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言葉にならない言葉を @ 柳澤秀夫 『記者失格』

 


 柳澤秀夫さんは、NHKの朝の情報番組「あさイチ」で知られているそうですが、残念ながらその番組、見たことありません。僕としてはかつてNHKの夜の看板番組「ニュースセンター9時」のキャスターになったものの、病気のため短期間で降板したという印象の人です。

 その柳澤さんの初の著書『記者失格』を読みました。各章のタイトルを見るだけで、どういう内容の本か想像できるでしょう。

【第1章】現場に行かずして何がわかるか
【第2章】野次馬根性
【第3章】こぼれ落ちそうなものにこそ宿る真実
【第4章】バグダッド、最後の臨時便
【第5章】現実は、ひとことでくくれない
【第6章】ならぬことはならぬ
【第7章】つねに、見えていない世界がある

  ねっ、だいたい察しがつくでしょ。実際の内容もその想像とおりです。で、僕が一番唸ったのは、第3章の冒頭の「横浜米軍機墜落事件」です。この事故というか事件は、あまりにも有名ですが、43年前の出来事なので、若い方は知らない方もいるかもしれません。ネットで調べればすぐにでてきますので、事件自体はそちらの方で是非。

 で、僕が唸ったというか泣いたのは、かの「パパママバイバイ」の記事を書いたのが誰だったのかが分かったことでした。僕はてっきり、43年間ひたすら在日米軍基地の理不尽さを追求してきた「しんぶん赤旗」の記者だとばかり思っていました。

 しかし、そうではなかった。新人の柳澤記者もこの現場に駆け付け記事にし、NKHラジオニュースで読まれるもの思ってラジオをつけたら、実際放送されたには自分の記事ではなく、NHKの先輩記者が書いた原稿だったというのです。それが、かの「パパママバイバイ」「はとぽっぽ」なのでした。

 幼い子供たちの病室にいるわけではないこの先輩記者が なぜこのような記事を書けたのか?。それは幼い兄弟が死に、小さな棺を前に嗚咽する祖母の側に座り続け、質問するわけでもなく、カメラを向けるわけでもなく、ひたすら嗚咽する祖母からこぼれ落ちる言葉にならない言葉を、ひたすらメモし続けた結果が、あの記事だったと柳澤記者は言うのです。

以下は、僕の推測です。
 全身やけどで亡くなる3歳と1歳の幼児は、本当は「痛い、痛い」と泣き続ていただけかもしれません。「痛い」という事すらいえず意識不明だったのかもしれません。しかし祖母は、この幼い孫たちが、苦しみにたうち回りながら死んでいったなんて思いたくなかったのではないでしょうか。祖母の耳には、確実に「パパママバイバイ」と「ハトポッポ」と聞こえたんだと思います。泣き叫びながら死んでいったのが「事実」とするならば、「パパママバイバイ」「ハトポッポ」といって天国に行ったのは、「真実」だったのだと思います。

 それをきちんとすくいとれる先輩記者の姿は、今も柳澤記者の心に生き続けているのでしょう。「国民の知る権利」を背にしょって、舌鋒鋭く時の権力者に質問を投げかけ続け、映画になるのも、記者の在り方。ひたすら嗚咽する老婆に寄り添い続けるのも、もうひとつの記者の在り方でしょうね。世間的には「記者失格」と言われようとも。

 

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