2024年3月21日(木)
#350 スレイド「Move Over」(Polydor)
#350 スレイド「Move Over」(Polydor)
スレイド、73年11月リリースのシングル・ヒット曲(日本のみでのリリース)。サード・アルバム「Slayed?」からのカット。ジャニス・ジョプリンの作品。チャス・チャンドラーによるプロデュース。
英国のロック・バンド、スレイドはウェスト・ミッドランド州ウルヴァーハンプトンにて66年結成。当初は「イン・ビトゥイーンズ」という名で、レコード・デビューしたものの不発。
その後、元アニマルズのベース、チャスト・チャンドラーのプロデュースによって、「アンブローズ・スレイド」として再デビュー。ファースト・アルバムを69年にリリースした。
しかしこれもヒットせず、チャンドラーは大幅な戦略変更を行う。サイケデリック・ロック的な方向から、ポップでタイトなロックにイメージを刷新する。バンド名も70年に「スレイド」とシンプルに改名して再スタート。
これが大正解、ティーンエージャーの女性を中心に、爆発的な人気を獲得したのである。
71年10月リリースのシングル「Coz I Luv You(だから君が好き)」で全英1位、全豪7位となる。
以来、「恋の赤信号」(71年)、「恋のバック・ホーム」「クレイジー・ママ」「グッバイ・ジェーン」(72年)と立て続けに大ヒットを出し、72年からは下位とはいえ、米国でもチャート・インするようになる。
結局、音楽的嗜好の違いもあって、米国ではほとんど人気を獲得出来なかったが、本国での人気はすさまじいものがあり、例えば本日取り上げた「Move Over」が収められたアルバム「Slayed?」は全英・全豪で1位を獲得している。まさに破竹の勢いだったのだ。
そんなスレイドは、日本では本来のターゲットであるティーンのウケはいまイチで、地味な人気しか出なかったものの、業界筋では「ただの流行り物のミーハーバンドで終わらない、しっかりとした実力を持ったバンド」という評価が、少しずつではあるが出てきた。72年にこのアルバムが出たあたりからのことである。
それを証明しているのが、この「Move Over」というジャニス・ジョプリンのカバー・バージョンだろう。この曲はジャニスの遺作アルバム「Pearl」のオープニング・ナンバーで、邦題は「ジャニスの祈り」。激しいビートとジャニスの渾身のシャウトが印象的な一曲。
稀代の女性ボーカリストの難曲に、スレイドは果敢にも挑戦したのだが、見事、カバーに成功している。
中でもリード・ボーカル、ノディ・ホルダーの衝撃的とも言えるハイトーン・シャウト、ベーシスト、ジム・リーのうねるようなベース・ラインが、聴くものの耳、そしてハートを捉えて離さない。ホルダーの歌心は、ジャニスの遺志をパーフェクトに継いでいる。
小細工を一切せずに、ストレートに原曲のグルーヴを再現したこのカバー・バージョンは、日本のちょっとうるさめのロック・ファン(筆者もそのひとりだが)をも、大いに唸らせたのである。
「スレイド、侮るべからず」
そう筆者に思わせた、日本限定のシングル盤。バンド本来のワイルドなロック魂を見せつけた本曲は、いまだに筆者の心の中で鳴り響いている。
かつて聴いたことがある人も、一度も聴いたことがない人も、隠れた名演をじっくりと聴き込んでみてくれ。