台湾から日本に留学に来て、現在は日本の大学院で茶文化について学ぶ
張茹涵さん。
この3月で修士を終え、4月からは新たな環境で博士課程に進まれます。
修士卒業と博士課程でのこれからの活躍を祈念する茶会を先日上野の茶室転合庵で開催しました。
茹涵さんは1年半ほど前から月に一回
麗茶のサロンにプライベートでお茶淹れの練習に通ってくれていました。
今回の茶会は麗茶の卒業記念でもあり、
思えば、茹涵さんがサロンに通うことになった時から既に準備が始まっていたのかもしれません。
また、この茶会には茹涵さんの旺盛な好奇心と積極性と人懐っこさが隅々まで活きています。
昨年の秋ごろ、茹涵さんから
来年3月の大学院の卒業に当たってお世話になった方々をお呼びして茶会を開きたいので
私にも茶席を持ってほしい、と相談を受けました。
茶服は卒業式に着る振袖と袴、場所は
東京国立博物館の裏手にある茶室というプランが既に茹涵さんの頭にありました。
水屋もヒロエさんとyunさんにお願いすることになりました。
国立博物館の茶室の見学に二人で一緒に行ったのが昨年10月。
二箇所見学し、水屋が広く使い勝手のよさそうな転合庵に決まりました。
そうこうしているうちに茹涵さんは
桃居の店主広瀬さんに相談をして、
茶室を飾るための道具を借りる算段をつけていました。
広瀬さんからのご紹介で千葉の大多喜で創作活動をされている高仲健一さんのご自宅兼工房を訪れたのが昨年12月。
(その時のレポはブログ「
閑遊閑吟」に載せています。)
茶会のテーマも高仲さんの作品からのインスピレーションで「無事」に決まりました。
茶会参加者の募集は茹涵さんが招待状を印刷し、
年賀状としてお世話になった方、それまでの茹涵さん主催の茶会に参加してくださった方に送りました。
私は5枚枠をいただき、友人知人で茶室での茶会に興味のありそうな方をお誘いしました。
今年1月にはどんなお茶を淹れるかをイメージし、
2月初めの桃居での高仲さんの個展で具体的な茶器を選定、
2月半ばには再度高仲さんのご自宅にお邪魔して茶室で使わせていただく書画と花器をお借りしました。
2月末にはヒロエさん、yunさん、茹涵さんと4人で茶室の下見をし、道具類と水屋の手順を確認。
3月に入ってからは水屋のお二人が茶会当日のタイムスケジュールと持ち物表を細かく作成してくださり、
LINEで頻繁にチェックし合いました。
茹涵さんはお客様に配布する記念冊子の作成に大忙し。
私は当日使う茶葉をせっせと粉茶にするという作業に勤しんでおりました。
有機の白毫銀針から硬い葉や茎の部分を取り除き、すり鉢である程度細かく砕いてから電動の臼で挽きます。
この臼が一回に少量しか入れられず、時間もかかり、おまけに一回ごとに粗熱が取れるまでは次が使えないので、日産5gがやっと。
ほぼ一週間かけて当日の分を作りました。
そして、いよいよ当日。
あいにくの雨模様。
(たぶん、誰か雨女がいます。高仲さんのお宅にお邪魔した時も二日とも雨でした・・。)
でも雨のお蔭で庭園の一般公開が中止となり、茶室の周りはひとけもなく穏やかで雨音が響くのみ。
しみじみと「無事」を感じる一日となりました。
お客様にはまず待合でウェルカムティー蜜香紅茶を味わっていただき、
それぞれの茶室に入室していただきます。
(以下写真提供:yunさん)
茹涵さんの茶室の床のしつらえ。
高仲さんの著作『山是山 水是水』のP42の原画を額装したもの。
「久しければ則ち自然に貫穿す」
花器も高仲さんの作品。日常の生活が描かれ、「無事」の文字も。
茹涵さんは福壽山烏龍茶冬片を高仲さんの蓋碗を使ってお出ししました。
傍らには台湾から来日されていたお母さまがヘルプを。
茹涵さんのキュートな袴姿とお母さまの笑顔が印象的な茶席だったそうです。
私の茶室は二畳台目向切の遠州好みの茶室。
床には高仲さんの「無事」の掛け軸と髭徳利。
花は茹涵さんによるものです。
お茶は北宋の徽宗皇帝が著したとされる『大観茶論』をヒントに
高仲さん作の天目茶碗を使い、茶筅で白毫銀針の粉茶を点て、黒釉に白い泡が映える様子を再現してみました。
徽宗皇帝は7回お湯を差し、茶筅のかき混ぜ方も細かく列挙し、白く綺麗でなかなか切れない泡をたてるようにと書いていますが、
さすがに当時とはお茶の作り方も違い、同じようにはできませんので、現代風に。
お客様にはどちらの茶室も体験していただき、
最後に易武の27年ものプーアル茶を余韻茶としてお飲みいただきました。
長くなりましたが、ご参加の皆様には足元のお悪い中お越しいただき、感謝申し上げます。
歴史ある格調高い茶室での中国茶・台湾茶の茶会は初めてでしたので、至らない点も多かったかと思います。
変則的で不十分なもてなしに失礼もあったかと思いますが、どうぞご容赦ください。
台湾から単身来日し、日本を愛し、日本で茶文化の学習に励む茹涵さん。
お世話になった皆さんを招き、「一座建立」を目指して準備してきました。
この茶会は茹涵さんにとって卒業であると共にスタートでもあります。
どうぞ今後とも茹涵さんを励まし、時には伴走していただけますよう、よろしくお願いいたします。
■茶譜■
歓迎はウンカの香 蜜香紅茶
麗茶席 白毫銀針
落花生蒸糕
茹涵席 福寿山烏龍茶冬片
南国果物椰奶凍
余韻はプーアル 二十七歳前後易武
「無事 卒業茶会」
2016年3月19日(土)
於 東京国立博物館茶室 転合庵
主催 富田直美 張茹涵
水屋 辻中弘恵 市毛優子
道具協力 高仲健一
茶菓子協力 ツバメおこわ
袴 灯屋2代々木店
特別感謝 桃居