５．秋の雨

　秋の雨はなぜこんなにもせつないのだろう。冷たい風に吹かれて雨がポツリポツリと降っていた。私は近くの家の屋根で雨宿りをしていた。隣には若くて背が高いジーパンがよく似合う女の人がいた。まつ毛が長くて目が透き通るように薄い茶色の女の人だった。私と目と目が合うと話しかけてきた。
　「雨ひどいですね。」
　「そうですね。」何気ない会話だったが、私はその女の人に好意を抱いてしまった。目が大きな彼女にうっとりとしてしまった。ずっと見つめていると、彼女が何か私の顔についてますかと聞いてきたので、いや別にと苦笑した。
　私は、彼女とずっと話していたかったので、映画の話しを持ちかけた。
　「あの映画面白かったですね。」
　「見てませんけど。」彼女が素っ気無く答えた。私は、答えてくれると思ったのに冷たい言い方をされてムカッとした。やみそうにない雨にも腹がたった。
　「お名前はなんていうのですか？」彼女がさっきとは変わって雨を見ながら言った。私はうれしくてヒロシと言った。私も気になったので名前を彼女に聞いた。
　「ミユキです。」彼女は、テレながら答えた。私達はもう名前も聞いたから他人ではないよねと心の中で自問自答しながら彼女の横顔を見ていた。絵に描いたように美人な顔つきだった。私が絵描きならきっと横顔を書くだろうなと思った。やっぱり全体的に彼女を書いた方が華やかだろうか等と頭で思い描いていた。さすがにヌードにはなってくれないだろうと変な事を考えていたら、傘を持った背が高い男の人が隣にあらわれていた。
　「お前ちゃんと傘持っていけよ」男は強気な口調で彼女に言っていた。
　「ごめん。ごめん。」彼女は、とぼけて舌を出していた。私の方向を向くと面白い話しありがとうと言って男とあいあい傘をして楽しそうに帰って行った。
　私はポツンと雨の中独り取り残されてずっと雨を見ていた。本当にやみそうにない冷たい雨にいらだった。
　だから秋の雨は嫌いだ。