THE NET 網に囚われた男/キム・キドク監督
北朝鮮で家族と共にしあわせに暮らしていた漁師の男だったが、網がエンジンにからんで故障し韓国側に流されてしまう。囚われてスパイ容疑をかけられ、厳しい尋問を受ける。特に不審な点は無いが、強靭な肉体と精神力を持っていたために、執拗に拷問を受ける。また亡命する気もさらさら無いが、韓国側は発展した国を見せたら気が変わるだろうと、繁華街に放置してみるのだったが…。
とにかく運の悪い男の映画なのだが、普通であれば、必ずしもそうでは無いという前提がある。普通であれば、北からはあらゆる手段を使って亡命しようとする者の方が多いからである。そういう立場からすると、実際は大変に幸運な形で南にたどり着いたはずなのである。ただし男はこれっぽっちも亡命など望んでいない。しあわせな家族愛があるからである。しかし亡命という普通の幸運を放棄してしまったために、不幸に陥るという事になるんだろうか。北から来たものがすべて亡命を望んでいるような前提があるならば、確かにこの男は極めて不審である。家族と離れたくないという極めて普通の希望があるために、ある種かなり異質な頑なさを見せているように取れるという事だ。実は尋問官の個人的な偏執などにも囚われて、人間的に窮地に立たされていくことになる。軍隊経験などもあり、屈強であるからこそ、この不幸から逃れられないのである。
結果的に北に帰る事が出来るのだが、それは観て確かめてください。これも予想通り一筋縄に行かない。どちらの国も大変に恐ろしいのである。そして、男にとっての不幸も象徴的に描かれている。
面白い映画ではないが、さすがキム・キドク監督といった作品である。これまでの作品からすると地味ですらあるが、多少それは意味が違う。重たさは、さすがである。気持ち悪さも含めて。という事で、お勧めなんだが面白い映画では無いかもしれない。気分が悪くなりたい人は、観て損は無いでしょう。