NEST OF BLUESMANIA

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音曲日誌「一日一曲」#346 トミー・マクレナン「Baby, Don’t You Want To Go」(Bluebird)

2024-03-17 08:23:00 | Weblog
2024年3月17日(日)

#346 トミー・マクレナン「Baby, Don’t You Want To Go」(Bluebird)






トミー・マクレナン、1939年のシングル曲。ロバート・ジョンスンの作品。

黒人ブルースマン、トミー・マクレナンは1905年ミシシッピ州デュラント生まれ。

地元でアコースティック・ギターで弾き語るスタイルの音楽活動を行う。RCA傘下のブルーバードレーベルで、1939年から42年の間に50曲近くのレコーディングを行い、シングルをリリースする。

10〜20代の頃は、2歳年上のシンガー/ギタリスト、ロバート・ペットウェイ(「Catfish Blues」でよく知られている人)と組んで演奏することが多く、ペットウェイのレコーディング曲中にも登場している。

マクレナンの芸風は極めて個性的だ。とにかく、歌もギターも荒々しいのひとこと。言ってみれば「輩(やから)」っぽいのである。

大人しく淡々と歌う多くのブルースマンたちの中にあって、異彩を放っていた。私生活での言動も、けっこうラフでワイルドなところがあったらしい。いわば、問題児ブルースマン?

本日取り上げる「Baby, Don’t You Want To Go」も、そんな彼の個性がよく現れた一曲だ。タイトルが原曲の歌詞の一節となっていることからすぐ分かるように、ロバート・ジョンスンの「Sweet Home Chicago」の改作である。

ジョンスンは36年にミシシッピ州ジャクスンでARCレコードのプロデューサー、ドン・ローと知り合い、同11月と翌37年の2回、テキサス州にてレコーディングを行なっている。「Chicago」はその第1回、サンアントニオのガンターホテルで収録されたもの。シングルは37年8月にヴォカリオンレーベルよりリリースされている。

マクレナンはこの新しいブルース・ナンバー(そのメロディや歌詞の一部は過去のブルース、例えば「Kokomo Blues」などから仮借したものではあるが)をさっそく取り上げて、自分流に改作して世に出した。もちろん、最初のカバー・バージョンである。

両者の違いは、聴き比べて見れば一目瞭然である。

ジョンスンの歌がいかにも弱々しく悲しげなのに比べて、マクレナン版は、どうにも力強く、ふてぶてしくさえある。「イェーイ」を連発し、最後はスキャットでジョークっぽく締めるなど「やりたい放題」感がある。

ギター・スタイルも大きく異なり、ブギ・ビートを淡々と刻むジョンスンに対して、マクレナンはジャカジャカと大きな音でかき鳴らす流儀。

そのためか、同じ曲にも関わらず、2曲はまったく別物のようにさえ聴こえる。

のちに多くのブルース・ミュージシャンに取り上げられることになる「Chicago」、そして作者ロバート・ジョンスンだが、30年代はまだまだ無名に等しかった。その中で、その存在にいち早く注目していたマクレナンは実に先見の明があったというべきか。

マクレナンのワイルドなボーカル・スタイルは、40〜50年代のエレクトリック・シカゴ・ブルース、特にエルモア・ジェイムズあたりに引き継がれたと言えそうだ。アク、エグみの強い彼らの歌声は、いささか聴き手を選ぶものの、強烈な個性を放っている。

アコースティック・ブルースの枠を既にはみ出して、のちの時代のロック・ミュージックさえも予感させるワイルド・ブルースマン、トミー・マクレナン。彼こそは、「裏ロバジョン」ともいうべき先駆者だったと思う。

荒くれ者のブルースに、ぜひ耳を傾けとくれ。




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