度にユウジが、せつなくて悲しい目で、「夢を一緒に追いかけよう」と言った。
　その目を見るたびに胸の奥の方でキュンとしてしまう。やっぱり私はユウジの事が好きなんだと心から思ってしまう。
　デートで何回かキスをした事を思い出した。
　私が一時我慢すれば、また昔のように輝いて夢を語る男に戻ってくれる。私は信じていた。
　それでもユウジは治らなかった。
　夢を叶えないまま一年が過ぎた。
　ユウジは、相変わらずスロットをしていた。私は何も言わず黙って後ろ姿を見ていた。
　大きな夢を語っていた背中が、今では小さく見えて、笑が止まらなかった。