喫茶店の窓際の席で、何気なく外を見ていた。
ゆっくりと雨が降り出して来た。
新聞紙を頭にかざし、雨をよけようとしているサラリーマン、折りたたみ傘を広げている禿げたおじさん、ハンカチを頭にあてて、雨に濡れないようにしている細い女性が足早に通っている。
まるで、四角い窓が映画のスクリーンのように鮮明に映し出されている。
私がその女性を思い出す時は、決まってこんな雨の夕暮れだった。
静かな店内では、マスターのコーヒーカップを拭く音が少し聞こえてくるくらいだ。
優子と出会ったのは、約3年前の梅雨時の汗ばむ蒸し暑い雨の降りかかった午後だった。
仕事帰り、いつもの道を帰っていた。ネオンが輝くパチンコ屋を抜け、人通りが少ない路地裏に行く。
三毛猫が目の前を通り過ぎ、ゴミ箱が3個並んでいる所に止まった。三毛猫がその女性を見つけ、尻尾を振りながらどこかへと逃げて行った。
ボロボロに破れたキャミソールとスカート、裸足で、脅えながらうずくまっている女性(優子)がいた。
私の顔を見ると、猫の様に逃げようとした。
「どうした?いったい何があったんだ。」
「何でもないわ。」スカートを直して、立とうとして、足をくじいているらしくふらついた。
「訳がありそうだな。」
「あなたには関係ないでしょ。」降り続いている雨で濡れた髪の毛が顔全体に覆いかぶさっていたが、手で髪を上げると、二重の瞳で可愛らしい顔をしていた。歳は24歳から26歳くらいだ。
「大丈夫か。警察呼ぶか?」
「いや警察はちょっと。」
「それじゃ救急車呼ぶか?」
「救急車も駄目だよ。」全くどうしようもないな。見た感じ服は破れているが、足を挫いているだけのようだ。
「じゃー。どうしようか。ひとまず手当てしないと。」と言って肩を貸した。腕を引っ張るとナイフで傷つけたような痕が残っていた。リストカットの様だ。
「おじさん。優しいね。私にこんな優しくしてくれた人初めてだよ。」優子が指をさした。指の向こうには、ラブホテルの看板があった。別に下心があるわけではないが、介抱の為にラブホテルの中に入った。
大きなベッドに優子を寝かし、近くのドラッグストアに湿布と包帯を買いに行き、優子の足に巻いた。巻くとき「痛い。」と言った。
「足が折れているかもしれない。」
「ありがとう。これ以上あなたに迷惑はかけられないわ。」そういうと、気絶したように眠ってしまった。
その間、破れた服をどうにかしないといけないなと思い、近くの服屋に行き、適当に買った。女性の服を選ぶのは、昔彼女に買ってあげた以来だなと思った。
店員がプレゼント用ですかと聞いたので、不自然にならないように「そうだ。」と答えた。
ホテルに帰ると、優子は、相変わらず寝ていた。よっぽど酷い目に合わされたのだろう。
冷蔵庫から、ビールを取り出して飲んだ。テレビをつけるとエロい番組が流れた。普通のテレビはないようだ。起こさないようにテレビを消した。
約2時間くらいで優子が起きた。
「おじさん。ずっといてくれたんだ。」
「気になってね。」
「私の事なんて、どうでもよかったのに。」
「そういわずに。服を買ってきたんだ。好みじゃなかったら悪いけど。」
「うれしい。」服を握りしめると、涙をポロポロと流した。
「今まで何があったか知らないけど、生きていればいいこともあると思うよ。」
「ありがとう。」と言って、服を着替えるために風呂場に行った。ついでにシャワーを浴びているみたいだ。水の音と鼻歌が聞こえてきた。
大分落ち着いたみたいでよかったなと安心した。今日の疲れとビールで眠気が一気に襲ってきた。
ベッドでウトウトしていると、優子が新しい服を着て出てきた。
思ったより小柄の優子には、大きめのサイズで、にこちゃんマークのTシャツが長かった。チェックのスカートも長いようだったが、まくりあげて、自分で短くした。
「どう?似合うかな。」目の前でくるっと回った。回るとき、白色のパンツが見えたが見てないふりをした。
「とてもよく似合うよ。」
「何から何まで本当にありがとう。」と言って私の腕に手を回した。柔らかい胸の感触が体全体に伝わり、石鹸の優しい香りも部屋全体に響き渡った。普通の人なら襲いたくなる所だが、我慢した。
「今日は、何があったんだ?」
「大した事じゃないんだけど、売春してたら、男から襲われちゃったというわけだよ。当たり前か。」優子が初めて笑顔を見せた。
「そんな事ばかりしていると、また、痛い目に合うよ。今度は怪我だけじゃすまないよ。」
「好きでしている訳じゃないんだけど、借金がたくさんあってね。」
「そっか。」私にはどうする事も出来ない。
「おじさんは、私とやらなくてもいいの?」
「馬鹿な事いうもんじゃないよ。そういう事は本当に心から愛する人とするものだよ。」
「そうなんだ。やっぱりおじさんは、優しいね。」と言って、安心したのか、私の隣でスヤスヤと眠ってしまった。とても疲れているようだ。
ホテルの部屋を延長をして、部屋代を多めにテーブルに置いて、メモを残して自分の家へと帰った。
次の日の朝、優子が目覚めてテーブルのお金とメモを読んだ。
「おじさん見ず知らずの私なんかの為にありがとう。」
清々しい気持ちになり、今日で売春は二度としないと誓った。
あの日の出来事は、忘れそうにもない。
ボロボロの優子は今頃、何をしているだろうか。幸せになっているだろうか。
そんな事を考えながら、コーヒーを飲みながら午後の雨を見ていた。
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ゆっくりと雨が降り出して来た。
新聞紙を頭にかざし、雨をよけようとしているサラリーマン、折りたたみ傘を広げている禿げたおじさん、ハンカチを頭にあてて、雨に濡れないようにしている細い女性が足早に通っている。
まるで、四角い窓が映画のスクリーンのように鮮明に映し出されている。
私がその女性を思い出す時は、決まってこんな雨の夕暮れだった。
静かな店内では、マスターのコーヒーカップを拭く音が少し聞こえてくるくらいだ。
優子と出会ったのは、約3年前の梅雨時の汗ばむ蒸し暑い雨の降りかかった午後だった。
仕事帰り、いつもの道を帰っていた。ネオンが輝くパチンコ屋を抜け、人通りが少ない路地裏に行く。
三毛猫が目の前を通り過ぎ、ゴミ箱が3個並んでいる所に止まった。三毛猫がその女性を見つけ、尻尾を振りながらどこかへと逃げて行った。
ボロボロに破れたキャミソールとスカート、裸足で、脅えながらうずくまっている女性(優子)がいた。
私の顔を見ると、猫の様に逃げようとした。
「どうした?いったい何があったんだ。」
「何でもないわ。」スカートを直して、立とうとして、足をくじいているらしくふらついた。
「訳がありそうだな。」
「あなたには関係ないでしょ。」降り続いている雨で濡れた髪の毛が顔全体に覆いかぶさっていたが、手で髪を上げると、二重の瞳で可愛らしい顔をしていた。歳は24歳から26歳くらいだ。
「大丈夫か。警察呼ぶか?」
「いや警察はちょっと。」
「それじゃ救急車呼ぶか?」
「救急車も駄目だよ。」全くどうしようもないな。見た感じ服は破れているが、足を挫いているだけのようだ。
「じゃー。どうしようか。ひとまず手当てしないと。」と言って肩を貸した。腕を引っ張るとナイフで傷つけたような痕が残っていた。リストカットの様だ。
「おじさん。優しいね。私にこんな優しくしてくれた人初めてだよ。」優子が指をさした。指の向こうには、ラブホテルの看板があった。別に下心があるわけではないが、介抱の為にラブホテルの中に入った。
大きなベッドに優子を寝かし、近くのドラッグストアに湿布と包帯を買いに行き、優子の足に巻いた。巻くとき「痛い。」と言った。
「足が折れているかもしれない。」
「ありがとう。これ以上あなたに迷惑はかけられないわ。」そういうと、気絶したように眠ってしまった。
その間、破れた服をどうにかしないといけないなと思い、近くの服屋に行き、適当に買った。女性の服を選ぶのは、昔彼女に買ってあげた以来だなと思った。
店員がプレゼント用ですかと聞いたので、不自然にならないように「そうだ。」と答えた。
ホテルに帰ると、優子は、相変わらず寝ていた。よっぽど酷い目に合わされたのだろう。
冷蔵庫から、ビールを取り出して飲んだ。テレビをつけるとエロい番組が流れた。普通のテレビはないようだ。起こさないようにテレビを消した。
約2時間くらいで優子が起きた。
「おじさん。ずっといてくれたんだ。」
「気になってね。」
「私の事なんて、どうでもよかったのに。」
「そういわずに。服を買ってきたんだ。好みじゃなかったら悪いけど。」
「うれしい。」服を握りしめると、涙をポロポロと流した。
「今まで何があったか知らないけど、生きていればいいこともあると思うよ。」
「ありがとう。」と言って、服を着替えるために風呂場に行った。ついでにシャワーを浴びているみたいだ。水の音と鼻歌が聞こえてきた。
大分落ち着いたみたいでよかったなと安心した。今日の疲れとビールで眠気が一気に襲ってきた。
ベッドでウトウトしていると、優子が新しい服を着て出てきた。
思ったより小柄の優子には、大きめのサイズで、にこちゃんマークのTシャツが長かった。チェックのスカートも長いようだったが、まくりあげて、自分で短くした。
「どう?似合うかな。」目の前でくるっと回った。回るとき、白色のパンツが見えたが見てないふりをした。
「とてもよく似合うよ。」
「何から何まで本当にありがとう。」と言って私の腕に手を回した。柔らかい胸の感触が体全体に伝わり、石鹸の優しい香りも部屋全体に響き渡った。普通の人なら襲いたくなる所だが、我慢した。
「今日は、何があったんだ?」
「大した事じゃないんだけど、売春してたら、男から襲われちゃったというわけだよ。当たり前か。」優子が初めて笑顔を見せた。
「そんな事ばかりしていると、また、痛い目に合うよ。今度は怪我だけじゃすまないよ。」
「好きでしている訳じゃないんだけど、借金がたくさんあってね。」
「そっか。」私にはどうする事も出来ない。
「おじさんは、私とやらなくてもいいの?」
「馬鹿な事いうもんじゃないよ。そういう事は本当に心から愛する人とするものだよ。」
「そうなんだ。やっぱりおじさんは、優しいね。」と言って、安心したのか、私の隣でスヤスヤと眠ってしまった。とても疲れているようだ。
ホテルの部屋を延長をして、部屋代を多めにテーブルに置いて、メモを残して自分の家へと帰った。
次の日の朝、優子が目覚めてテーブルのお金とメモを読んだ。
「おじさん見ず知らずの私なんかの為にありがとう。」
清々しい気持ちになり、今日で売春は二度としないと誓った。
あの日の出来事は、忘れそうにもない。
ボロボロの優子は今頃、何をしているだろうか。幸せになっているだろうか。
そんな事を考えながら、コーヒーを飲みながら午後の雨を見ていた。
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