ヒロムは着れそうな物を取り出して、後は、川に流した。河は臭かった。下着類は袋に入れた。インド人のような衣装を脱ぎ、素肌にジーンズをはき、トレーナーとジャンパーを羽織った。インド人のような衣装は川に流した。
ヒロムは水道がある場所を探した。
喉が渇いた。
が、不思議と空腹感はなかった。住宅街の中で公園を見つけ、水を飲んだ。袋に入れた下着を取り出し、洗った。着ている服から臭いがしていた。自分以外の体臭というものは気になるものだ。それでも、時間がたつと気にならなくなった。それと同時に空腹を感じ始めた。
ヒロムは歩いた。インド人のようなサンダルも気になった。何でも落ちていた。住宅街を抜ける頃にはスニーカーをはいていた。ヒロムが地理的なカンが優れているわけではなかった。ただ、空腹が、その場所を教えた。名古屋駅の近くまで戻っていた。飲食店街を一回りすれば、それなり、餌にありつけた。
人として・・・・
などということはヒロムの理性から遠のいていた。同じように餌をあさる人がいた。そして、その中にもルールがあった。それを知るには少し時間がかかった。
その日は、餌を口にするとヒロムはまた、あの小屋に戻った。孤独感、寂しさ。ヒロムは感じなかった。独りであることが新鮮だった。
ヒロムが彼らの制裁を受けたのはそれから、一週間くらいしてからだった。浮浪者といわれていた、今で言うホームレスの集団の中にも、仲間うちの階級があり、餌のとり方にもルールがあった。新参者のヒロムはそのルールを無視しているということでリンチを受けた。まあ、生命に関わるようなことなかったのだが、ヒロムはこんなところまで、人は人でありたいのかと、愕然とした。ヒロムは小屋をネグラにしていたが、彼らの多くは駅周辺をナワバリにしていた。ヒロムは戦う意志もなく、されるがままにしていた。何も答えたわけではないのだが、集団の中心人物らしき人が言い捨てた。
「わかりゃいいんだ。わかりゃあな。」
ヒロムはその場に倒れこんだ。誰もヒロムを助けようとはしなかった。しばらくそのままでいた。ヒロムの横を靴音が通り過ぎた。ヒロムを避けるように、汚いものを見ないように、自分は関わらないように。
こんなものか。こんなものなのか。
何の気力もなく、ヒロムは小屋に戻った。しばらくして、小屋の扉が空いた。初老の先輩が立っていた。
「オイ、これ食え。」
そう言うと握り飯を差し出した。ヒロムはぽかんとしていた。近づいて、ヒロムの手を取った。
「食え。」
初老の先輩は握り飯をヒロムの手の中に押し込むと、パッと手を離し、走るように外に出て行った。
「食えよ。」
と言い捨てた。
こんなものか。こんなものなのか。
貧しきものは美しい。
なぜなら、貧しさゆえに知力がなく、ただ生きることのみを欲するからだ。
それがどうだ。ひとたび集団になれば、誰もが人より偉くなりたがる。
人は単純に同じではいられない。
こんなところでも、そうなのか。
アイデンティティーは階級がなければ、保持できない。
人は自分より劣ったもの、弱いもの、下のものを欲しがるのだ。
そして自分の優れていること、強いこと、上であることを自覚することでアイデンティティーを保てるのだ。
そんなものか。そんなものなのか
ヒロムは、何時しか、その集団に溶け込んだ。しかも、一番隅に座った。餌も一番最後の残り物をあさった。衣類も同じだった。ヒロムの知力を用いれば、その集団に秩序を作り、その長となることも簡単なことだった。しかし、ヒロムはそれをしなかった。ヒロムは一番隅に座った。ただ、そうした態度が好感され、ヒロムの独りをじゃまするも者もいなくなった。それが許された。
誰に・・・・・
そんなものか。そんなものなのか。
ヒロムは水道がある場所を探した。
喉が渇いた。
が、不思議と空腹感はなかった。住宅街の中で公園を見つけ、水を飲んだ。袋に入れた下着を取り出し、洗った。着ている服から臭いがしていた。自分以外の体臭というものは気になるものだ。それでも、時間がたつと気にならなくなった。それと同時に空腹を感じ始めた。
ヒロムは歩いた。インド人のようなサンダルも気になった。何でも落ちていた。住宅街を抜ける頃にはスニーカーをはいていた。ヒロムが地理的なカンが優れているわけではなかった。ただ、空腹が、その場所を教えた。名古屋駅の近くまで戻っていた。飲食店街を一回りすれば、それなり、餌にありつけた。
人として・・・・
などということはヒロムの理性から遠のいていた。同じように餌をあさる人がいた。そして、その中にもルールがあった。それを知るには少し時間がかかった。
その日は、餌を口にするとヒロムはまた、あの小屋に戻った。孤独感、寂しさ。ヒロムは感じなかった。独りであることが新鮮だった。
ヒロムが彼らの制裁を受けたのはそれから、一週間くらいしてからだった。浮浪者といわれていた、今で言うホームレスの集団の中にも、仲間うちの階級があり、餌のとり方にもルールがあった。新参者のヒロムはそのルールを無視しているということでリンチを受けた。まあ、生命に関わるようなことなかったのだが、ヒロムはこんなところまで、人は人でありたいのかと、愕然とした。ヒロムは小屋をネグラにしていたが、彼らの多くは駅周辺をナワバリにしていた。ヒロムは戦う意志もなく、されるがままにしていた。何も答えたわけではないのだが、集団の中心人物らしき人が言い捨てた。
「わかりゃいいんだ。わかりゃあな。」
ヒロムはその場に倒れこんだ。誰もヒロムを助けようとはしなかった。しばらくそのままでいた。ヒロムの横を靴音が通り過ぎた。ヒロムを避けるように、汚いものを見ないように、自分は関わらないように。
こんなものか。こんなものなのか。
何の気力もなく、ヒロムは小屋に戻った。しばらくして、小屋の扉が空いた。初老の先輩が立っていた。
「オイ、これ食え。」
そう言うと握り飯を差し出した。ヒロムはぽかんとしていた。近づいて、ヒロムの手を取った。
「食え。」
初老の先輩は握り飯をヒロムの手の中に押し込むと、パッと手を離し、走るように外に出て行った。
「食えよ。」
と言い捨てた。
こんなものか。こんなものなのか。
貧しきものは美しい。
なぜなら、貧しさゆえに知力がなく、ただ生きることのみを欲するからだ。
それがどうだ。ひとたび集団になれば、誰もが人より偉くなりたがる。
人は単純に同じではいられない。
こんなところでも、そうなのか。
アイデンティティーは階級がなければ、保持できない。
人は自分より劣ったもの、弱いもの、下のものを欲しがるのだ。
そして自分の優れていること、強いこと、上であることを自覚することでアイデンティティーを保てるのだ。
そんなものか。そんなものなのか
ヒロムは、何時しか、その集団に溶け込んだ。しかも、一番隅に座った。餌も一番最後の残り物をあさった。衣類も同じだった。ヒロムの知力を用いれば、その集団に秩序を作り、その長となることも簡単なことだった。しかし、ヒロムはそれをしなかった。ヒロムは一番隅に座った。ただ、そうした態度が好感され、ヒロムの独りをじゃまするも者もいなくなった。それが許された。
誰に・・・・・
そんなものか。そんなものなのか。