2024年3月22日(金)
#351 エリック・クラプトン「I Can’t Hold Out」(RSO)
#351 エリック・クラプトン「I Can’t Hold Out」(RSO)
エリック・クラプトン、1974年7月リリースのアルバム「461 Ocean Boulevard」からの一曲。ウィリー・ディクスン、エルモア・ジェイムズの作品。トム・ダウドによるプロデュース。
エリック・クラプトンについては今さら説明の必要もないだろうが、英国出身、60年代よりロックの第一線で活躍し、79歳の現在もなお、ライブ活動を続けているトップ・スターだ。
そんな彼にも低迷期はあった。ソロ独立を経て70年にデレク・アンド・ザ・ドミノスを結成したものの、うまく継続させることが出来ず、デビュー・アルバムで客演した親友デュアン・オールマンの死にショックを受けたこともあり、音楽を避けてヘロインやアルコールに逃避する日々が続いていた。
ようやくそれらへの中毒を断ち切り、ツアー・バンドを結成し、音楽の道に戻ったのが1974年。アルバム「Layla」(70年11月)以来、約4年ぶりにスタジオ・アルバムをレコーディングし、完成させたのが「461 Ocean Boulevard」である。
このアルバムで、クラプトンはそれまでの彼にはなかったさまざまなタイプのサウンドに挑戦している。本日取り上げた「I Can’t Hold Out」も、その一つと言えるだろう。
もともとこの曲は、黒人ブルースマン、エルモア・ジェイムズが60年にチェスでシングル・レコーディングした作品。アルバムでは「Talk to Me Baby」とクレジットされることも多いので、そのタイトルで覚えているブルース・ファンも多いだろう。
エルモアのオリジナルでは、彼のバックバンド、ブルームダスターズが演奏。サックスのJ・T・ブラウン、ピアノのジョニー・ジョーンズらである。
オリジナル版のアレンジは、いわゆる「ブルーム調」そのもの。ミディアム・テンポで、勇ましいシャッフル・ビートだ。
これをクラプトンは大幅にテンポを落とし、静かな演奏スタイルに変えている。
彼はシャウトすることなく全体的に物憂げな雰囲気で歌い、そして珍しくスライド・ギターも弾いている。これがなかなか味わい深い。
デレク・アンド・ザ・ドミノスでは、スライド・ギターを完全にオールマンに任せていたクラプトンが、「461 Ocean Boulevard」では、この曲や「Motherless Children」で、スライドの妙技を自ら披露しているのだ。
一方、バックのアルビー・ガルテンによるスローなオルガン・サウンドも、サウンドに奥行きと彩りを添えている。
クラプトンはこのアルバムにより、大音量の激しいロックを目指すのでなく、リラックスした自分流のロック・サウンドを生み出す方向に、見事にシフトする。いわゆるレイド・バックの誕生である。
その素材のひとつとして、エルモア・ジェイムズのブルースが選ばれ、オリジナルな歌い口、そして70年代ならではのロック味を加えることで、まったく印象の異なる曲へと再誕生させたのである。
スライド・ギターの響きひとつとっても、エルモアとは相当雰囲気が違い、時代の推移を感じさせる。どちらが優れているとかいうのではなく、ともに個性的で味があるのだ。
ブルースをロック感覚でアレンジした佳曲。筆者もこれで初めてエルモアというブルースマンを知り、オリジナルも意識して聴くようになった記憶がある。50年来、忘れることの出来ない名演である。