台北旅行で買ってきた杉林渓高山茶を開けてみる。
長春路にある富宇茶行で購入したもの。
せっかくだから、と、これも台北で買ってきた唐子の蓋碗を使う。
茶葉のグレードとしては普段飲み、と言う感じなので
どっさり使ってサラッと淹れるのが美味しいみたい。
最初だからしっかり蓋碗で淹れたけれど、
多分マグカップを使ったり冷茶にしたりしてガブガブ飲むと思う。
さて、こちらはやはり台北で買ってきたDVD。
1983年王童監督の作品、『看海的日子』(日本名:『海を見つめる日』)。
実はこの映画は私にとって忘れられない作品のひとつである。
1984年ごろだったと思うが、台湾映画祭が東京で開かれ、その時に上映された中の一本だった。
当時、大陸中国のことしか頭に無かった私に台湾と言う存在を強く印象付けたのがこの作品だった。
(結局私はこれがきっかけでその後台北に渡ることになる。)
王童(ワン・トン)監督は候孝賢(ホウ・シャオシェン)、楊徳昌(エドワード・ヤン)と並び
当時は「台湾ニューシネマ」の担い手と謳われていた。
(今ではそれぞれ巨匠であるが。)
それまで政治宣伝色が強い国策映画や娯楽ヒーロー物がほとんどだった台湾映画界において、
台湾人の日常生活や台湾社会が抱える問題などに向き合い、
台湾のアイデンティティを意識した作品作りを行ったのが彼らだった。
「台湾ニューシネマ」は台湾の郷土作家の文芸作品を原作としている作品も多い。
この『看海的日子』も黄春明の同名小説を原作としている。
(『看海的日子』は黄春明の作品集『児子的大玩偶(坊やの人形)』の中に収められている。
日本版ではシリーズ・アジアの現代文学『さよなら・再見』に入っている。)
小説『看海的日子』は落ち込んだ時や新しい環境に踏み出す時にいつも読み返す私の愛読書になっている。
映画『看海的日子』は東京での映画祭で一度観たきりだった。
その後ビデオ化もされなかったので、もう一度観たいとずっと思っていた。
今回の台北旅行で計らずもDVDを入手することができて、本当に嬉しかった。
ヒロイン白梅は貧しい農村に生まれ、
小さいときに童養媳(トンヤンシー)として養女に出される。
養女と言っても結局は人身売買と変わらない。
養父母の下から娼館に働きに出され、養家の生活を支えて生きる。
しかしそんな彼女に家族の目は冷たかった。
白梅は、いつしか子供を持った普通の生活を夢見るようになる…
この白梅の養父母の家の舞台となっているのが九[イ分]である。
九[イ分]は今でこそ茶館や商店が並ぶ観光地となっているが、
この映画の舞台となった頃はまだ静かな旧市街という感じだったようだ。
階段の続く風景は変わりないが、モノトーンのとても静かな雰囲気だ。
この映画の後、候孝賢監督の『恋恋風塵』でも使われ、
1989年の『悲情城市』で一躍脚光を浴びることになる。
日本統治時代の面影を残す街はどこか寂しげで絵になるのだろう。
実は私はまだ九[イ分]に行ったことがない。
私が台北に住んでいた頃は『看海的日子』の舞台が九[イ分]だったことも知らなかったし、
今回の旅行でも結局時間が取れなかった。
映画の中の九[イ分]と観光地化された現実の九[イ分]とのギャップを感じてしまいそうな気もするが、
私の中でずっと生き続けてきた白梅の姿を捜しにいつかは行ってみようと思う。