2024年3月11日(月)
#340 マンフレンド・マンズ・アース・バンド「Blinded By The Light」(Bronze)
#340 マンフレンド・マンズ・アース・バンド「Blinded By The Light」(Bronze)
マンフレンド・マンズ・アース・バンド、76年リリースのシングル・ヒット曲。ブルース・スプリングスティーンの作品。マイク・アペル、ジム・クレテコスによるプロデュース。
マンフレンド・マンズ・アース・バンド(以下アース・バンド)は英国のロック・バンドで、71年に結成された。
60年代に自らの名前をバンド名として、「マイティ・クイン」「ドゥ・ワ・ディディ・ディディ」など数多くのヒットを出していたマンフレンド・マン(キーボード)がリーダーで、ミック・ロジャース、コリン・パッテンデン、クリス・スレイドが当初のメンバーであった。
72年にファースト・アルバムをリリース。以前のマージー・ビート的なポップ・ロック路線から一転、マンのシンセサイザーをフィーチャーした、プログレッシヴ・ロックを追求するバンドとなった。
年に1、2枚のアルバムをリリースしたものの、一般的なポップ・リスナーからの受けは芳しくなく、シングル・ヒットとも無縁なバンドであったが、76年に大転機が訪れた。
万年地味を絵に描いたようなバンドがいきなり、全米1位の大ホームランをブチかましたのである。それがこの「Blinded By The Light(邦題・光に目もくらみ)」である。
76年リリースのアルバム「The Roaring Silence(邦題・静かなる叫び)」のオープニング・チューンとして収録されたこの曲は、7分余りという長さの大曲。
これをシングル・エディットして、先行リリースしたところ、見事スマッシュ・ヒットとなり、アルバムの売り上げにも大きく影響を与えた(全米10位)。
この曲は元々、米国のシンガー、ブルース・スプリングスティーンが73年、デビュー・シングルとしてリリースしたナンバー。それを約3年後に、アース・バンドカバーしたわけである。
正直言うと筆者は、アース・バンドがヒットさせた当時、元曲の存在をまったく知らなかった。このイカした曲が誰の作品か、気にも留めていなかった。おおかた、リーダーのマンフレンド・マンが作曲したんだろうなと、考えていたのだ。
もちろん、作曲したブルース・スプリングスティーンのことは知っていた。すでに74年の「Born To Run(明日なき暴走)」の大ヒットで、わが国でもけっこう人気を獲得していたからだ。
しかし、そこから遡ってデビュー・アルバム「Greetings From Asbury Park(アズベリー・パークからの挨拶)」を聴く、というほどファンでなかった筆者は、当然「Blinded By The Light」のオリジナルのこともまるで知らなかった。
インターネットもYoutubeもウィキぺディアも、いやプロモーション・ビデオさえなかった当時、洋楽関係の情報を入手するのは、とても難儀だったのだ。とにかく、レコード本体を手に入れる以外に、気になったアーティストの音を聴く手段は、ほぼほぼなかった。
というわけで、スプリングスティーンのオリジナルの存在を知り、実際に聴くのは、だいぶん後年のことになる。ロック・ファンとしては、お恥ずかしい限りだが。
そこで、二度ビックリ。プログレ系のアース・バンドがスプリングスティーンをカバーしたということ自体にも驚いたが、それ以上に、オリジナルとカバーがまるで別の曲のように聴こえたこともサプライズだった。
スプリングスティーンのオリジナルは、わりとオーソドックスな、R&B、ロックンロール的なスタイル。対してアース・バンドによるカバーは、緩急自在、変幻自在の万華鏡のようなプログレ・ハード・ロックだ。
言ってみれば、深淵を垣間見るような、奥深いサウンド。エコー、コーラス、シンセサイザーの使い方が実に秀逸だ。
歌い方もかなり異なり、少しラフなスプリングスティーンに対し、アース・バンドの当時のボーカル、クリス・トンプソンの方がよりテクニカルであり、繊細でもある(要するに、うまい)。
一聴して、同じ曲とは思えない。正直言って。アレンジの力ってスゴい!
だからこそ、リスナーにとってアース・バンドによるバージョンは、スプリングスティーンのカバーというよりは、まったくの新曲のように聴こえたのだと思う。
新鮮なものへの驚きこそが、ヒットの原動力。
アース・バンドはその後もアルバムをリリースし続け、いったん87年に解散したものの、91年に再結成して、なんと今もなお、活動を続けているという。
ヒット曲を出すことよりも、自分たちのやりたい音楽、質の高い音楽を追求することで、現在も地道にリスナーの支持を得ているのである。
ポピュラリティと高い音楽性の、奇跡の両立。マンフレンド・マンズ・アース・バンドは、それを具現化した稀有のバンドだと思う。
ただ一発のメガヒットといっても、とても並みのバンドには出せるものではない。リーダー、マンのサウンド感性は、ハンパじゃないと思うよ。