重要文化財「杉本家住宅」・名勝「杉本氏庭園」
杉本家は、寛保3年(1743)、「奈良屋」の屋号をもって烏丸四条下ルに呉服商を創業、明和4年(1767)現在地に移った。京呉服を仕入れて関東地方で販売する他国店持京商人として繁栄した。
現在の主屋は元治元年(1864)の大火後に再建され、棟札によれば明治3年(1870)4月23日に上棟。この時の当主は第6代左衛門為賢、棟梁は菱屋利三郎と近江屋五良右衛門。主屋は表通りに面する店舗部と裏の居室部を玄関でつなぐ表屋造り形式。京格子に出格子、大戸、犬矢来、つし二階に開けた土塗りのむしこ窓、すべてが昔ながらの、典型的な平格子のたたずまいである。町屋としては市内最大規模。各一間半の床と棚を装置した座敷、独立棟として西に張り出した仏間、大きな台所などに特色著しい。保存状況は良好で、京都における大店の建築遺構としてきわめて高い価値を有する。主屋の北寄り、鍵型に並ぶ大蔵・隅蔵・中蔵は江戸時代の建築で、元治の大火には焼け残ったと伝える。祇園祭の際、店の間は当町伯牙山のお飾り場となる。杉本家住宅は、京都市有形文化財(平成2年2月20日指定)に指定された後、平成22年に改めて国の重要文化財として指定を受けた。その際には、土地があわせて保存を図る対象とされたほか、主屋の建築に関する史料として「棟札」(明治3年4月)「御本宅積り書」(明治3年2月)が、屋敷構えの変遷を伝えるものとして「旧米蔵」「旧漬物小屋」「高塀」がそれぞれ附指定された。また、この建物内の「庭」は「京町屋の庭」として初めて国の名勝指定を受けた。この名勝指定範囲は、「座敷庭」「露地庭」「仏間庭」と併せて「店庭」「走り庭」といった町屋の特徴である屋内に細く伸びる「通り庭」を含んでいる。これは従来の指定に見られる眺望または園遊する「庭」にとどまらず、日々の生活に欠かせない作業場として「庭」が加えられているところに特徴がある。