山内 圭のブログ(Kiyoshi Yamauchi's Blog)

英語教育、国際姉妹都市交流、ジョン・スタインベック、時事英語などの研究から趣味や日常の話題までいろいろと書き綴ります。

読書案内:北川民次『メキシコの青春―十五年をインディアンと共に』(エフエー出版, 1986)

2021-02-23 00:08:52 | 日記


このところ、メキシコ関係の書籍の紹介が多いのは、現在、作家ソール・ベローの絵がいたメキシコについて研究を行っているからです。

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ベローがメキシコを描いた作品は、「メキシコの将軍」、『オーギー・マーチの冒険』、「モズビーの思い出」と3つがありますが、その作品中の背景知識を得るため、メキシコについての著作を読み漁っています。

北川民次著『メキシコの青春―十五年をインディアンと共に』、この書は古本屋で見つけ、画家の北川氏がメキシコに住んでいたのはちょうどベローがメキシコに行っていた頃と同じ時期だなと思い、参考になるかなと思って購入しました。

北川氏は、静岡県出身で早稲田大学を中退してアメリカに絵の勉強に渡りました。

ニューヨークでは、クニヨシ・ヤスオなどとともに修行時代を過ごしました。
クニヨシについては以下も参照ください。
ヤスオ國吉岡山展見学 - 山内 圭のブログ(Kiyoshi Yamauchi's Blog)

北川氏は、ニューヨークを出て、キューバを経てメキシコに渡り、メキシコに住みいろんな経験をしますが、これは、その若い頃のことを回想して書いた書です。

僕自身、ソール・ベローの研究をして日が浅いので、作品も読みつつ、彼の伝記や参考書や関連書なども同時に読み進めているのですが、ベローの伝記の一つ
Zachary Leader著 The Life of Saul Bellow: To Fame and Fortune 1915-1964を読んでいたら、

Like Mosby's villa above Oaxaca, the villa the Bellows and the Passins rented while in Taxco was on a hill overlooking the town. It was owned by a Japanese painter, Tamiji Kitagawa, ...(p.230)
の記述を見つけた時には、本当に小躍りしたくなるような興奮を覚えました。

つまり、ベロー夫妻が友人のパッシン夫妻とともにタスコに住んでいた邸宅は日本人画家の北川民次によって所有されていたと書かれていたのです。

文学を研究していると本をめぐる出会いをときどき経験しますが、これもまさしくその一つでした。

古本屋でもしかしたら参考になるかもしれないかと思い、買った本が本当に関係深いものだったのです。

そして、北川氏の書を読み進めてみると、

 タスコには早くも数千名の外国人定住者が尻をおちつけていた。それらは、まだ売りだし前の小説家や、画家の卵や、著名な財界人におきざりをくった未亡人や、廃物に なった思想家などが多かったが、中には、ハンガリア生まれの美しいバレリーナもいたし、ニューヨークで有名な美容師もまじっていた。これらの人びとは以前の職業や経歴が一人ひとりちがっているにもかかわらず、タスコへくると一様に、ソムブレーロをかぶり、インディアンのサンダルをはき、同じ種類の酒をのみ、同じような愚にもつかぬ空論をとりかわして毎日をすごした。彼らの大部分は、べつだん日課となるような用事もないのに、午後三時ごろになると規則正しくドニア・ベルタという、メキシコ婦人の経営する小さな酒場に現われ、日ぐれまで、また、ときによると夜の十一時ごろまでも談笑した。(pp.182-183)

という描写が見られました。

ここにある「まだ売りだし前の小説家」というのは、タスコに住んでいた翌年に初めて雑誌に作品が掲載された「まだ売りだし前の」ソール・ベローのことではないでしょうか!

実はこのことは、おそらくまだどなたも指摘していないある意味「大発見」と言えると思います。

これも含めたメキシコとソール・ベロー文学についての僕の論文は、近いうちに発表になります。

詳細が決まりましたらまたお知らせをさせていただきます。

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