恋愛ブログ

世にも不思議な物語。
出会いの数だけドラマがある。
一日一話愛の短編物語。
〜ショートストーリー〜

1.一炊の夢

2013年12月25日 | 語る恋
 97歳の老婆は、点滴を打ち、病院で眠っている。
 ピンクのパジャマを着て、皺くちゃの顔と痩せ細った小さな体を見ると眠り姫の様だ。
 時々目がパッと明いて、天井をジッと見ている事があるが、その目は、焦点が定まらず、現実なのか、夢なのか、意識が飛んでいるみたいだ。
 私たちが声をかけても、ぽかーんとして、何を言っているんだろうという顔をしている。
 たまに見せる微笑みが救いだった。
 
 真面目なあなたは、お見合いの席で、笑って話しかけてくれた。
 慣れないスーツを着て、ネクタイが苦しいと話してくれた。
 息子が生まれた時、あなたは戦争に行っていた。
 死んだかどうかさえ連絡が来なくて、気になってとても心配したわ。
 戦争が終わって、あなたは帰ってきた。
 片腕を失って、戦争の夢を何度も見て、夜うなされていた。
 そんなあなたを見て、私はとても辛かった。あなたも辛かっただろうけど、私もあなた以上に辛かったのよ。
 それから、人々が何事もなかったように時代が通り過ぎ、息子が綺麗なお嫁さんを連れて家へとやって来た。
 あなたは、喧嘩したばかりだったから、不貞腐れて、お嫁さんとも話さなかった。
 私どうしたらいいか分からなかった。
 それから、孫が生まれて、幼稚園に行く頃だったかしらね。あなたは、畑で倒れて、そのまま息を引き取った。
 悲しくて、哀しくて、涙が枯れるまで泣いた。
 出会った時から、いつか必ずこんな別れが来ると分かっていたけど、とても辛かった。
 夢の中で、あなたに時々あっていたけど、天国に一度も呼んでくれなかった。
 「お前はまだ、生きろ。」って、あなたがいない世の中で、私どうやって生きたらいいのか分からなかった。
 それからも、私は随分と生きた。
 最近、私はあなたと歩いた町の夢をよく見るの。
 賑やかな夜の町、華やかで、キラキラと輝いていた。
 私は、ショーウィンドウに飾ってある洋服を見るのが好きだった。
 貧乏だったから買ってはもらえなかったけど、ただ見ているだけで、その服を着ている気分になった。
 そんな姿をあなたは優しい目でずっと私の事を見つめていた。

 「おばぁちゃん。私の事分かるかなぁ。」孫が老婆に問いかける。相変わらず虚ろな目だけが天井を見つめている。
 「母さん。俺の事は分かる?」隣にいた息子も話しかけるが、笑みを浮かべるだけだった。
  
 一時するとまたゆっくりと目を閉じる。
 あなたと歩いた夜の町へと旅立って行くのだった。

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コメント (8)    この記事についてブログを書く
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8 コメント

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素敵! (story)
2013-12-25 21:45:52
人を一途に愛して旅立てるなら本望です
おばちゃまは旦那様への想いを抱いて
旅立っていったのでしょうね

素敵なSTORYありがとうございます

私もあの人の傍へ行きたい・・・・
返信する
storyさん。 (キーボー)
2013-12-26 11:10:07
 素敵なストーリーって何だか詩的でいいですね。
 storyさんから言われるって言うのもいいですね。

 人生において、大好きな人と一生添い遂げれたら素敵ですよね。

 そんな事を現実で言うと、冗談みたいにとられる事が多くなって、少し寂しい気持ちですが、その分、ブログで発散出来て、私としては、嬉しですよ。
 何を言っているかよくわかんなくなりましたが、コメントありがとうございます。(笑)
返信する
一炊の夢 (niko)
2013-12-27 00:01:37
何だろうか~冬になると思い出す事があります!
それは、静かな涙が流れるような…

きれいに始まりキレイに終わりましたね…ほろっ!
返信する
一炊の夢 (キーボー)
2013-12-27 20:01:54
 人生なんて一炊の夢のようだとよく思います。

 ウトウトして、人生で成功した夢を見たら、水道の蛇口からポトリと落ちる水滴の時間ほども立ってなかった。
 
 あっという間に年老いてしまいます。

 そういっている間にも、正月だ~。

 今年終わりに綺麗に終わりそうですね。
返信する
心洗われて・・・ (夏雪草)
2013-12-30 01:06:16
人生の最後を、穏やかに笑顔で去って行ける幸せ。

嬉しいことも悲しいこともみ~んな、
過ぎてみれば、幸せな思い出になるのでしょうね。

その瞬間まで、心には情熱を持っていたいです。

1年の終わりに、心が温まるような素敵なお話しをありがとうございました。
来年もどうぞよろしくお願いいたします。

良いお年を・・・
返信する
夏雪草さん。 (キーボー)
2013-12-30 16:39:21
 一年の終わりにこの物語でよかったのかなと思いますけど、暇つぶしに読んでもらえるような感じで、気軽に読んでもらえたらいいですね。

 来年もまた、書いていくのかは、謎ですが、皆さんの心に残るようなストーリーを目指していきたいですね。
 
 こちらこそ、来年もよろしくお願いいたします。
返信する
Unknown (niko)
2014-01-15 20:59:46
感想をお願いします。
全三話完結にします!
返信する
nikoさん。 (キーボー)
2014-01-15 22:27:08
 是非、読んでみます。

 三話だけではもったいない気がしますね。

 長く長く続けられたら、続けてください。

 書けない私が言うのもなんですが(笑)
返信する

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