東日本大地震・大津波と福島原発事故について 増田 善信
はじめに
多くの犠牲者のご冥福を祈るとともに、被災者の皆様の一日も早い復興を願っています。
強い放射線の中で、「決死的な」放水作業に当たった消防士や警察官、自衛隊員によって危機的な状態からの脱出が出来たように見えますが、まだまだ予断は許さないと思います。その消防士の一人が「自分たちは放射能にたいする専門的知識があるので、その危険がよくわかり、非常に緊張を強いられた作業だった」と記者会見で述べていました。
今こそ、原発や放射線に対する正しい知識を持つことが要求されていますが、正しい知識が広く行き渡っていないことを良いことに、適当なごまかしの会見を開く東京電力や原子力安全・保安院などはもってのほかです。安全・保安院は福島第1原発に常駐させていた7名の職員をさっさと退避させたといいます。本当なら許せないと思います。
原発事故の問題には冷静に対処することが求められています。東電や安全・保安院のように、「安全だ、安全だ」というのは確かに間違いです。すでにロシアは日本駐在の大使館員の一時帰国を決め、アメリカ、韓国は在留の人の80キロ圏からの退避を勧告しています。しかし、同時に具体的な対処方法をいわないで「危険だ、危険だ」と煽るのも間違いです。
私たち日本人は逃げていくわけにはいかないのです。私たちが提起している「おそれて、こわがらず」の態度を堅持して、どんな場合でも被害を最小限に食い止めて生き抜かねばならないのです。
そこで、今回の原発事故について私見をまとめてみました。既に他の数人の人に伝えた内容も含まれていますので、重複する部分もありますが、それに最近の事実を加えてまとめたものです。ご批判頂きたいと思います。
1.「放射線の強さは距離の2乗で減る」の間違い
某紙の「放射性物質どう防ぐ」という記事の中に、「放射線 距離の2乗に反比例」という解説がイラスト付で掲載されていました。しかし、これは不十分というより、間違って取られるおそれがあると思います。
放射線の被害を考える場合は、核分裂物質ウランやプルトニウムなどが核分裂をするときに出す放射線と、核分裂生成物(ウランやプルトニウムが核分裂した結果他の元素に代わって放射線を出すもの)が出す放射線の2種類を考える必要があります。距離の2乗に反比例して弱くなるのは前者で、核分裂している場所から約2キロでほとんどゼロになります。原爆が爆発した直後の被爆者が受けた放射線やJCO事故で作業員3人中2人を死亡させ、工場の周辺の人500人くらいに影響した放射線です。
一方、後者は今回の原子炉事故でも既に周辺で測定され、遠く東京でも測定されたと言われている放射線で、福島県産の牛乳、茨城県産のホウレンソに含まれていることが確認されています。すなわち、放射性微粒子による放射線で、最も有名なのがチェルノブイリ事故で周辺に撒き散らされたものです。
この放射線は距離とは無関係で、放射性微粒子が風で流され、雨や雪と一緒に降ってきて地域を汚染します。この場合は、放射性微粒子がくっついたり落下したりしたチリや衣服などが問題になり、呼吸や水・食糧で体内に採り入れると内部被曝を起こしますから、外出時は帽子を被り、マスクをするとか、ぬれタオルで口を塞ぐなどし、出来るだけ体を洗う。特に髪の毛を良く洗う、着ていた衣服は直ぐ水洗いする。葉菜類や果物は良く洗ってから食べる必要があります。
しかし、前記の新聞もそうですが、この二つをごっちゃにしている人が多いのです。この新聞も放射性ヨウ素やセシウム、ストロンチュウムの話の後に、放射線の強さが2キロで1キロの4分の1になると書き、イラストまで示しています。放射性微粒子はその時の風によって何処へでも運ばれ、雨や雪と一緒になると、遠く離れたところでも強い放射性物質で汚染された地域をつくります。ところが「距離の2乗で減る」と書くと、「原発から2キロ離れれば大丈夫」という間違ったメッセージに受け取られかねません。
セシウム、ストロンチュウムなど放射性元素は、もちろん、その元素の種類によって、アルファ線、ベータ線、ガンマ線、中性子線のうちのどれかを出し、その放射線自体は距離の2乗で少なくなりますが、問題はそれら放射性微粒子が、皮膚などについたり、体内に入って内部被曝をすることです。そしてその時は主としてアルファ線とベータ線が問題になるのです。
内部被曝とは、空気、飲料水、食物などで口から入った微量な放射性物質が、体内で放射線を出し続けて細胞に害を与える結果、がんや白血病などの病気をもたらす現象です。内部被曝で最も問題になるのがアルファ線です。アルファ線は1mm位の紙でも防げるものですが、体内では1mmの間に何億という細胞が詰っています。従って、この細胞がアルファ線によってダメージを与えられる可能性があるのです。
しかし、この内部被曝もそうですが、弱い放射線の問題は、放射線を吸い込んだ人全部が病気になるわけではないのです。すなわち、たまたま放射性微粒子を吸い込むのであり、たまたまその微粒子の1個が肺の先端や、腸壁などにくっつくのであり、くっついた人全部が発病するわけではなりません。すべてのことが、確率的に起るのですから、それほど心配する必要はありません。
原発問題については、危険性を煽るような主張を垂れ流すのは止めるべきです。放射性物質には「恐れて、怖がるな」という態度で接すべきです。ただ恐怖だけを煽っては生きてはいけません。放射性物質は非常に危険なものであることは事実です。従って、その危険性を訴え、病気治療のようなやむを得ない場合は別として、出来るだけ近寄らない。すなわち「恐れる」のです。
しかし、同時に微量な放射線の人体への影響は「確率的なもの」です。放射性物質に触れたり当たったりした人の全部が病気になるわけではありません。病気になる人は確率的ですから「怖がるな」です。
従って、「確率を上げるようなことはやってはならない」というのが鉄則ですが、「放射線に当たった人全部が死ぬわけではない」のです。確かに、今回の事故は深刻です。しかし、ある人のように「日本から逃げ出す以外にない」というだけでは解決になりません。ただ危険性を煽る人たちは具体的な解決策を提案しないままで、危険性だけを強調しています。
マスコミは「安全だ、安全だ」という人と「危険だ、危険だ」という人だけを採り上げ、私たちのように、危険性を訴えると同時に、どうすれば被害を最小限にすることが出来るかを強調する人はほとんど呼ばれません。ところが「民主的」といわれる人の中では危険性だけをうたえる人がチャホヤチャホヤされがちです。しかし、これでは本当の解決にはならないと思います。