真っ白な新雪に覆われた山の頂きに、白雲がひとつ、繋がる様にかかり、澄みきった蒼い空を背景にして、耀いていた。
おじさんから、長靴と分厚いジャケットを渡されて、ちょっとした山男気分になった。
おじさんは、軽トラックの荷台にスコップを積みながら、何かの鼻歌を口ずさんでいた。
小柄な体に上下ブルーのレインウェアを着たおじさんは、昨夜のちゃんちゃんこ姿とは、別人みたいに見えた。
「東祖谷にはなあ、ようけ知り合いがおるけん、任せてな、お母さんの知り合いは直ぐに見付かるからなっ」
おじさんは、お喋りみたいだ。
昔にタイムスリップした様な風景が、ずっと続いている。
県道は広くなったり、急に狭くなったり、除雪車の走った脇は、雪の固まりが敷き詰められていて
ガードレールの高さを超えていた。
あちらこちらに、不揃いな雪のブロックが転がっていた。
おじさんは、対向車に合う度に、短いクラクションを鳴らしては、片手を少しだけ上げる。
何の合図ですか?と聞くと、知り合い同士の日常の挨拶なんだと答えた。
東京の生活では考えられない、不思議な光景だった。
「森田くん、今朝家内が、ええ若いしって、誉めとったよ~」
「ええわかいしって?」
「好青年ってことよ、で、彼女は東京でお留守番かい?」
「彼女はいません」
本当はずっと好きな女性はいますが、僕は結婚は一生しません。
と続けたかったけど、気恥ずかしくなって、じっと前を見ていた。
「除雪が追い付かんみたいやなあ、暫く時間つぶしするか」
おじさんは、そう言いながら、一件の蕎麦屋に止まった。
この偶然が、僕を新たな運命へと導いていく。
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