恋愛ブログ

世にも不思議な物語。
出会いの数だけドラマがある。
一日一話愛の短編物語。
〜ショートストーリー〜

6.深い河

2007年12月21日 | 語る恋
 ピーポー。ピーポー。頭の中で救急車のサイレンが鳴り響いている。信号機が赤でもお構い無しに夜の街を走っているようだ。
 田川義三は工事現場で働いていた。
 若い兄ちゃんがアルバイトで入って来て、一緒に飯を食べている時「おめぇ彼女でもいるんか。」と聞いた時からの記憶が無かった。
 それから、なぜか河の辺に来ていた。
 河の砦の所には大きな古い看板が立っていて、掟が書いてある。
 「今から流れて来る舟に乗り込み、3つの掟をクリアーしなければならない。
 *何があっても振り返ってはならない。
 *けして名前を呼んだらいけない。
 *舟から落ちてはいけない。以上。」それを見ていると、目の前が薄っすらと白い霧が周りを包んだ。
 それから誰も乗っていない小さな舟が流れてきた。義三は看板の文字の通り、舟に乗り込み、三つの掟が何の事なのか分からないまま、仕方なく従う事にした。
 穏やかな河の流れを進んでいくと、第一の河という看板が見え、霧があっという間に消えると、美しい緑の樹木が周りを包んだ。
 遠くから小鳥もさえずり、鹿やキリン、像が目の前を通っている。
 まるでお伽の国に来ているようだ。
 後ろの方から「義三」と声がした。それは、遠い昔に聞いた母親の声だった。
 子供の頃病気をした時に、おんぶして病院を一軒一軒尋ねてくれた事を思い出して、涙が溢れた。
 「かぁちゃん。」懐かしい気持ちで胸がいっぱいになり、振り返りそうになったが、看板に書いてあった事を思い出した。
 どんな事があっても振り返ってはならない。
 段々と声が近づいて来たが、けして振り返りはしなかった。額と手にじっとりと変な汗が出ていた。
 次に聞こえて来たのは、昔現場で一緒だった同僚の声だ。
 「オメェもついに来たか。オラと一緒に酒を飲もう。女なんていくらでもいるさ。」誰も乗ってないハズの舟に後ろで叫んでいる。音楽が流れて来て、女の声もする。
 「どうだ。」確かに同僚の声だった。女癖が悪くて手に負えなかったが悪いやつじゃなかった。肩に手が伸びている様な感じがして、同僚の名前を呼ぼうとしたが、グッとこらえた。
 ここではけして名前を呼んだらいけない。
 一時そんな事を繰り返していると、またボやっと霧がかかりはじめ、第二の河と書いてある看板が見えた。
 今度は勢いよく河の流れが速くなり、滝のような津波が前の方から押し寄せてきた。義三は波を除けるが中々治まらない。
 その時、急に雷が鳴り響き舟を襲う。義三は舟を必死で掴み、「負けてなるものか。」と唸る河に向かって叫んだ。
 お構い無しに水しぶきが義三を襲う。
 舟が揺れ、回転し何度も落ちそうになったがここでは、舟から落ちてはダメなのだ。
 こんな事は、工事現場で鉄筋を運ぶよりも簡単な事だと強気で思ってみた。
 そういえば、現場はどうなったのだろうか。あれから何でこんな所にいるのだろうか。と考えていると、また霧がかかり、空の方から一筋の光が見えて来た。
 「義三さん。」目の前に飛び込んできたのは、妻の佳代の顔だった。
 「ここは。」周りを見渡して、うつろな声で言った。
 「病院よ。あなた現場で鉄筋コンクリートが落ちて来て、大変だったのよ。」佳代はベッドで泣き出した。
 「そうか。なんだか懐かしい夢を見ていたよ。」あれが三途の河なのかどうかは分からないが、死んだ母親や同僚の為にも義三はまだ生きたいと願った。
 
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4 コメント

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更新お疲れ様です☆ (リン)
2007-12-21 12:56:24
今回は、いつもとまた違った感じのお話ですね。



私、やり残した事が沢山あるので、まだまだ死ねないですけど、こればっかりはわかんないですからねー(笑)

今出来る事を精一杯して、悔いを残さないよーにせねばっ!



バイト?

サンタクロースです(笑)
返信する
その通りです。 (キーボー。)
2007-12-21 14:00:30
 リンサン。毎回コメント本当にありがとう。
 それで私は生きていけます(笑)

 私も悔いを残したくないですが、いつでも残ってしまいます。
 
 特に恋の事となると気が引けてしまいます。
 今まで、片想いばかりしていて嫌になります。

 どうしてこう実らないのでしょうか。
 
 恋愛ブログみたいに全てうまく行けばいいのですけどね。

 りんさんは、本当にサンタクロースですか?
 私にプレゼントを持って来てくださいね。
 待ってます。
返信する
私も片想いばっかりです(笑) (リン)
2007-12-21 15:00:32
片想いしてると周りが見えなくなっちゃいますよねぇ。

もしかしてその時、他の出逢いがあったかもしれないのに…



昔の事考えるのって、今がもったないない気がするから最近は考えないよーにしてます。



今を生きましょうよ(笑)



プレゼント待ってて下さいね☆

私とキーボーさんが逢えたら、それってすごい奇跡ですよね♪♪
返信する
それは奇跡すぎる? (キーボー。)
2007-12-21 15:06:14
 そうですよね。
 顔も名前も知らないのに出会えたら奇跡ですよね。
 
 昔の事は、昔の事ですから、今を生きましょう。
 時々哀しくなりますけどね。

 リンサンと家が近かったらいいのになと少し思いました。
 クリスマスイブに煙突を掃除してまってます。
 枕元には靴下を置いて。
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