エジプトがトランプ、そして日本に期待する理由――政府高官に聞いた
2017.04.22(liverty web)
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《本記事のポイント》
- エジプトの平和は、オバマではなくトランプ氏がもたらす
- 「アラブの春」が生んだのは、「民主主義」ではなく「テロと難民」
- 中東の民主主義実現に欠かせないのは「日本の教育支援」
アメリカとアラブ諸国が接近している。
トランプ米大統領は今月、エジプトのシシ大統領をワシントンのホワイトハウスに迎え、「我々はエジプトとエジプト国民を強く支持していることを知らせたい。シシ大統領は、難局に素晴らしい仕事をした」と賛辞を贈った。
これに対してシシ氏も、トランプ氏を「強い大統領」と讃え、「テロに立ち向かうために米国と協力する」と述べた。
シシ大統領は、オバマ大統領時代、いわゆる「人権弾圧で悪名高い軍事独裁者」と見なされていた。そのため、ホワイトハウスに招待されることもなかった。
トランプ氏とシシ氏は、固く握手を交わした。ドイツのメルケル首相とは記者団から促されても握手をしなかったのとは対照的だ。
トランプ氏は、共和党の重鎮マケイン氏らが依然として懸念する人権問題については、公的な場では持ち出さず、シシ氏とイスラム国掃討、パレスチナ問題の問題で協力していくことで一致した。
アメリカのリベラル系のメディアは、この会見がシシ氏の権威を高めることになると、一斉に批判。「エジプトの独裁者を歓迎した」(Politico)などの見出しが躍った。
トランプ氏は、3月15日にサウジアラビアのサルマン副皇太子、3月20日イラクのアバディ大統領、4月5日ヨルダンのアブドラ国王と会談。スンニ派アラブ諸国のリーダーたちと立て続けに会っている。
イスラム国掃討をはじめ、シリア問題やイラン問題、パレスチナ問題への対策のためにも、スンニ派諸国の協力が必要だからだ。
中東の混迷の原因は?
中東がこれほど多くの問題を抱え込むことになったのは、オバマ政権の政策に原因がある。
エジプト政府高官で、現在、情報局の部長である(Communication Counselor to Egyptian Government)のジョセフ・アミーン氏は、本誌取材に対し、トランプの中東政策についてこう述べた。
「私は、トランプ氏のイスラム国へのスタンスに賛同しています。オバマはスピーチだけでしたが、トランプ氏は、行動が伴うのではないかと思っています。
オバマ政権時代に、中東で問題が噴出しました。そもそも2011年に始まった『アラブの春』は、中東でアメリカが中東の地図を変えるために起こしたものです。その結果、中東に混乱が起きました。エジプト、アルジェリア、リビア、シリア、イエメン、イラクなどでは内紛が絶えません。
2011年以降、エジプトでは、人口の1割を占めるコプト教徒に対するテロが増えています。アレキサンドリアとエジプト北部タンタでも、コプト教徒がテロで狙われ、40人以上が亡くなったばかりです。もともとイスラム教徒とキリスト教徒は、これまで兄弟のように仲よく、助け合って暮らしてきたにもかかわらずです」
「アラブの春」から5年が経つが、各国では混乱が続く。アミーン氏はこう話す。
「私たちは、地域独自の問題をかかえています。ですから『アラブの春』は現地の問題に応えるものでなくてはならないのです。私たちはアラブの春の後遺症で苦しんでいます。エジプトはまだいいほうです。なぜなら、エジプトは強い軍があり、知識人層が、外国で何が起きているかを理解しているからです」
この発言は、訪米中に保守系メディアのインタビューに応えたシシ大統領のコメントとも合致する。シシ氏は、オバマ大統領の政策により、「中東全域が被害を被っている」と強調している。
2010年、チュニジアから始まった「アラブの春」だが、エジプトでは独裁者が倒れたあと、イスラム原理主義を奉じるムスリム同胞団が政権を取り、リビアは無法地帯となった。中東全域にイスラム国も拡大してしまう。特にシリアは、アサド政権と反アサド派との内戦で国内外1000万人を超える難民が発生。その多くがヨーロッパ諸国に向かったが、たどりついた難民問題は、EU各国の選挙での大きな争点となっている。
シリアでは、4日、アサド政権による神経ガスとみられる化学兵器の攻撃を受けて、トランプ大統領が化学兵器による空爆の基点となった空軍基地にトマホークミサイル59発を撃ち込んだばかりだ。
教育面での日本の支援を期待したい
「アラブの春」でまかれた民主主義の種が「民主主義」という実りを迎えた国は一国もない。それどころか「アラブの秋」の果実とは、テロの拡大と大量の難民だ。
フランス革命にもみられたように、指導者層と民衆との格差がありすぎると、暴力革命になりがちであることは歴史の常である。議会制民主義が成功したといわれるイギリスでさえ、選挙権は漸次的にしか拡大していない。産業革命後から1928年の普通選挙の実施までおよそ150年の歳月を要している。
実り多き「秋」を迎えるには、独裁者を倒して、普通選挙を行うだけでは足りない。教育を通して、国民全体の教育水準の底上げが不可欠だ。
教育面で、日本の支援は欠かせないとして、アミーン氏はこう語る。
「私の国やアラブ諸国は、日本が高い道徳性を持っていることをとても尊敬しています。日本の教育システムも素晴らしいと思っています。日本の高い技術を学び、近代化しなければならないと思っています」
民主主義を突然に押し付けることが、中東地域の平和と発展につながるわけではない。この意味で、世界の警察官としてアメリカを復活させようとしているトランプ氏に、中東諸国がこぞって期待をするのは当然だろう。アラブ諸国は、安定した秩序と真なる発展・繁栄を求めている。近代化には息の長い教育が必要であることに、西洋社会も目覚めるとともに、日本もかけられている期待に応える努力をし続ける必要がある。
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