2024年3月8日(金)
#337 アルバート・キング「Bad Luck Blues」(Parott)
#337 アルバート・キング「Bad Luck Blues」(Parott)
アルバート・キングのファースト・シングル曲。1954年リリース。彼自身の作品。
これまで「一枚」「一曲」で何度となく取り上げてきたアルバート・キングだが、いいものはいくら聴いても変わらずいい。そういうわけでマイ・フェイパリット・ブルースマン、再三のご登場である。
アルバート・キング(以下アルバート)は1923年ミシシッピ州インディアノーラ生まれ。5歳の頃、母親と共にアーカンソー州フォレストシティに移住、農民として働き、独学でギターを習得する。
50年に同州オセオラのブルースクラブ経営者と知り合い、同地に移住してハウス・バンドに加入する。数年後さらにインディアナ州ゲイリーに移って、ジミー・リード、ジョン・ブリムらと知り合い、一緒に活動するようになる。当時はドラムスを担当していた。
ネルスンという本名を、人気スターのB・B・キングにあやかって、キングという芸名に変えたのもその頃だ。
アルバート自身の名義での初レコーディングは、53年11月、パロット・レーベルにおいてのセッションである。
本日取り上げた「Bad Luck Blues」は、以前取り上げた「Won’t Be Hangin’ Around」(61年録音)などと共に、チェスのコンピレーション盤「Door to Door」に「Bad Luck」のタイトルで収められているので、比較的簡単に音源を購入出来る。
筆者も、それで初めて聴いたクチである。「Door to Door」のアルバム・タイトルは、言うまでもなく、本曲の歌詞にちなんだものであろう。
曲のパーソネルは、アルバートのボーカル、ギターに加えてジョニー・ジョーンズのピアノ。他のギター、ベース、ドラムスについては不明である。
ある意味、アルバートの出世曲である「Born Under A Bad Sign」のプロトタイプとも言える歌詞内容。
貧しく、教育もろくに受けられなかったため、いわゆる文盲で、その日暮らしを続けてきたアルバートの生活実感から生まれたブルース。嘘偽りのない心情が淡々とそこに語られている。
なんとか極貧生活から這い出して、子供の頃から目指していたプロのミュージシャンにはなったものの、豊かとはおよそ言えない現状。果たして、明るい未来はあるのか?
アルバートのまだどこか頼りなげなギター、そしてそれに絡むジョニー・ジョーンズのメランコリックなプレイがいかにも印象的なスロー・ブルース。
およそ派手さはないものの、味わいは深い。あえてシャウトしないソフトなボーカルに、アルバートらしさを感じるね。
すでに三十路を迎えた遅咲きのブルースマン、アルバート・キング。だが、快進撃はようやくこれから始まるのだ。
オセオラやゲイリーでの鳴かず飛ばず時代を経て、アルバートは次にセントルイスに移住する。そこで初めて人気シンガーとなり、ボビン・レーベルで8枚のシングルをリリース、61年には「Don’t Throw Your Love on Me So Strong」でR&Bチャート14位というヒットを出す。
さらに66年にはスタックス・レーベルと契約、翌67年に「Crosscut Saw」「Born Under A Bad Sign」とヒットを立て続けに出したことで、彼の名前は全国的なものとなり、白人ファンをも獲得する。
最初の小さい一歩ではあったが、このファースト・レコーディングがあったからこそ、アルバート・キングのプロ・キャリアは始まったのだ。お馴染みのゴリゴリのギター・プレイとは違った側面が見えて興味深い一曲、ぜひチェックしてみて。