恋愛ブログ

世にも不思議な物語。
出会いの数だけドラマがある。
一日一話愛の短編物語。
〜ショートストーリー〜

3.葬儀屋

2007年05月24日 | 幻の恋
 薄気味悪い月夜の晩。静寂の中に時々犬の鳴き声が聞こえてくる。
 提灯のボンヤリとした薄暗い明かりと塀に埋め尽くされた黄色の菊の花。
 そこはまるで異次元空間のように違う世界に思われた。
 葬儀屋をして大分月日が経った。人の死に関わる仕事をして本望だ。
 葬儀屋はけして笑ってはいけない。いつでも暗い顔で接していかないといけない。
 例え、葬式の顔写真で禿げた人が写っていようが、唇が腫れていて、道端に咲く彼岸花のような顔だとしても笑ってはいけない。
 今日も黒い服を着て、眉毛をへの字に曲げ、この世の終わりみたいな顔をして参列しているお客を相手に頷いている。
 死んだ人と関わりをもった暗い顔をしたお客たちが次々に手と手を合わせている。その中を幼い子供がチョロチョロと動き回っていた。子供は無邪気でいい。人の生死なんて分からないのだ。
 親と親はしかめた顔をして気の毒そうな会話をしている。
 そんな中、霊が見える事がある。
 この前の葬式からだ。
 私が好きな感じの女性の葬式だった。確かスナックで働いていて、自殺をした葬式だった。
 私が葬儀の準備をしている最中に薔薇の様な真っ赤な服を着た女性から話しかけられた。
 「こんばんは。今日はよろしくお願いします。」長い睫毛が印象的で、優しい目をした細い女性だった。
 私も「こんばんは。こちらこそ。」と挨拶をして振り返ると後ろには誰もいなかった。
 おかしいな。葬式に赤い服を着てくるなんてよほど死んだ人に恨みがあるに違いないと思っていた。
 私はその後びっくりした。
 葬式の真ん中にある顔写真があの赤い服を着た女性だったのだ。
 背筋がぞっとして、身震いを起した。
 それからというものその女性が時々現れる。
 よほどこの世に未練があるのだろうか。
 今も隣で哀れんでいる可憐な女性が立っている。
 
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