ベイビー・ドライバー/エドガー・ライト監督
天才的な運転技能を持っている青年は、犯罪グループの逃走を請け負う事を仕事にしている。しかしこの青年は過去の事故の後遺症なのか、耳鳴りが酷いためにいつも音楽を聞いている。対人関係に難があるために犯罪グループともコミュニケーションがとれていない。そういう中恋に落ちるが、組織の仕事も断れず、さまざまな困難の中、また大きなヤバい仕事が待ち受けているのだった。
基本的に痛快なアクション劇になっている。テンポがよく、映像と音楽の絡みがとてもいい。一種のプロモーションビデオのようなものが、いくつも積み重なって成立しているストーリーになっているようだ。過去の状況設定と、現在の非常にヤバい状況が、密接にからんで、さらに主人公なりの正義感や倫理のようなものが当然あって、犯罪を助けながらも葛藤するという複雑なことが行われていくのだった。
という事なんで、娯楽的には大変によくできた作品である。僕はロック好きなので、音楽とカー・アクションが絡んだ映像は、確かに大変に楽しめた。恋愛劇もぶっ飛んでていいと思う。さらに悪人たちも個性的でとてもいいと思う。ただ一点非常に馬鹿らしいのが、何と言っても主人公の正義感であろう。物語が台無しになるほどの欠点に思えた。
特に悪人カップルに対しての態度が酷すぎる。これほど残酷なことをしておきながら、許されていいものか、僕の倫理観が許せないと叫んでいた。人間的にダメなものを、喜んで観るわけにはいかない。そういう訳で非常に残念な物語だった。
せっかく途中までは最高に楽しんで観ていたのに、観た後の気分は最悪だった。世の中にある、このような単純な正義というのはどうしたものか。悪人だから残酷に殺していいという倫理は、人間としてどうなのだろう。もちろん何の罪もない人々の命を助けるためであるという理屈はあるのだろう。しかし、悪人の仕事はそういうものであって、その仲間であるのなら、カマトトぶるのは止めてからにした方が良かった。せめて、公的にはもっと責められしかるべきものであっただろう。
エドガー・ライト作品は、そのぶっ飛んだ感じが何よりいいのであって、その為にこのようなカー・アクションを構築したのだろうと思う。もう少し構想を練り直して、痛快に徹して欲しいものだと切に感じた作品だった。