Aさんは、確か3度目の来店である。
30才を過ぎたばかりの年齢で、口ひげを蓄えているが、
どんぐり眼とも言える、くりっとした目は、
いつもキラキラと輝いているのだろうと思わせる。
今夜は、Aさんより少し若い友人のUさんと、女性2人の4人での来店だ。
Aさんはいつものように、グレンモーレンジのロック。
クラッシュした氷にグレンモーレンジの10年を注いで混ぜたもの。
グレンモーレンジは、バーボンのメーカー、
ジャックダニエル蒸留所の中古樽の空樽を熟成に使ってると言われていて、
スコットランドのゲール語で「大いなる静穏の渓谷」という意味らしい。
Aさんによれば、昔グレンモーレンジ蒸留所に寄ったときに飲んで、
それ以来のファンだそうである。
Aさんの友人のUさんはジンフィズ、
連れの女性2人は、どちらもアップル・シューター。
グリーン・アップル・リキュールにフレッシュ・レモン・ジュース、
ソーダとトニックウォーターを注いでステアしたものである。
聞くともなく聞いていると、Aさんと小柄な方のYさんとが知り合いのようだ。
場の雰囲気をリードしているのはAさんのようで、
もう一方の女性、エキゾチックな感じで、男性好みのする方のRさんは、
隣にいるAさんの友人より、Aさんが気になる様子。
その後いっぺんに6人のお客さん来て、それに対応している間に、
席替えしたのか、AさんとRさんが隣同士になって、穏やかに会話している。
この2人は大人な感じのカップルだ。
YさんとUさんも、気が合うのか、可愛い感じのカップルで、談笑している。
元々、Aさんの先輩の妹がYさんで、RさんはYさんの同僚だという。
YさんとRさんは、近くのデパートに勤務していて、
女性の多い職場なので、Aさんのようなタイプの男性は初めてのようだ。
Aさんは20代の初め、2年ほどかけて世界を回り、
東南アジアやインドで、学校建設のボランティアに係わったり、
アフリカでは、難民キャンプでボランティアに加わったりと、
そのためか、話のスケールが大きくて、ついて行けないことが間々ある。
堂々とした体躯や口ひげで、一見強面だが、
目が何より優しくて、相手の目をじっと見つめて話す、
その独特の話し方にRさんは魅了されたようだ。
Yさんの方がAさんとは近しいのだろうが、
Aさんの魅力を感じ取るには、Yさんは少し幼すぎるのかも知れない。
女性2人は、遅いからといって0時前に帰り支度を始めた。
Uさんが「じゃあ、そこまで送るよ。」とYさんに言って立ち上がったが、
Aさんは、「頼む。」と、座ったままで3人に手を挙げた。
Rさんは、「えっ」という顔でAさんを見つめ、一緒に残りたそうな表情になった。
しかし、既にカウンターを向いてグラスを傾けているAさんを見て、
自分の思いを振り切るように、Uさんの後を追って店を出た。
私にも、Aさんの行動は奇異に映った。
結構楽しく話していたようだったし、
Rさんの表情を見れば、彼女の気持ちも察することができたろうに。
一体Aさんに何があったのだろうと。
2月ほど後に、UさんとYさんが一緒に店に来た。
Uさんの話によると、Aさんは10年ほど勤めた会社を辞め、
ソマリアからの難民キャンプのボランティアに参加するために、エチオピアに旅立ったそうだ。
気候や病気、それに紛争地帯から近いこともあり、かなり危険な地域のようだ。
私は、先日AさんがRさんを送っていかなかった理由が、なんとなく分かったような気がした。
同時に、一人でいるときはストイックに飲んでいたAさんの様子をふと思い出した。
Yさんによると、その話を聞いたRさんは、
自分もAさんのところに飛んで、手伝いたいと言うのを、止めているんだそうである。
この2月の間に,AさんとRさんの間に何があったにしても、
私もYさんの意見に賛成だ。
人にはそれぞれ道がある。一時の感情で行動するような話ではない。
私は遙か彼方、赤土の土埃の舞う地にいるAさんに思いを馳せた。
グレンモーレンジを飲めないAさんは今、どんなアルコールを飲んでいるのだろうと。
Rさんはその後Aさんを追って、エチオピアに行ったかどうか知りたいですって。
次回、Yさんが来たときにお尋ねになったらいかがです?
※「名も知らぬ駅」という店はあるが、内容はフィクションです。
30才を過ぎたばかりの年齢で、口ひげを蓄えているが、
どんぐり眼とも言える、くりっとした目は、
いつもキラキラと輝いているのだろうと思わせる。
今夜は、Aさんより少し若い友人のUさんと、女性2人の4人での来店だ。
Aさんはいつものように、グレンモーレンジのロック。
クラッシュした氷にグレンモーレンジの10年を注いで混ぜたもの。
グレンモーレンジは、バーボンのメーカー、
ジャックダニエル蒸留所の中古樽の空樽を熟成に使ってると言われていて、
スコットランドのゲール語で「大いなる静穏の渓谷」という意味らしい。
Aさんによれば、昔グレンモーレンジ蒸留所に寄ったときに飲んで、
それ以来のファンだそうである。
Aさんの友人のUさんはジンフィズ、
連れの女性2人は、どちらもアップル・シューター。
グリーン・アップル・リキュールにフレッシュ・レモン・ジュース、
ソーダとトニックウォーターを注いでステアしたものである。
聞くともなく聞いていると、Aさんと小柄な方のYさんとが知り合いのようだ。
場の雰囲気をリードしているのはAさんのようで、
もう一方の女性、エキゾチックな感じで、男性好みのする方のRさんは、
隣にいるAさんの友人より、Aさんが気になる様子。
その後いっぺんに6人のお客さん来て、それに対応している間に、
席替えしたのか、AさんとRさんが隣同士になって、穏やかに会話している。
この2人は大人な感じのカップルだ。
YさんとUさんも、気が合うのか、可愛い感じのカップルで、談笑している。
元々、Aさんの先輩の妹がYさんで、RさんはYさんの同僚だという。
YさんとRさんは、近くのデパートに勤務していて、
女性の多い職場なので、Aさんのようなタイプの男性は初めてのようだ。
Aさんは20代の初め、2年ほどかけて世界を回り、
東南アジアやインドで、学校建設のボランティアに係わったり、
アフリカでは、難民キャンプでボランティアに加わったりと、
そのためか、話のスケールが大きくて、ついて行けないことが間々ある。
堂々とした体躯や口ひげで、一見強面だが、
目が何より優しくて、相手の目をじっと見つめて話す、
その独特の話し方にRさんは魅了されたようだ。
Yさんの方がAさんとは近しいのだろうが、
Aさんの魅力を感じ取るには、Yさんは少し幼すぎるのかも知れない。
女性2人は、遅いからといって0時前に帰り支度を始めた。
Uさんが「じゃあ、そこまで送るよ。」とYさんに言って立ち上がったが、
Aさんは、「頼む。」と、座ったままで3人に手を挙げた。
Rさんは、「えっ」という顔でAさんを見つめ、一緒に残りたそうな表情になった。
しかし、既にカウンターを向いてグラスを傾けているAさんを見て、
自分の思いを振り切るように、Uさんの後を追って店を出た。
私にも、Aさんの行動は奇異に映った。
結構楽しく話していたようだったし、
Rさんの表情を見れば、彼女の気持ちも察することができたろうに。
一体Aさんに何があったのだろうと。
2月ほど後に、UさんとYさんが一緒に店に来た。
Uさんの話によると、Aさんは10年ほど勤めた会社を辞め、
ソマリアからの難民キャンプのボランティアに参加するために、エチオピアに旅立ったそうだ。
気候や病気、それに紛争地帯から近いこともあり、かなり危険な地域のようだ。
私は、先日AさんがRさんを送っていかなかった理由が、なんとなく分かったような気がした。
同時に、一人でいるときはストイックに飲んでいたAさんの様子をふと思い出した。
Yさんによると、その話を聞いたRさんは、
自分もAさんのところに飛んで、手伝いたいと言うのを、止めているんだそうである。
この2月の間に,AさんとRさんの間に何があったにしても、
私もYさんの意見に賛成だ。
人にはそれぞれ道がある。一時の感情で行動するような話ではない。
私は遙か彼方、赤土の土埃の舞う地にいるAさんに思いを馳せた。
グレンモーレンジを飲めないAさんは今、どんなアルコールを飲んでいるのだろうと。
Rさんはその後Aさんを追って、エチオピアに行ったかどうか知りたいですって。
次回、Yさんが来たときにお尋ねになったらいかがです?
※「名も知らぬ駅」という店はあるが、内容はフィクションです。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます