仁、そして、皆へ

そこから 聞こえる声
そして 今

太陽の光はまぶしくて2

2010年02月02日 17時00分39秒 | Weblog
 ミサキの父親は脳梗塞だった。幸い命は助かった。が、ミサキに実家に残るように母親と父親の会社で専務を勤める叔父に説得され、ヒカルが一人で「ベース」に戻った。ヒカルはミサキの母親と叔父に気に入られた。父親の意識がはっきりした時点でもう一度、名古屋に行くことになった。

 ヒカルは「ベース」に戻り、皆に事情を説明した。皆は家族のことについて一緒になって心配してくれた。どのような展開が待っているのか、その時は誰も知らなかった。

 リツコさんが産後のキヨミを見に来た。ミルクの飲ませ方や風呂の入れ方、下着の選び方といろんなことをレクチャーしていった。

 ミサキの父親のことで皆が話した。それがキッカケで新しい人についても話した。
「人であることが、大切な部分もあると思うよ。」
「それって、戸籍のこと。」
「うん。」
「戸籍があってもなくても、その世界を作ることはできるんじゃないかな。」
「うん。」
「以前のようなことは・・・・・よくわからないけど、戦争の時代とは少し違ってきていると思うよ。」
そんな話が続き、新しい人(まだ名前が決まっていなかった。)を皆の子供とすることを再確認した段階で、提案がなされた。キヨミには戸籍はあるが仁については確かでない。そこで、ちゃんとした職を持つヒデオと形式的に籍を入れ、二人の子供ということにしようということになった。家族に関わる現実が皆を動かした。
 リツコさんに、その話をすると非常に喜んだ。手続きについて最良の方法は未婚の母として出生届けを出し、ヒデオと婚姻届を出した後、養子縁組するのなら、問題はないということだった。
 仁はというと、皆の話を聞いてはいたが、良くわからないのか解ったのかが、皆にはわからなかった。それでも、ほんとうに嫌なら、あるいは、何らかの弊害を察知していたら、何か行動を起すはずだった。
 そんな話の最後に、ヒカルが奇妙な話をした。名古屋駅で新幹線に乗るまでに時間があったので地下街を散策した時のことだった。地下街から地上に上がる階段を登り、ふと、脇の路地に目をやると一人の髪の毛はボウボウで、鬚が伸びほうだいの男が紙袋を抱えるようにして座っていた。
 なぜか、目が合った。
男は、じっと、ヒカルを見た。ヒカルも男を見た。ヒカルはどこかで見たような気がした。でも、思い出せなかった。男は、目を伏せた。ヒカルは振り向き、歩き出した。が、気になって、もう一度、見ると男も見ていた。新幹線の中でもずっと気になっていた。
「ヒヒヒヒ。」
仁が突然、ヘンな笑い方をした。皆はびっくりした。新しい人のための計画を立て、就寝した。
 アキコは何も思わなかったのか。
その夜、ヒデオとアキコはしっかりと交わった。その気持ちを確かめるように、心と身体の全ての部分で一つになった。