仁、そして、皆へ

そこから 聞こえる声
そして 今

太陽の光はまぶしくて5

2010年02月08日 17時17分33秒 | Weblog
 背の高い草があったわけではなかった。そして、インド人のような衣装を着ていれば、誰もが不思議に思うはずだった。ヒロムは倒れたところでじっと待った、誰かが自分を見つけてくれることを。
 意識は徐々に戻っていった。目の前の空の青が綺麗だった。ゆっくりと身体を起こし、あたりを見回した。眼鏡がないとほとんどがもやの中だった。橋の支柱らしきもののほうに歩いてみた。その視力で眼鏡を探すのは難しかった。足元に黒い小さな物が目に入った。壊れた木箱のようなゴミの板の間から足のようなものが出ていた。手で触れても動かなかった。目を凝らすとそれはケビンだった。ウーという唸り声が周りから聞こえた。野犬だった。ケビンを抱きかかえると首元から血が出ていた。息もしていなかった。野犬が唸る声が大きくなった。三匹いたのか、それ以上か、ヒロムを目掛けて攻撃を仕掛けてきた。ヒロムはケビンを抱いて逃げた。野犬はヒロムのインド人のような衣装を喰いちぎった。それでもヒロムは走った。疲れが身体を締め付けた。ケビンが重かった。普通なら小型犬のケビンが重いわけがなった。が、その時のヒロムには、重かった。ヒロムはケビンをそっと、地面に置いた。そして、気持ちを新たに走り出した。逃げきれたら、ケビンを連れ戻すつもりだった。
 野犬はヒロムを追いかけてこなかった。そこに置かれたケビンにいっせいに襲い掛かった。ケビンの身体は鋭い牙の餌食になった。けれども、野犬はケビンを喰らうわけではなかった。バラバラになった足を、頭をおもちゃのように放り投げ、くわえ、じゃれあうようにもてあそんだ。その光景をぼんやりをした視界の中でヒロムは見つめた。野犬は縄張りを荒らしたケビンに制裁を加えていたのだ。その獲物を横取りしようとするヒロムにも襲い掛かった。が、その獲物をことごとく痛めつけ、征服感を満たされた彼らは退散していった。ヒロムなど存在しないかのように勝ち誇り、一瞥したものの、獲物を置き去りにした臆病者など相手にすることもなかった。
 ヒロムはしばらく、ボーと立っていた。そして、ケビンのバラバラになった身体の部品を集め始めた。その時だった。ヒロムの後ろから声がした。
「ワー、なに、何をしてるんだ。」
振り向くと、つり道具を持った初老の男がヒロムを見ていた。恐怖と怒りに満ちた顔でヒロムを凝視していた。ヒロムのインド人のような白い衣装は自身の血とケビンの血でところどころ赤く染まり、ボロボロになっていた。ヒロムはケビンを置き去りにして、また、走り出した。
「誰かー。」
後ろで男の叫び声がした。

 どれくらい走ったのか、何処を走ったのか、なぜそこにいるのか、解らなかった。ヒロムは河川敷にある何かの倉庫らしきところで息を切らせたいた。かび臭く、土くさく、湿った感じの小屋に何とかたどり着いた。肥料か何かの袋の上にヒロムは倒れこみ、そのまま眠った。