万引き家族/是枝裕和監督
最初からスーパーで万引きする親子の場面から始まる。日雇いとパートと同居する親の年金(ほかにもユスリのようなこともやっているようだった)、さらに家出娘なんかも同居する不思議な家族の様子が描かれる。さらにどうも虐待を受けている疑いのある少女も家に連れ帰って生活を始める。なんだか疑似的な家族を形成しているようで、その原因も徐々に明らかにはなっていくが、この疑似家族こそ、精神的には本当に絆の強い感情を持っているらしいことも分かっていく。しかしながらお父さんと呼べないままに万引きを繰り返す息子は、妹となった少女にまで万引きをさせることに、どうしても納得がいかないのだった。
東京に暮らす最底辺の人々の暮らしを描くというのも目的にありそうだが、そうした暮らしの中にあって、本当の愛情を持った家族とは何なのかを問うてもいる。むしろ中流でちゃんとした収入のありそうな若い夫婦は、家庭内暴力ですさんでしまい娘に普通の愛情を注いでいないように見える。少年の過去はあいまいだが、拾われる理由もそれなりにありそうだ。この夫婦の子供にしては賢すぎる感じも、何か学歴的には高い夫婦のこどもだったのかもしれない。
それなりの説得力はあるのかもしれないが、とても不思議な感じの映画である。これだけすさんだ人々が共同で暮らしているのだから、もう少しすさんだものがあるはずだと思うのが常識的な描写のはずが、万引きをはじめとする様々な反社会的集団でありながら、お互いに穏やかに、なんとなく助け合って、認め合うのである。しかしながら戸籍の問題などもあるので、このままでは子供が学校に行けるわけが無い。病気をしても、保険証なども作れないのではないか。もっとも家で勉強できない奴が学校に行くんだという理由は、その通りだと思ったが。
賞を取ったから優れた映画であるとは必ずしも言えないが、安藤サクラをはじめとする役者の演技と、情景を映し出すカメラの凝ったアングルなどを鑑みると、これで賞を取れないわけが無い作品であることが分かるはずである。聞き取れない口の動きで何かをいう場面があるのだが、おそらく何を言っているのか、観ている人の感情で分かるようになっている。外国人にわかるわけが無い単語の発音だろうけど、分かる人にはわかるはずだろう。そういうところが、何より名作なのかもしれない。