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世にも不思議な物語。
出会いの数だけドラマがある。
一日一話愛の短編物語。
〜ショートストーリー〜

6.正月

2007年01月01日 | 冬の物語
 仕事が正月休みという事もあり、近くにある神社にコウタロウを連れて初詣に来た。正月ということで人が多くて賑やかだった。遠くから篠笛が鳴り響いていた。 昔からこの音を聞くと、お化け屋敷を思い出すのは私だけだろうか。
 近くの屋台からは、何か焦れたような匂いがしてくる。目の前のたい焼き屋の臭いだろうか。
 私がたい焼きを食べるかとコウタロウに聞くと、コウタロウはお面屋の前に立ち止まり、店のおじさんから話しかけられていた。
 「ボウズ。仮面ライダーのお面はどうだ。」
 「おじさん。今は初代のライダーは古いんだよ。ブレイドはないの?」少し考えてコウタロウは答えた。
 「ブレイド?そんなもんはねぇな。それじゃこっちのウルトラマンはどうだ?」おじさんが丸太のような手で笑ったように見えるウルトラマンのお面を渡していた。
 「こっちも初代のやつだね。メビウスはないの?」手に取ったコウタロウは一通り見渡して言った。
 「ボウズ。おじさんも商売でやってるんだぞ。ウルトラマンシリーズを全部売ってたら、破産しちまうよ。」
 「すみません。コウタロウいいお面あったか。」私は二人の会話の間に入って、話を変えた。
 「初代ばっかりで現代のがなかったよ。」
 「そうか。それじゃ次の店に行くか。」私がおじさんに頭を下げると、おじさんはお化けのかわいらしいお面をかぶって手を振っていた。
 ゴツイ顔にお面は似合わないだろうと思って、その滑稽な姿に笑ってしまった。コウタロウも笑って手を振り返していた。
 人が多くてぶつかりそうになったが、何とか次の店にたどり着いた。その斜め向かいにある金魚すくいの店は、着物を着たカップルが多かった。
 私は、お金を払いコウタロウと一緒に金魚すくいをした。
 「なかなか取れないな。」私が目が大きな金魚をすくおうとしたら、勢いよく飛び跳ねて網がだめになった。金魚も命がけで捕まりたくはないのだろう。
 「お父さん。下手だな。」と言ってコウタロウは赤い小さな金魚をうまい具合に一匹取って見せた。
 「うまいな。」誰に似たのか器用なのは母親譲りなのかもしれない。
 私が後ろでコウタロウの勇姿を見ていると、隣に赤い振袖がよく似合う女の人がいた。私は振袖の赤い模様が何となく金魚の形に見えた。女性の顔をどこかで見た事があるなと思っていたら、遠い昔に忘れていた人だった。
 「あら、お久しぶりね。」絵巻から飛び出して来た様な佇まいに唾を飲み込んだ。
 「どこかで見た顔だと思ったら、さゆりか。」高校の頃の同級生だと気づくのに少しの時間がかかった。
 「今日はお子さんと来てるの?」
 「そうそう。コウタロウっていうんだ。」コウタロウは金魚すくいに夢中になっていて、頷いているだけだった。私が挨拶はと言ったら仕方なく挨拶していた。
 「さゆりも結婚したと聞いたけど、今日旦那さんは?」随分と考えた挙句に変な質問になってしまって自分で笑ってしまった。
 「結婚したけど、別れちゃって。今子供と来ているの。隣のお面屋さんにいる女の子がいるでしょ。あれがうちの子なの。」さゆりがお面屋の方向を指差した。その動き一つ一つが江戸時代からタイムスリップしてきたかのような気持ちになった。確かにかわいい女の子がお面をかぶったおじさんと話しをしていた。
 「そうか。いろんな事があったんだね。」美人ほど色んな事があるものかもしれないなと頭で考えていると、下で金魚をすくっていたコウタロウが網が破れたと大声で叫んだ。
 「結構取ったな。」コウタロウは、うれしそうに3匹袋に入った金魚を持ち上げた。
 「こうたろうくん。すごいじゃない。私の子供にも教えてあげて。」と言って、女の子を呼び寄せると、コウタロウと女の子は一緒にすくい始めた。
 「こうやって子供を見ていると、いろいろあったけど、幸せだったと思えるの。そうだと思わない?」さゆりがふと空を見上げて呟いた。
 「もちろん。思うよ。何か元気ないみたいだけど、落ち込まず頑張りなよ。俺でよかったら何でも相談に乗るからさ。」
 「ありがとう。やさしい所は昔と変わらないのね。奥さんは幸せものだ。」コウタロウは、柄にもなく女の子に教える時だけ緊張している様子だった。いったい誰に似たのだろうか。
 その後、輪投げをしたり、弓矢をしたりして、四人で遊んだ。知らない人から見たら、家族に思われていたに違いない。
 こんな風になりたいと思っていたのは遠い昔の事だった。さゆりも私が好きな事くらい感じていただろう。あの頃から、恋の噂が耐えないさゆりは、今も恋に生きているのだろうか。
 「今日は面白かった。嫌な事が吹き飛んだわ。ありがとう。」
 「いえいえ。俺も楽しかったよ。こんな美人と一緒に歩いていて鼻が高かった。」
 「またまた。冗談ばっかり。」女の子とコウタロウが私の顔を何か言いたそうに見ていた。私は何も言うなよとコウタロウの頭を撫でた。
 「それじゃ。また。」さゆりが背中を向けて、子供と話しながら人ごみの中帰っていった。帰る時も一際目立つ姿に笑みがこぼれた。
 「お父さん。そんなにデレデレしていたら、お母さんに怒られるよ。」
 「うるさいな。デレデレなんてしてないよ。何か欲しい物はあるか。」コウタロウに今日の出来事を言わない様に口止め料を払って神社を後にした。
 
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