星を見ていたら、涙が出てきた。
マサミは身体が痛かった。仁は歩くのが早かった。必死で追いかけた。仁は恵比須と渋谷の間のマサミの部屋から、「ベース」に向かって歩いていた。なぜ歩くのか、マサミには解らなかった。仁が振り向いた。マサミは脇腹をかかえていた。仁はマサミのほうに戻り、マサミの後ろに回った。
「ハッ。」
マサミの太腿を持ち、マサミを肩に乗せた。そんなに大柄ではない仁が軽々とマサミを担いだ。人通りはあまりなかった。それでも、マサミは恥ずかしかった。
マサミは仁の頭に手をのせてバランスを取った。脇腹が仁の耳に当った。腿と脇から伝わる仁の肉体。仁の肉体から放たれる「エネルギー。」「オーラ。」そういった言葉で想像することなど到底できない空気の塊が仁の回りに拡がっていくのをマサミは感じた。
痛みが消えていた。
空気の中でマサミは音を感じていた。上を走る高速道路の音も街灯の明りも、全てがその空気の中で希薄な存在に思えてきた。心地良さがマサミを包んだ。
仁は「ベース」に着くと事務所には寄らずホールの入り口に向かった。そのころは既に入場時間が決まっていて、入り口の前で新生から常連に昇格した仁もマサミも見たことのない男が二人を止めた。仁の目が開き 、男を見た。男は恐怖にも似た感情の中に落とされた。制止することもできず、腕を組み、震えた。仁の目はいつもの半開きに戻った。マサミを担いだまま、ホールの中に入ると技術者の一人がレクチャーをしていた。手を繋ぎ、ゆれている人々の間を通って、仁はステージに上がった。技術者は仁に気づくと、硬直した。技術者の前に立ち、ニッと笑った。
技術者も恐怖に似た感情に潰された。
仁はマサミを肩から下ろし、ピアノの椅子に座らせた。マサミの目に仁の半開きの目が映った。ニッと笑った。マサミは鍵盤に手を置いた。マサミは仁の肩の上で感じた音を探すようにゆっくりと鍵盤を叩き始めた。仁は技術者の後ろに回った。技術者は夢遊病者のように袖に消えた。
音が仁にあわせるのか、仁が音に同調するのか。
仁はステージの中央に立ち、半開きの目のまま動き始めた。それはただ、左足を少し前に出し、かかとを上下するだけの動きだった。が、その動きはホールの全ての空気を仁の支配下の置いた。
その日の参加者は比較的少なかった。初期の「ベース」は曜日など関係なく人が集まったのだが、そのころは平日と土日では参加者の数に大きな開きがあった。それでも、二十人くらいの参加者は、仁のうごきの中に引き込まれたいった。
マサミは身体が痛かった。仁は歩くのが早かった。必死で追いかけた。仁は恵比須と渋谷の間のマサミの部屋から、「ベース」に向かって歩いていた。なぜ歩くのか、マサミには解らなかった。仁が振り向いた。マサミは脇腹をかかえていた。仁はマサミのほうに戻り、マサミの後ろに回った。
「ハッ。」
マサミの太腿を持ち、マサミを肩に乗せた。そんなに大柄ではない仁が軽々とマサミを担いだ。人通りはあまりなかった。それでも、マサミは恥ずかしかった。
マサミは仁の頭に手をのせてバランスを取った。脇腹が仁の耳に当った。腿と脇から伝わる仁の肉体。仁の肉体から放たれる「エネルギー。」「オーラ。」そういった言葉で想像することなど到底できない空気の塊が仁の回りに拡がっていくのをマサミは感じた。
痛みが消えていた。
空気の中でマサミは音を感じていた。上を走る高速道路の音も街灯の明りも、全てがその空気の中で希薄な存在に思えてきた。心地良さがマサミを包んだ。
仁は「ベース」に着くと事務所には寄らずホールの入り口に向かった。そのころは既に入場時間が決まっていて、入り口の前で新生から常連に昇格した仁もマサミも見たことのない男が二人を止めた。仁の目が開き 、男を見た。男は恐怖にも似た感情の中に落とされた。制止することもできず、腕を組み、震えた。仁の目はいつもの半開きに戻った。マサミを担いだまま、ホールの中に入ると技術者の一人がレクチャーをしていた。手を繋ぎ、ゆれている人々の間を通って、仁はステージに上がった。技術者は仁に気づくと、硬直した。技術者の前に立ち、ニッと笑った。
技術者も恐怖に似た感情に潰された。
仁はマサミを肩から下ろし、ピアノの椅子に座らせた。マサミの目に仁の半開きの目が映った。ニッと笑った。マサミは鍵盤に手を置いた。マサミは仁の肩の上で感じた音を探すようにゆっくりと鍵盤を叩き始めた。仁は技術者の後ろに回った。技術者は夢遊病者のように袖に消えた。
音が仁にあわせるのか、仁が音に同調するのか。
仁はステージの中央に立ち、半開きの目のまま動き始めた。それはただ、左足を少し前に出し、かかとを上下するだけの動きだった。が、その動きはホールの全ての空気を仁の支配下の置いた。
その日の参加者は比較的少なかった。初期の「ベース」は曜日など関係なく人が集まったのだが、そのころは平日と土日では参加者の数に大きな開きがあった。それでも、二十人くらいの参加者は、仁のうごきの中に引き込まれたいった。