絵と書でつづる自分史
///古希をまえに///
書を習い始めてかれこれ10年になろうとしています。二年に一度「書游展」を開催し、その都度、自分史を絵と書で表現しています。古希を前に自分の来し方を振り返り、今と明日の自分を見つめています。
◆ ◆ ◆
自分史(その1)
柿の木が庭に二本
真っ赤に色づいた実を
美しいと思った
九才だった
母が菊の花を丹精こめて育てていた
母の花への想いを知った
十二才だった
〝雨に濡れし夜汽車の窓に映りたる
山間の町のともしびの色〟
啄木のうたが 心にしみた
十八才だった
学生時代から友達だった人と結婚する
お金がないから たんぽぽの花で作ったエンゲージリングをくれた
二十三才だった
生まれた子どもとふるさとへ
初めて吉野川を見て
〝かあさんの川 みどりの川〟とかわいい声で叫んだ
二十六才だった
〝雨ふるふるさとは はだしで歩く〟 ふるさと恋し
六十四才の秋
◆ ◆ ◆
人生史(その2)
一ヶ月も早く 小さな小さな赤ちゃんが生まれた
一週間のいのちかと
桜の花が 咲き始めていた
百姓仕事の合間をぬって
からだの弱い私を背負って
針治療に通ってくれた
母の背中はぬくかった
木登り大好きなのに
学校じゃ手もあげられない
恥ずかしいもん
叱られて 菜の花畑を走って帰ったあの日
こんなわたしが 今じゃ人様の前で講演なんかするようになって
母さん びっくり
六十六才の秋
◆ ◆ ◆
人生史(その3)
じいちゃんが戦死してたら
ぼくらこの世におらんかったと
三人の息子
あの玉砕の戦場から生きて帰った父
戦地で侵されたマラリアで苦しむ姿に
わたしは戦争を知り 戦争を憎んだ
土に生まれ 土に生き 土にかえった父
灼熱の炎天下 白瓜の取り入れ
まさに瓜地獄
肩で息して働く父と荷を曳く牛の荒い息づかいを忘れない
働いて生き 生きて働いた父
百姓の魂を貫いた父
凛とした花を生け
美しい書をかく父であった
〝花茨釣れてくる鮒のまなこの 美しきかな〟(夢道)
ふるさとの大河 今もゆったり大らかに流れる吉野川
今日も夕焼けが美しい
六十九才の春に
(とさ・いくこ和歌山大学講師)