ウロコのつぶやき

昭和生まれの深海魚が海の底からお送りします。

金沢に行ってきました

2010-07-08 01:34:00 | 日記
以前から度々書いていますが、私が常々感じている大ちゃんの魅力の一つに、「自分のものさしを持っていること」が上げられます。「今までこうして来たから」「みんながこうしてる・言ってるから」ではなく「自分に必要だから」「自分がそうしたいから」という視点で選択できる。バンクーバー五輪前後に話題になった「チーム高橋」も、「海外の有名コーチに付いて貰わなければ」という思い込みに捕われていたら実現できなかったと思います。

しかし凡人にはなかなかそうはいかないらしく。新EX「アメリ」への評価をみていると、思い込みというものの怖さをしみじみと感じます。
今回のDOIでは、ランビエール氏の出演は最初から発表されていたけれど、大ちゃんの出演が決まったのはショーの1週間前でした。当日、会場で真っ先にこのプログラムを見たのは、ランビエール氏のファンの方が多かったのではないでしょうか。そして振付師のファンが見れば、振付師に似てる所ばかりが目に付くのは当然だと思います(意識のフォーカスがスケーターより振付師に当たってるんだから)。そして最初に見た人の「ランビエールに似てる」という感想を見聞きした人が、実際に見る前から「『似てる』ってみんな言ってる」という思い込みありきになっちゃってるような(実況&解説にも原因があるかも知れませんが)。
大ちゃんが山陽新聞のインタビューで、競技用のプログラムについて「先入観なく見て欲しい」と語っているのも、そう言うことも関係あるのかなと思いました。
(そもそも、スケーターは振り付け師の動きをお手本にして動きを覚えるんだから、能力が高い程似るのは当たり前だと思うんですけどね。それが「高橋がすべる意味がない」と言われるまでに「いつものランビエール」でしかないというなら、憂うべきは振り付け師の引き出しのなさではないでしょうか。もっとも私は、ランビエール氏に似てるともコピーだとも全く思いませんでしたが。元々氏の演技をあんまり真面目に見てなかったというのもあるけど、見てても結論は変わらなかったと思います)

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フィギュアスケートを見てて「表現力」という言葉を目にする度に思うこと。

体を使って音楽を表現すると言うことは、大きく分けて
(1)音楽を聞いてイメージを膨らませ、何をどのように表現するかを考える。
(2)イメージに基づいて実際に動いたり踊ったりする。
という2つの段階があると思うんですよね。
(1)はセンスの問題、(2)は踊りの技術や身体能力の問題に関わって来る事ですが。この2つがしばしばごっちゃになってる事に、違和感を感じることがよくあります。

表現の本質である、いわゆる「芸術的センス」というのは(1)の部分だと思いますが、この部分は目には見えない。ぶっちゃけ、分かる人には何も言わなくても分かるけど、分からない人には何を言っても分からない世界。故に実際には、誰の目にもはっきり見えてわかりやすい(2)の部分が主に評価されているように思います。ていうか、そうじゃないと採点競技として成立しないだろうし。
私から見るとトップレベルのスケーターたちは、(2)に関してはみんなすごい人たちだと思うんですよね。元々身体能力は高い人たちですしね。
でも(1)に関して非凡なものを感じさせる人は残念ながらほとんどいない。考えてみれば当たり前のことです。非凡な芸術的センスがあるなら、普通はスポーツやらずに芸術の道に進みます。わざわざ氷の上で飛んだり回ったりしなくても、表現の方法は他にいくらでもありますから。
それに、フィギュアの場合(1)は無理に自分でやらなくても、振り付け師に代わりにやって貰えますしね。(1)のセンスが全くなくても、(2)の身体能力さえ高ければ、「表現力」の点でもある程度は何とかなってるみたいです。スポーツだから、それはそれでアリだと思います。
でも見る方からすると、ある程度(1)のセンスを持ってる人の方が見てて楽しいです。スケーターがただ振り付け師に言われたことをなぞっているのか、それとも自分なりに「こういう事を表現したい」という意志を持って滑っているのか、見ていてなんとなく伝わってくるものはありますから。
(特に大事なのは、「何をどのように」の「何を」の部分ですよ。ここが無かったり借物だったりすると、「仏作って魂入れず」な演技になってしまうように見えます)

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私が大ちゃんの「ノクターン」を見て一発でハマったのは、彼が(2)はもちろん、(1)に関しても人並み外れた「何か」を持っていると感じたからです。
「ノクターン」で感じたのは、優しい、静かな、切ない表現の向こうに見え隠れする底の知れない深い闇でした。
「こいつの目には、世界は一体どういう風に見えているんだ?」と、感動と同時に強い畏怖を覚えました。

そして「アメリ」を見た時にも、同じ暗闇をはっきりと感じました。「ノクターン」の時は霧の向こうに柔らかくぼやかされていたものが、クリアになって迫って来たと言う感じ(だから、最初見たとき無茶苦茶怖かった/汗)。

人が誰でも心の奥底に抱えている暗い闇。人には見せないし、自分にもきっと見えない・見たくない。そういうものを敢えて真正面から見つめようとする。
それは間違いなく、「オペラ座の怪人」のファントムの狂気を、人が誰でも持っている普遍的なものと捉える高橋大輔の感性だと思いました。
寧ろ、何で他人が振付けしてるのに、こんなに大輔ワールドが全開になってるんだろうとびっくりしたくらい。
(「ソロモン流」のcobaさんとの対談でも、eyeについて「隠しているものが見えちゃってる」と語ってましたね。多分彼は元々、人が隠している心の闇部に対して独自の感性を持ってるんだろうなと思います)

だから(2)の部分、具体的な表現の方法としてどういう手法を使うか?という部分にランビエール氏の持つ動きを取り入れたからと言って、それが「ランビエールのコピー」だとは私は全く思いません。

金沢のプリンスアイスワールドでは、その辺の動きの部分もだいぶ馴染んで来て自分流のアレンジを少しずつ取り入れて来ている感じでしたが(最後横たわる所もちょっとポーズ変わってたし)。
でも表現の本質である(1)の部分は、DOIの最初の時点でちゃんと確立されてたと思います。

そうは言っても、ランビエール氏から取り入れた新しい表現の手法による視覚効果にも中々に劇的なものがありました。
生で見た「アメリ」は…なんて言うか、凄かった。重力無視してた。ふわっふわのつるっつる。何の抵抗もなくすっすっと滑っていて、しかも滑る動きと踊る動きが完全に融合していて、この世のものではない何かを見ているような。
金沢のお客さんはみんな、大ちゃんを待っていた!みたいな反応でしたが、そんなお客さんの期待に見事に応えてましたよ。

***

ショー全体のことを言うと、今回は大ちゃん以外のゲストも鈴木明子ちゃん&村上佳菜子ちゃんと私好みのスケーターさんたちで楽しかったです。佳菜子ちゃんはえらく背伸びしたようなEXでしたが、センスのある子は年とは関係なくああいうのもやれるんでしょうね。プリンスチームの演目は、よく知られている曲を多用してるので入りやすいです(「上を向いて歩こう」がスタレビVer.だった♪)。去年まで競技に出てた小林宏一くんもメンバーに入ってましたね。彼はまだジャニーズにも籍を置いてるんでしょうか?見せ方の上手さは流石でした。スピードスケートのお二人もお元気そうで何より。荒川さんのフラメンコも大好きなプログラムなので、また生で見れて嬉しかったです。八木沼さんも相変わらず若かったです。
終演後のお花コーナーでも大ちゃん目当てのお客さんは多かったらしく、係の人に渡す端から花束が山盛りになって行ってました。私は花束渡すのが精一杯でしたが、大ちゃんの方から手を伸ばしてくれて、「がしっ」と握って握手してくれました。疲れてるだろうにずっと笑顔なんですよね。偉いなあ…。

※この次は、スケート全く関係ない金沢旅行記を上げる予定です。

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□拍手コメントへのお返事

■2010/6/29 2:30
こちらこそ、喜んで頂けて嬉しいです。
「アメリ」なかなかにインパクトの強いプログラムですよね。ランビエール氏の事は詳しくないので、何がどうなって彼がここに辿りついたのかも不思議です。

■2010/6/29 13:33
狂気はあくまで私の一個人の感想です。バチェラレットにも通じてると思います。更に元を辿ればノクターンにも。衣装はどうでしょう。あの袖の長さは腕の動きを美しく見せていると思いますが。いずれにしても、シンプルな衣装が似合うと思います。

■2010/6/29 14:01
地元の方ですか?行って来ましたよ金沢!きっちり雨に降られましたけど(笑)。楽しかったです。いい所ですよね。21世紀美術館も堪能しました~♪

■2010/6/29 16:46
はい。私も最初に一回見た後、怖くてなかなか見返せませんでした(笑)。何か、すぐに受け止めて消化するには重過ぎる気がして。バチェラレットにはまだ、気持ち悪さを楽しむ余裕があったんですが、「アメリ」はガチで怖いです…。

■2010/7/2 23:31
熱い感想をありがとうございます。金沢、楽しかったです。
仰るように、動きにランビエール氏っぽいものがあったとしても、あの暗さは間違いなく大ちゃん独自のものだと私も思います。皆さん仰るように、「ノクターン」や「バチェラレット」に通じるものがあって、でもこの2つとも明らかに違うんですよね。その違いや怖さの正体に、それぞれ違った解釈があるのがとても興味深いです。正解は見る人それぞれの心の中にあるのかも知れません。

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