昨夜はエル・おおさかで行われた「緊急講演会 橋下市長に反論! 吉見義明さん語る~『強制連行』はあった」(主催:日本軍「慰安婦」問題・関西ネットワーク)に参加した。
吉見義明さんは1991年から日本軍「慰安婦」問題の研究をはじめられ、このテーマで多数の著書がある。「慰安婦」制度は日本軍が作り、維持、拡大していった性奴隷制度であり、被害者の女性たちは強制連行され、強制使役されたと明確に述べられてる日本近代史の専門家だ。
ところがこの吉見さんに対して8月24日、橋下大阪市長は「吉見さんという方ですか、あの方が強制連行の事実というところまでは認められないという発言があったりとか」と記者会見で語り、これに対して吉見さんは昨日、橋下市長あてに「これは明白は事実誤認であり、私の人格を否定し、名誉を棄損するものです。この発言を撤回し、謝罪することを要求します」と抗議文書提出、この集会での講演となった。
吉見さんは橋下市長の「慰安婦」問題の発言について4つの特徴を指摘した。
1.軍・官憲による、暴行・脅迫を用い拉致(略取)があったかどうかに問題を限定、木も見ず、森も見ない議論。
2.慰安所経営での軍の責任を否定。公安委員会が風俗営業を管理するのと同様の「公的管理」だとする軍が主役であることを知らない議論。
3.「強制」の定義の矮小化。「本人の意思に反して行われた」行為(1993年河野談話の定義)では広すぎるとする。
4.日本の公文書に書いてあるかを問題にしている。
吉見さんはこのような橋下市長の発言について次のように検証・反論された(以下、筆者メモ概略から)。
●軍・官憲による暴行・脅迫を用いた連行は数多くあった。具体例として、少なくとも24人の少女が連行・使役したスマラン事件、7件のケースを列挙したオランダ政府報告書、中国山西省や海南島のケース、フィリピンのケース、軍・官憲による誘拐のケースなどがある。
●朝鮮・台湾では、軍または総督府が業者を選定し、業者が誘拐や人身売買により連行することが行われた。これも強制連行だ。略取・誘拐・人身売買(海外に連れて行く)は当時でも犯罪になっている(刑法226条)。軍は業者が集めると、誘拐・人身売買になることはわかっていたはず。証拠としては被害者証言のほかに米軍公文書や軍人、新聞記者らの証言もある。
●さらに、慰安所制度は性奴隷制度で自由意思ではない。誘拐・人身売買であることわかっていても犯人を逮捕せず、被害者を解放していない。
●「慰安婦」制度を創設・管理・拡大した主役は日本軍だ。設置命令など公文書が存在する。軍の後方施設としての法的根拠もある。設置動機からくる監督・統制の必要性もあった。
●橋下市長は強制の定義を「暴行・脅迫を受けて連れてこられた」場合に限定しようとするが、河野談話で日本政府の定義した「本人の意思に反して行われた」は極めて当然の定義であり、このことを変更させてはいけない。
●橋下市長は「日本に公文書がないから」というが、このような「強制連行」を指示する公文書がそもそも残されるわけがない。自国に公文書がないことが証拠がないことにはならない。北朝鮮の拉致認定の事例も警察庁にある。また、被害者や元軍人、さらに新聞記者たちの「痛覚」ある語りが反証不可能である場合、それが確かな証拠となることは今日の裁判の例を見れば明らかだ。
●国家責任の取り方としてEU議会決議(2007年12月13日)は、1.あいまいさのない明確な認知と謝罪を行うこと、2.賠償を行うための効果的な行政機構を整備すること、3.裁判所が賠償命令を下すための障害を除去する法的措置を講ずること、4.事実を歪曲する言動に対して公式に否定すること、5.史実を日本の現代と未来の世代に教育すること。
というように、吉見さんの主張は明確だ。
9月24日、橋下市長の発言を受けて、韓国からやってきた被害者の一人、金福童ハルモニは橋下市長への面会を求めて大阪市役所に行った。そして当局との面談でご自身の被害体験を話しながら次のように語られた。
「市長には何も知らないくせにやたらなことを言うなと伝えてください。私は過去のことを何も知らない市長が「慰安婦」について、いただのいないだのというような暴言を吐いてはいけないと思います。私たちのことに関しても、自分の意思で、金儲けのために行った、民間人に連れられて行った、そういうことを言っています。でも日本に来るわけでもない、あの戦場に民間人がどうやって自分勝手に数千数万という人たちを連れていくことができたでしょうか。政府が容認しなければそんなことは絶対にできなかったのです」
「橋下市長にもお子さんがいて、(中略)もしも自分の娘が何年間もそんなところに連れて行かれて軍人の相手をさせられたらと思ったらどういう気持ちがするでしょうか? 再びこのような暴言をしないように記者たちの前で誓い、謝罪していただきたいと思います。私が今日いったことを一言も漏らさずに市長に伝えていただくようにお願いします」
だが、ハルモニや吉見教授に対して橋下市長からの反応は何もない。
講演会の終わりに司会の方が言われた。「ジェンダー意識のないリーダーは国際的には通用しない」
そう、国政進出をめざして全国遊説などを行う橋下市長だが、とてもじゃないけど今後の日本を彼に託すわけにはいかないのだ。