仁、そして、皆へ

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そして 今

太陽の光はまぶしくて4

2010年02月05日 17時11分59秒 | Weblog
 太陽の光がまぶしい日だった。
 ヒロムは土地勘のない名古屋の町を走った。その路地からあの路地へ、大通りからまた路地へ、感じるままに走り続けた。
 ケビンはいなかった。
 駅の回りのビル郡を抜け、アパートが立ち並ぶエリアをすぎ、一軒家や工場が現れ、やがて大きな川の岸にたどり着いた。橋の欄干から、川沿いを見渡した。視界に黒い小さいものがうつった。
 ケビン。
そう思って身をのり出した時、ヒロムの黒縁のメガネは庄内川に吸い込まれた。フーという感じでメガネが川に落ちた。ヒロムの見ている世界もフーという感じで変わって言った。ほとんどが焦点の合わない世界になった。それでもヒロムは走った。ケビンを探して庄内川の河川敷に降りた。ヒロムは何かにつまづき、倒れた。頭を何かに打ち付けた。意識が視界と同じようにフーという感じで遠のいた。

 ツカサも帯同していた。ツカサの指示で武闘派はヒロムを探した。が、武闘派のほとんどが東京あるいは、その近郊、あるいは地方出身者で、たまたま、名古屋を熟知しているものがいなかった。捜索は夜に及んだ。ツカサはヒトミにうかがいをたてた。
「明日はセレモニーだから、もう、いいよ。」
その意図をツカサは察した。散らばった武闘派を集合させ、ホテルに向かった。砧公園の家の一件からヒロムは今で言う「ヒキコモリ」がひどくなっていた。それが執行部では問題になっていた。そしてまた、彼らにとってヒロムの存在自体が、存在のカリスマ性が薄れてきていた。ヒロムは会員を先導するための象徴でしかなかった。
 だから、それは誰でも良かった。
 まして、仁を知る常任たちはヒロムが研究している「力」をあてにしていなかった。
むしろ、「命の水」があればいいのではないか。プロセスも、教義も、すでに、完成しているのだから。
 次の日のセレモニーに向けて、常任と奈美江が協議をはじめ、「宰」の存在を感じさせるニュアンスを保持し、その存在の神秘性を強調するように講和を持っていくことで話は付いた。

 その日以来、ヒロムの捜索は行われなかった。