恋愛ブログ

世にも不思議な物語。
出会いの数だけドラマがある。
一日一話愛の短編物語。
〜ショートストーリー〜

7.いしやきいも

2007年02月01日 | 身近な恋
 会社を辞めて随分と時間が経った。会社をリストラされ、ホームレスになるくらいなら、石焼芋でも売って食っていくだけあればいいと思った。
 愛想すかして嫁と子供は家を出て行った。白状ものだといいたいが、私はそれほどいい男ではなかった。
 「いしやきいも。ほかほかのおいもだよ。いかがですか。」軍手をはめ、バンダナをして、寒い街中を車で一周するのだ。外は凍るように寒いが、冬は稼ぎ時で寒いからこそ売れるのだ。車でゆっくりと進んでいると、コンビニエンスストアやうどん屋、ジョイフルなど外食産業が嫌というほど立ち並んでいる。その建物を見る度に芋の売れ行きが悪くなっていくように感じた。
 だけど、それでも昔ながらの石焼芋だと言って懐かしくて買っていく人もいる。
 「いしやきいも。」
 「おじさん。一個ちょうだい。この声を聞いたら何だか懐かしくて。昔付き合っていた彼を思い出してね。寒いけどおじさん頑張ってね。」二十歳くらいの女性から言われた。私は女性から話かけられた事がなくて、身を強張らせた。
 「いしやきいも。」
 「おっちゃん。一個くれ。死んだ父親から買ってもらった事を思い出した。」40歳の半ばだろうか。スーツを着た男から言われた。年はあんまり変わらないのにおっちゃんと言われた事が私が老けた事を現しているのだろうか。
 「いしやきいも。」
 「故郷の事を思い出しましてね。お一つくださいな。」着物を着た女性だった。 隣には若い女性がいて、「ママ早くしてね。」と言っていた。どこかのスナックのママなのだろうか。私もあんな美人から接客してもらいたいなと思った。お金がたくさんあり余裕があったなら行ってもいいのだろうけど。
 街中を一周すると色々なお客さんに遭遇する。
 真ん丸い月やピカピカと光る星を見ながら、芋を売る仕事も悪くない。
 老若男女関係なく、熱々の芋が大好きなのだろう。
 今日も街の片隅で錆びたトラックでゆっくりと走っている。
 「いしやきいも。熱々でおいしいおいもだよ。」
 
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