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音曲日誌「一日一曲」#357 ルリー・ベル「Everybody Wants To Win(Nobody Wants A Loser)」(JSP)

2024-03-28 13:28:00 | Weblog
2024年3月28日(木)

#357 ルリー・ベル「Everybody Wants To Win(Nobody Wants A Loser)」(JSP)








ルリー・ベル、1997年リリースのアルバム「Young Man’s Blues:The Best Of The JSP Sessions 1989-90」からの一曲。サン・シールズの作品。

黒人ブルースマン、ルリー・ベルは、1958年イリノイ州シカゴ生まれ。父親はマディ・ウォーターズをはじめとする数々のビッグ・ネーム・ブルースマンと共演してきた有名なブルース・ハーピスト、キャリー・ベル(1936年生まれ)。

いってみれば、ジミー・D・レーン、エディ・テイラー・ジュニアなどと同様、ジュニア(二世)世代のブルースマンのひとりである。

当然のように幼少期より父親や、その仲間たちのブルースに浸って育ち、6歳でギターを弾き始める。10代の頃から父キャリーをはじめ、エディ・クリアウォーター、ビッグ・ウォルター・ホートン、エディ・テイラーらと共演。

70年代にはココ・テイラーのバックをつとめた後、77年に父との共演盤「Heartaches and Pain」でレコード・デビュー。そしてハープのビリー・ブランチらと共にザ・サンズ・オブ・ブルース(SOB)を結成して、その名がよく知られるようになる。

しばらくバンドでのレコーディングが続いたが、89年にJSPレーベルよりついにソロ・デビュー。以来、デルマークレーベルを中心に、マイペースでアルバムをリリースしている。

本日取り上げた一曲は、ベルのファースト・ソロ・アルバム「Everybody Wants To Win」(89年)のタイトル・チューンとなったナンバー。

この曲は1942年生まれの先輩ブルースマン、サン・シールズ(本名・フランク・シールズ)が1980年にアリゲーターレーベルよりリリースしたアルバム「Chicago Fire」のラストに収められたナンバーである。

曲調は典型的なボックス・シャッフルというやつで、とても覚えやすい。ベルはソロデビュー前からこの曲を愛好して、よく演奏していたのであろう。アルバムの一番最初に置き、アルバムタイトルにもしていることから、それが伺える。

そして、この曲には、別テイクが存在しており、それが本日取り上げた、97年のアルバム「Young Man’s Blues:The Best Of The JSP Sessions 1989-90」に収められたバージョンである。

このアルバムは副題が示すように、89年から90年にかけてJSPで行ったレコーディング・セッションの中からの抜粋。その中で「Everybody Wants To Win」についてはあえて既発表のファースト・テイクではなく、別テイクを選んだのだ。

別テイクはミドル・テンポのファースト・テイクより、明らかにテンポが速い。こうすることで、この曲のカッコよさをさらに引き出せているように筆者は感じるのだが、いかがだろうか。

低めだがよく通るボーカル、そしてややクセの強い、突っかかり気味のシャープなギター・プレイ。それらがいずれもベルの個性となって、われわれリスナーの耳を魅力する。

そのギターはテクニカルで非常にスピーディにもかかわらず、昔ながらの泥臭いシカゴ・ブルースの伝統を感じさせてやまない。

80年代以降、多くの黒人ブルース・ギタリストが白人ロックを意識して、音色もフレーズもロック寄りに変化していった(バディ・ガイはその代表例だろう)のに対して、守旧派ともいうべきルリー・ベルは、昔ながらのクリーン・トーンと、クセの強いフレーズを貫いている。

今年66歳になるルリー・ベル。さすがに近年のライブは椅子に座って演奏することが多いが、昨年10月のニューオリンズのフェスティバルのように、元気のいい時はしっかり立って演奏することもある。そして彼がステージに登場するだけで、他のミュージシャンをすべて圧倒するような存在感がある。そのステージングは、ベルの若い頃は相当ヤンチャだったんだろうなと思わせる凄みがある。

生きているレジェンド、ルリー・ベルのライブを、今後日本で観ることは、たぶん叶わぬ夢なのだろうが、今はYoutubeがあるので、わざわざ渡米せずとも最新のライブを観ることが出来る。まことにありがたい時代である。